第51話  疑心暗鬼

 本当にどうしよう……。


(とりあえず、オオカミの亜人の──ガルフだっけ。あいつを調べないことに変わりはないわ。それと、彼だけじゃない。その周囲も、全部ね)


「そん時は、あなたに任せるわ」 センドラーが言ってるなら、そうなのだろう。この前、バルティカにブルムの奴が来ていたのも気になるし。


 本当に、面倒なことになっちゃった。

 あ~あ、どうしたもんかね。


 どうしたもんかと考えこんでいたが、なかなか有効な手立てが見つからない。

 う~~んとうなだれた後、センドラーに話しかける。




(センドラー。あんた、うらやましいわ)


(いきなりどうしたの?)


 こんなことがあってもセンドラーは冷静に物事を分析し、何をすればいいか理解している。

 素晴らしいの一言だ。私が頭が真っ白になっても、後ろで的確に物事を考えてくれる。


 ここまで頼もしい存在は、生まれてこの方彼女だけだ。


 そんな事を、照れながら伝える。

 センドラーは、真顔で窓の外から星空をじっと眺めていた。


 何か、考え込んでいるのだろう。そしてため息を一つついて言葉を返してきた。


(私からすれば、あんたの方がずっとうらやましいわ。いつも正論で殴ってばっかり。周囲との亀裂を生み、気が付けば立場を失い。追放)


 確かに、人との接し方に関しては、問題があると思う。何でもかんでも強気に行って、すぐにこじらせる。


(その点あなたは、誰とでも言葉を交わせて、仲良くなれて──気が付いたら周りがついてきて)


 ──隣の水は青く見える。ということだろうか。


 確かに、私は昔の自分を取り戻してから、周りと溶け合うことが当たり前になった。


(まあ、無いものねだりをしてもしょうがないわぁ。互いに長所を生かして、頑張りましょう)


(そうね。これからも、よろしくね)


 そして私とセンドラーはベッドで隣り合わせに横になり、天井を見つめる。


 今回は、以前よりも複雑な問題になってしまった。

 どうすればいいかっていうのは、私にはまだ答えは出せない。


 けれど、みんなのことを知って理解すれば、何かがわかりそうな気がする。




 そんな事を考えながら、私は夢の中へと入って行った。










 フォッシュ視点。


 私は、センドラー様の元を離れ、街の中心部の酒屋へと向かった。

 そこは、こじんまりとしていて、手狭などこにでもある酒屋。


 しかし、私にとってはゆかりのある場所。


 小さい頃は先代の国王様とよくこの店で食事をしていた。

 一般人も交じってこの国の展望を話したり、困っていることを聞いたりしていた。


 夜も遅いせいか、人気はまばら。カウンター席に座った瞬間、入口の扉が開き自然と視線が移る。


「久しぶりだね、ペタン。こうして酒屋で飲みあうのも」



「そうだなフォッシュ……」


 そう、約束したのだ。また二人で飲み明かそうと──。


 彼の表情が、どこか暗い。やはり気にしているのだろう。自分たちの王国が併合されてしまうかもしれないということを──。


 何とか、彼を勇気づけてあげないと……。

 マスターがメイン料理と酒を持って来た。酒は二人ともロック。

 私は何とか笑顔を作って、話しかける。


「なんか、大変な事になっちゃったね」


「ああ。けど、絶対渡すわけにはいかない。この国は、父さんが命を顧みず、何もない土地に行き場所をなくした人たちを集めて作った国だ」


 ああ、ペタンは、倒産のことを警戒していた。父さんが病気で職務が体力的に難しくなり後を継いだ後も、お父さんの想いを無駄にしまいと、いつも精一杯国王としての責務を全うしてたのは、私も理解している。



「私、協力するよ。そのために、今日は話をしに来たんだ──」


 私の言葉に、フォッシュは表情をはっと変えてこっちに視線を向けた。

 やはり、まだあきらめたわけではないようだ。


 私はロックの入ったグラスを置き、胸に手を当てながら話し出す。


「私、あなたと別れた後、ラストピアに実力を買われたんだ。流石に高い身分ってわけじゃないけど──、あなたのために役に立てると思って。私、力になるよ」


 するとペタンの表情が一気に青ざめていく。

 それを見たフォッシュが彼の感情を察し、慌ててフォローをしようとする。


「ラストピアって、お前スパイだろ!」


「だ、大丈夫だよペタン。別にマリスネスの敵になったってわけじゃないから。味方になって絶対に救って見せるから」


 しまった、うっかりしていた。彼は今、オオカミの亜人達に裏切られて疑心餡着になっているのだと。何とか誤解を解かなければいけないと──。


 しかし──。


「ウソをつくな。そんな耳障りな事を言って、最後は寝返るに決まっている──。あいつらの様に」


 だめだ……。私はロックのは追った


 今のペタンは仲間だと思っていた側近たちに裏切られた直後。

 あまりの精神的ショックに人間不信に陥ってしまい、自分の周りがすべて敵に映ってしまっている。


 だから、私がいくら助け舟を出そうとしても、それが信じられないのだろう。


「俺は、絶対にこの国を守って見せる。あんな奴らには、絶対に渡さない」


「待ってくれ、話を聞いて──」


「信じられるか、この敵のスパイが。この国は絶対お前達には渡さない」


 ペタンは私の話を聞かずに、代金の支払いをした後この場を去って行ってしまった。

 私、しばらくの間呆然としてしまう。


 うぅ……しまった。どうしよう。



 その後。残りの食事を終え、ホテルに帰っていった。

 まずいな──。


 こんな結果になるなんて、思いもしなかった。がっくりと落ち込んでしまう。最悪の展開だ。

 私は、どうすればいいんだ……。




 次の日、私は、センドラー様に相談した。

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