第53話隣国の王子ルートも回避させていただきます!

 レイナス・リンドバーグ。隣国『カグラニア』の第二王子で、ヴィセルフとは幼少期より旧知の仲。

 甘いルックスとその物腰の柔らかさからゲーム内外で人気の高い、実は策略家な腹黒王子。

 おまけに属性の異なる"魔岩石"を二つも装備しているという、いわゆるチート設定まで持っている。


(確かゲームでは、攻略対象キャラの中で一番に華やかなラストだったんだよね)


 なんといっても第二王子の婚約者になるのだもの。

 婚約のお披露目から結婚式、その後の生活も豪華絢爛!

 卒業パーティーで発生する婚約破棄イベントでの演出もドラマチックで、レイナスはエラの眼前で堂々と片膝を付き、


『アナタを知ったあの夜から、ずっとアナタだけを恋い慕っておりました。どうか僕を信じ、今この時からは僕の愛すべき婚約者として、共にこの先の未来を歩んではくれませんか』


 そう言ってエラの瞳とよく似た色の魔岩石がはめ込まれた、ブレスレットを差し出す。

 この時のね!! 涙交じりに微笑むエラがまた儚げで美麗度マックスで!!!!!


 ともかく、レイナスの申し出を受けたエラは、婚約者として隣国へ。

 それまで過ごしたラッセルフォード王国よりは小国ながらも、自然豊かなカグラニアはエラを癒してくれて。

 更には住民たちも「やっとのことでレイナス様にもご婚約者が!」とお祭り騒ぎ。

 国王夫妻ならびに第一王子とそのご婚約者にも温かく迎え入れられ、才色兼備で心優しいエラはあっという間に国中で人気者に。


 新たな国での作法や歴史を学びつつ、王宮でレイナスのあっまあまな愛を受けていたある日。

 エラは白の魔力に目覚め、『加護の白姫』として更に敬愛を注がれることになるのだ。


 ああ……『加護の白姫』として着飾ったエラの姿、この目で見てみたい……!

 って、ダメダメ。だってレイナスルートでも、ヴィセルフはやりたい放題からの破滅エンドなのだから。


「は! 俺の"使い古し"を拾っていくたあ、テメエは相変わらず"優しい王子様"だな!」


 幸せそうに手を取り合って会場から去る二人に、なんとも許せない暴言を浴びせたヴィセルフ。

 なんと彼はこの一件を理由に、カグラニア王国との絶縁を宣言してしまうのだ。


 おかげで市場は大混乱。

 その他諸国も、いつ友好関係を切られるか分からないと徐々に寄り付かなくなってしまい、いつしかラッセルフォードは閉ざされた国に。

 そんな我が国とは反対に、開けた貿易を次々と推し進めていったレイナス達は、どんどん諸外国への影響力を増していくのだ。


 やせ細っていく国内。

 そして遂には飢えた民衆が暴動を起こし、ヴィセルフ並びに王族派は処刑されてしまう。

 とはいえ次の指導者がなかなか決まらず、この国は長らく混沌とした暗黒期を送ることになるのだ。


(ひええー! やっぱりレイナスルートも絶対阻止しないと!!!!)


 でも、おっかしいなあ……。

 レイナスって、確かエラに一目惚れの設定だった気がするんだけど……。


(だから一度レイナスルートに入ってしまえば、レイナスの方からガンガンアプローチかけてくるんだよね……)


 ただし気を付けないといけないのは、あくまで"ヴィセルフの婚約者"として、レイナスには頑なな態度をとること。

 早い段階で少しでも好意的な選択肢を選んでしまうと、「どうやら僕の思い違いだったようです」とバットルート一直線なのだ。

 ううん、ちょっと面倒くさいねレイナス王子……!


(レイナスルートの解放条件は、美容やら装飾品やらに気を配って、美貌ステータスを上げるんだっけ……)


「美貌……エラはいつだって敵なしな麗しさじゃん……」


 こんなんじゃいつルート解放されるか分からないし……!

 なんならもう解放されているのかもだし……!


「でも今のところ、レイナスからエラにアプローチをかけてる様子はないからなあ……」


 やっぱりルート解放の最低条件として、学園入学が必須なのかな?


「って、いけない。そろそろ行かなきゃ」


 壁掛けの時計を確認した私は、慌てて廊下へと踏み出す。

 昨日の今日で胃腸も疲れているかなと、今朝の紅茶は擦ったオレンジの皮とジンジャーシロップのお紅茶を用意した。

 もちろん蜂蜜はたっぷりで!


「おはようございます、ヴィセルフ様。お目覚めの時間でございます」


 ノックと共に部屋に入ると、ヴィセルフは既に起きていた。

 なんだかいつもよりも不機嫌そうで、腕組までしている。


「あれ? もしかして昨晩は、あまりお眠りになれませんでした?」


 カーテンを開けて気づいた隈に首を傾げると、ヴィセルフは眉間を揉みながら「考え事してたら朝になった……」と低く言う。


「え、もしかして徹夜ですか!?」


「いや、うつらうつらはしてた……と、思う。記憶がねえ」


「ダン様にお伝えして、午前のご予定に融通を効かせていただきましょうか?」


「いらねえ」


 ヴィセルフは私から受け取った紅茶を一口嚥下して、ふーっと深いため息をつくと、


「アイツが居やがるからな……。何を言ってきやがるかわかんねえ」


「……ヴィセルフ様、本当にレイナス様と仲がよろしいようで」


「ふざけんな。アイツが一方的に突っかかってきやがるだけだ」


 そうなのだ。実は昨日のお茶会から、レイナスはこの城に暫く滞在することになっている。

 確かにゲームでも、学園に通うレイナスはこの国に遊学に来ていることになっていたけれど……。


(いつから滞在しているのかとか、細かい設定は出てなかったしなあ……)


 昨日レイナスは「帰れ!」と拒絶するヴィセルフに、「ちょっと予定が早まっただけですよ」と微笑んでいたから、おそらくゲームの設定よりは早まっていそうな。


(それってやっぱり、あのお茶会でエラと言葉を交わしたからなのかな……?)

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