《 第16話 妹 》
王都に帰りつく頃には、夕方になっていた。
お姉さんとは駅前で待ち合わせをしているらしく、彼女とはここでお別れとなる。
「本当にお世話になったです! ドラミちゃんも楽しいお話をありがとうです!」
「また聞きたくなったら話してやるのだ!」
「クエスト頑張ってね」
「はいです! いっぱいクエストして、いつかジェイドくんみたいになってみせるです!」
手を振る彼女――マリンちゃんに手を振り返し、僕たちは駅前をあとにする。
道行くひとたちの挨拶に返事をしつつ歩いていると、ドラミがあくびをした。
「ものっすごく……眠いのだ……」
「無理ないよ。列車じゃしゃべりっぱなしだったんだから」
昨日から寝てないドラミは、歩きながらうとうとしている。
目の前にベッドがあったら飛びつきそうだ。
急げばギルドに間に合うけど……今日はのんびり過ごそうかな。
ドラミを背負い、家へ向かう。
「ドラミ、家に着いたよ。ドラミ」
「んむ……ここまで来たら、流れでベッドまで運んでほしいのだ……」
「まずは風呂に入りなよ。森をうろついて、しかも落とし穴まで掘って、そのままの格好なんだからさ」
「ドラミは良い匂いがするので問題ないのだ……」
「臭くはないけど……服が汚れてるから、せめて着替えようよ」
「ここまで来たら、流れで着替えさせてほしいのだ……」
着替えさせる流れにはなってないんだけど……。
まあいいや。ささっと着替えさせちゃおう。
ドラミを脱衣所へ連れてき、リュックから着替えを取り出す。
「脱がすからバンザイして」
「バンザイ……」
「立ってバンザイしないと。寝てたんじゃ脱がせられないよ」
「もうここで寝るのだ……」
ドラミはすっかり睡眠モードだ。
こんなところで寝たら、起きたとき身体が痛くなってしまう。
「しっかりしないと、マリンちゃんにがっかりされちゃうよ。せっかくドラミのこと尊敬してたのに」
「……尊敬してたのだ?」
「してたよ。ドラミのこと、尊敬の目で見てたよ」
ドラミはスッと立ち上がり、きりっとした顔でバンザイする。
けっきょく僕が着替えさせるのか。
ドラミをすっぽんぽんにすると、下着と服を着せてやり、ベッドへ運ぶ。
「さてと」
寝る前にひとっ風呂浴びようかな。
じゃないと、せっかくのガーネットさんの香りがするベッドが臭くなっちゃうよ。
そうと決めた僕は風呂に入り、身を清めて寝室へ。
ベッドに入り、うとうとし始めたところ――
のっそりと身を起こし、ドラミが僕の身体をゆさゆさと揺さぶる。
「……なに?」
「お腹が空いたのだ……」
「いまから寝るところなんだけど……二度寝しなよ」
「お腹が空いて眠れなくなったのだ……」
「わかったわかった。近場でいい?」
「どこでもいいのだ。骨付きの肉で、こってりとした味付けのものが食べたいのだ」
どこでもいいと言う割りに注文つけるんだから。
近場にあるし、べつにいいけどさ。
「じゃあ行こっか」
「行くのだ!」
ドラミを連れて家を出る。
すると、
「ジェイドくん! ドラミちゃん!」
幼い声が響いた。
星が満ちた夜空の下、街灯に照らされた道を歩いてこちらへ近づいてきたのは――
「……!?」
マリンちゃんと、ガーネットさんだった。
えっ! どうしてガーネットさんと一緒に!? しかも手なんか繋いじゃって!
迷子になっていたところをガーネットさんに助けられたとか?
でも迷子になったにしてはマリンちゃんは不安がってないし、そもそも待ち合わせをしてたんだから迷子になりようがない。
だとすると……
「こ、こんばんはガーネットさん」
「こんばんは。マリンから聞いたわ。妹にお金を貸してくれて助かったわ」
やっぱりそうだ!
マリンちゃん、ガーネットさんの妹だったのか!
てことはガーネットさん、僕のこと『ジェイドくん』って呼んでるの!?
しかも僕を『頑張り屋』だって褒めてくれてたの!?
嬉しすぎるんですけどォ!?
「お金は返すわ」
「い、いいですよ! 困ったときはお互い様ですし!」
「マリンだと返済が遅れるかもしれないわ」
「構いませんよ! 急いで返さなくても!」
「あなたには助けられてばかりだわ」
「気にしないでください! お隣さんですし、それに……と、友達ですから!」
「お姉ちゃん、ジェイドくんと友達なの!?」
「友達よ」
ひゃっほう!
ガーネットさんが『友達』って言ってくれた!
「ここで会ったのもなにかの縁です! せっかくですから一緒に食事しませんか!?」
僕は勇気を出して誘ってみる。
ガーネットさんと食事をしたことはあるが、僕のほうから誘うのははじめてだ。
これを受け入れてくれたら、遊びとかにも誘いやすくなるんだけど……
「さっき食べたばかりよ」
「そ、そうでしたか……」
「食事はまた今度でいいかしら?」
えっ! いいの!?
いつか食事してくれるの!?
やった! ガーネットさんと外食できる!
「もちろんです!」
「ではもう行くわ」
「はい、お気をつけて!」
「ジェイドくん、ドラミちゃん、さよならです!」
「さよならなのだ~」
幸せ心地でガーネットさんたちと別れ、僕たちは食事処へ向かうのだった。
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