第53話 思いを込めた、首飾り
私達は、しばらく余韻に浸った後、すぐにベッドに入る。
明かりを消し、ベッドで横になりながら考えこんでいると、私の顔の前で座っているセンドラーが話かけてきた。
(大丈夫かしらねぇ。ペタンの奴、聞いた限りだと、相当疑心暗鬼になってるみたいよぉ)
(大丈夫でしょ!)
(根拠は?)
(フォッシュの目。自信を持っていて、やれるって思い込んでいる。あれなら、絶対できるって。それに、他に方法なんてないし……)
そうだ。この件は、私が顔を出したところで逆効果になるだろう。「もうラストピアの人間を連れてきたのか!」って反論されるのが目に見えてる。
(そうねぇ。まあ、どうせつまづくと思うから、どこかで助け船は出しましょう)
(そうね……)
いろいろうまくいかないな……。
でも大丈夫。二人とも悪いやつじゃない、国民のことをしっかり考えていて、自分のやるべきことをやろうとしている。
ただ、今はその想いにすれ違いがあってうまくいかないだけなんだ。
何がうまくいかないか一緒に考えて、絶対にこの問題を解決しよう。
次の日から、フォッシュは動き始めた。
手紙に、自分が裏切り者でないこと、ペタンのことを信じているということを書いて、渡そうとする。
最初は断られ、受け取った手紙を読みもせずに捨てられてしまった。
それでも、フォッシュはあきらめない。何度も、彼のところに向かい、手紙を渡そうとする。
──が、結果は同じ。
手紙は捨てられ、破られ、読まれない。
数日後、意気消沈するフォッシュ。
「ふう……。これが現実ですか。やはり、私なんかがではダメなのでしょうか」
「う~~ん。現実は甘くないかあ」
ただ呼びかけるんじゃだめっていうのは私もフォッシュもわかった。
呼びかけるだけじゃ──じゃあ、これならどうかな?
私は、一言助言をした
「あの様子じゃ。いくら渡そうとしても、そのままではずっと受け取ってもらえないと思う」
「そ、そうですか……。では、どうしましょう──」
しょんぼりとした様子で、うつむいているフォッシュに、わたしはさらに言葉を進めた。
私の言葉が答えである保証なんてない。
けれど、どうすれば疑心暗鬼に陥っているペタンに届くのか、本気で考えて出した答えがこれだ。
「多分、失望ってものあると思う。最初は、信頼していたんだよ。それが、ラストピアにいるってわかって、裏切ったんだって、心の底で思い込んじゃっている」
「確かに、そうですね……」
「だから、まずはそれを崩さなきゃいけないと思うの。どんな言葉よりも先に、そうじゃないって思ってもらう……。う~~ん、例えば二人が一緒にいた時の思い出とかがあればいいんだけど──」
「思い出させて……。ですか、それなら──ありがとうございました」
フォッシュは何かを思いついたようにはっと表情が明るくなる。
今の言葉で、何かわかったのかな?
「ごめんね……あまり気が利いた事言えなくて」
「いえいえ──。一つ考えが浮かびました。私、どうすれば自分の考えが通るかばかり考えていて、センドラー様の話を聞いて初めて気が付きました」
「そ、そう……。ありがと」
「私に一つの考えが浮かびました。ありがとうございます。やってみます」
そしてぺこりと頭を下げた。
なにかはわからないけれど、私の想いが伝わって何よりだ。
それから、明日は私にも来てほしいと言われた。
大丈夫なのかと戸惑う私だが、私がいた方がいいと言われ素直に首を縦に振った。
次の日、同じようにフォッシュはペタンのところに向かう。私と一緒のところ以外は今までと同じように──。
王宮の中。どこかボロボロな赤絨毯の道。
イライラしながら兵士たちに指示を出しているペタンの姿。
そして再び手紙。一瞬視線が合う。
「またかよ」とでも言いたげな、にらみつけるような警戒を前面に押し出した視線。
「これを、受け取ってくれ」
そう言ってフォッシュは一通の手紙を差し出した。
自信に満ちた、自分はできると言わんばかりの視線。
よく見ると、ただの手紙ではない。
そこには何かが入っているようなふくらみ。
それに気が付いたのかペタンははっと表情を変えると、その手紙をペタンからスッと受け取り、封を開け中身を呼んだ。
そこにあるのは手紙と、木でできた一つの首飾り。
星の形をしていてる。高級感はない。恐らく、どこかの雑貨屋で買った安くてありきたりなものだろう。
「覚えているか? ペタン」
「ああ──」
「私が地方領主の娘だった時代、初めて会って、互いに国のことや、一緒に互いの国民のために頑張ろうって意気投合して、別れ際にお前が渡したものだ」
「そうだフォッシュ。貧乏だった俺は、お前に何か渡そうとしても、こんなものしか渡せなかった」
ペタンはそれに後悔を感じているせいか、うつむいていて声色がどこか暗い。
しかしフォッシュはそれを打ち消すかのように、強い口調でさらに言葉を進めた。
「大丈夫。私にとってはこんなものではない。だからこそここまで大切にとっておいた。 最後に、思い出してほしい、これを渡して、お前は言っていたな。互いに人々のために頑張ろうと──」
「確かに……」
その言葉を聞いた瞬間、ペタンの表情が変わった。
今まで私達に向けていた疑いの表情。
それがはっと抜け落ち、どこか戸惑いを見せじっと視線をフォッシュに向ける。
「思い出してくれ。私は、力になりたい。だから、私達を信じて──お願いだ」
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