第21話「悪友にありえない事が……」

「孝也」


 翌日の朝のホームルーム前に吉崎が話しかけてきた。

 俺は昨日一晩、自己嫌悪に陥っており、色々悩んでいて、機嫌が悪いのだ。ぜひとも話かけないでもらいたい。


「孝也」


 聞こえないふりをして、朝方、自販機で買ったはちみつ柚子茶に口をつける。ああ、うまい糖分も補充できて、少しは思い悩んだ頭がすっきりしそうだ。


「孝也」


 ちっ、うざいな。話を聞くまで名前を呼ぶのをやめないつもりか、こいつは。


「……あー、はいはい、分かったよ、なんだよ、手短に頼むぞ」

「ふふん、景気の悪そうな顔をしやがって、どうやらお前うまくいってねーみたいだな」


 吉崎はフフンと何故か余裕の表情。朝っぱらからイラッとくるな。


「そんなのお前だって同じだろうが、あれだろうミスコンの相手には全員きれいに振られたんだよな。ご愁傷様。お前の相手してくれる奴はいるよ、主に二次元とか、お前の奇行をみても画面ごしから笑ってみてくれるよ」

「……テメーにはよく分からせねーと駄目みたいだな」


 気の短い吉崎が、怒りに任せて怒鳴り込んでくると思ったら違った。スマホを取り出し、画像を見せてくる。


 女の子だった。


 データ的には二次元だが、三次元に存在する女の子。

 しかも少しお姉さんっぽくて控えめにメイクされた顔には気品がみえる。


「今度、一緒に遊びにいくんだよ、この人と」

 ドヤ顔をする気品のかけらもない吉崎の顔を見て、俺は失笑。


「えっ、なに? お前なんか脅したの? この人の事」

「脅したって、テメー、人聞き悪すぎだろ!」

「あっ、じゃあ、なにそういう店の人か? お前高校生なのにやめろよ、そういうの」

「誰がそんなところ出入りしてるか! お前ふざけんなよ!」


「ああ、あれか、自作自演か? どっかのSNSの女の子の画像、無断借用したとかそういう落ちか、……お前いくらもてないからってそういう事すんなよ、寂しい奴だな」

「……テメーが俺のことをどう思っているのかはよく分かったけどよ。正真正銘、れっきとした女子大生だよ。痴漢されている所を助けたら、そっから仲良くなって、今度遊びに行くことになったんだよ! 現実を理解したか、孝也!」 


 コイツガナニヲイッテイルカリカイデキナイ。


 俺は頭をとんとんと叩く。

 いっている日本語の意味をよみとるのにこれ程、苦労する事はない。


 とりあえずはちみつ柚子茶の補充だ。

 ごくごくごくごくごくごくごく、ごっくん。


 ああ、飲み干してしまった。頭が冴えてしまった。これは紛れもない現実なのか!?


「なんか彼氏と別れたばかりみたいでよ、今週の終末、予定空いているんだとよ。ちょっと二人でご飯とか食べにいこうかって話がでてんだけど……もうこれはあれだよな、後は告白して終了みたいな感じ?」


 それはデットエンドフラグだ。


 というかデットエンドフラグとしか思いたくないフラグだ。絶対しっかり振られて回収しろ。


「えっ、なになに、なんの話してんの?」

 いつもは横沢に対して、俺と一緒にうざったい顔をするくせに、ウエルカムな表情をする吉崎。


「俺にもとうとう彼女ができそうなんだよ、孝也と違って」

「おお、すごいじゃん、仲間だね」

 ハイタッチしあう吉崎と横沢のうざさといったらない。


「……吉崎、お前、あんまり調子にのんなよ? 足元すくわれるぞ」

「ああん? 負け犬がなにかいってるけど、それじゃあ、お前うまくいってんのか? 付き合えそうなのか? あの風紀委員長と」


 付き合えるどころか、親密度がますどころか、迷惑のかけ通しである。KKMは増える一方だし、神谷も余裕がなくなって更に暴走し始めるし、そんな神谷に対して、俺も知らない間になんだか傷つけてたみたいだし、そんな奴に女の機微が分かるはずもない。


「ハッハー! どうやら無理みてーだな。この勝負、俺の勝ちかー、そうかー、じゃー罰ゲームの用意しとかねーとな。まあ、紙をガムテープでつけろとはいわねーよ、制服だって高ぇーし。まあ文字は分かりやすいよう極太マジックでかかせてもらうけどな。写真は毎時間とってやるよ。オブジェクトにその時間受けた授業の教科書なんかもおいてな。いい思い出だぜ、孝也!」


「――ぬぬぬぬぬっ」

 屈辱に耐える俺。


 吉崎ごときになにもいえなくなってしまう、この恥辱理解してもらえるだろうか。

 すぐに暴走しがちな吉崎に近づく女子などいないと思っていたのに、あれか出会い方がポイント高かったのか? それともあれか、年上だし、多少吉崎が失礼な事いってもかわいい奴で、すませてしまえるのか? 大人の余裕って奴ですかー、かっこいいいですね。


 ――ちくしょうめ!

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