第54話 対抗策

 最後に背中を押すように、フォッシュが言い放つ。

 心を込めた自分の決意。



 無言の時間が続く。けれど、気まずいという感触はなかった。

 真剣なまなざしで、ペタンを見つめる。

 ペタンは、その真剣な目をじっと見ていた。


 そして、最後の一押しをフォッシュがささやくと、ペタンは一つ息を吐いてから、フォッシュに視線を再度向ける。


「それを、あなたに渡す。だから、私を信じて──」


「すまなかった。人間不信になっていた。協力してくれ。この国を守るために、お願いだ」


 良かった──。

 その言葉に、私もセンドラーもほっと一息つく。


 フォッシュは、表情が柔らかくなり。そっと言葉を返した。


「──ありがとう。受け取ってくれて、本当に嬉しかった」


「こっちこそ。俺のことを見捨てていなかった。それだけで、本当に安堵している」


 取りあえず、ペタンの誤解は何とか解くことができた。

 これから、どうしようか──。


 そう考えていると、ペタンが話しかけてくる。





「突然だが、この後、この件についての対策会議がある。同席をお願いできるか?」


 対策会議? ツイてるツイてる。答えなんて、決まっていた。


「大丈夫です。よろしくお願いします」


 フォッシュの表情がはっと明るくなる。同感、渡りに船じゃんこれ。


「私も、参加させてもらうわ。これからよろしくね」


 二つ返事で私は言葉を返す。

 そして私達はペタンについて行き、会議に同席するために道を歩いていった。


 先日の会議室とは違う手狭な会議室。

 整った石畳の床に、五、六人が座れそうな木でできたテーブル。


 入口から一番奥にある席に、一人の人物がいた。


 長身で、長い黒髪の男性。

 黒いタキシードを着て、眼鏡を付けているいかにも知的そうな人。




「執事のロストだ」


「ペタン様──そちらは?」


「ああ、急遽助っ人を呼んだんだ。こいつらは助っ人のフォッシュと──」


 ペタンは、私の名を知らない。どうしよう、流石に本名をしゃべるのは──。


(秋乃、ちょっと変わって)


 センドラーが話しかけてくる。焦っているような口調。どうせ私ではいい答えが出そうにない。


(わかったわ)


 すぐに人格を交代。一瞬気が遠くなる感覚がして、センドラーが私の体に乗り移る。


 センドラーはきりっとした表情になり、口を開く。


「センドラーです」


「えっ? あのセンドラー?」


 その言葉に二人は驚愕。周辺国だけあって、会ったことはなくても名前は知っているようだ。


「うんごめんね。実は私、センドラーなの。フォッシュの話を聞いて、この国の手助けになればいいって思って、ここに来たの。よろしくね!」


 ほ、本名言っちゃった……。彼女のことだから、考えがあって行ってるとは思うけど、やはり心配になる。


 周囲は唖然。


「大丈夫よ。私、しっかり力になるから!」


 センドラーは作り笑顔を浮かべ、握りこぶしを作る。

 ペタンとロストは、突然のことだからか戸惑いながら互いに顔を合わせる。


 しばしの時が立つと、ペタンは一つ、大きく息を吐いてセンドラーの方を向く。


「──わかった。あのセンドラーが協力してくれるなら心強い。お願いだ。力になってくれ」


「分かったわ」


 取りあえず、受け入れてくれたみたいだ。良かった。


 そして、会議が始まる。

 まずはロスト。襟を正して、座りながら頭を下げる。


「私はペタンの懐刀をしておりますロストです。参謀役をしております。よろしくお願いします」


 ロストさんはサッと手を出すと、センドラーは「こちらこそよろしく」と丁寧に言葉を返す。

 そして手を出し握手。改めての自己紹介だ。


 ロストさんは眼鏡をくいって上げると、早速話の本題に入って行った。



「話の本題に入りましょう。話はバルティカの合併阻止でしたね」


「そうだ。オオカミたちの奴らが、自分たちが住んでいるヘルゲン地方を合併させようとしている。できればそれを阻止。最低でもヤツらが所持しているグラル銅山だけは守るようにしたい」


「それだけじゃないわぁ。できるだけ強権を使わずに、この国の決まりに沿ってそれをさせたいわねぇ。でしょう、フォッシュ」


 センドラー、腕を組みながらすでに話に入っている。出会ったばかりなのに、もう堂々と口を挟んでいる。

 その図々しさが、私にはうらやましい。


「は、はい。いくら裏切りや騒動があっても、もとは同じ国民。あまり争いはしたくないです」


 フォッシュの、戸惑いながらの言葉。やはり同じ国民としての意識があるのだろう。


「つまり、議会で過半数をとれるようにすればいいんですね」


「ああ。何とかオオカミの奴らから票を奪いたいのだが──」


 右手で頭を抑えるペタン。簡単ではないというのは、私でもわかる。

 変に優遇すると、別の亜人からも「俺も俺も」となるだろう。


 そもそもいくら票のためとはいえ、特定の亜人を優遇すること自体が「癒着」であり、それが常態化したら国自体が賄賂が当たり前になって腐敗してしまう。


「過半数をとる。であれば、逆の発想をとればいいのでしょうか」


「というとぉ?」


「票を奪い合うのではありません。票自体を増やしてしまえばいいのです」


 票を増やす。突拍子もない言葉に、私はきょとんとする。


「どういうことだ?」

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