第15話「俺はそんな奴じゃない」

「樋口くん、どういう事なの?」

 生徒指導室に連れ込まれ、ソファーに座り、俺はユッキーから詰問を受けていた。


 ちなみにこれが第一声である。

 ユッキーにこそ問いたい。一体どういうことなのか。


「えっと、あのまず主題がないと訳が分からないんですけど……」

 当然ながら俺は説明を求める。


「神谷さんの事です」

 当然のごとくユッキーはいってくる。


 とりあえず嫌な話題であり、その話題はしたくないなと思っていた。しかしまたタイミングが悪い。


「はあ……」

 気のない返事しかできない俺にユッキーは『しらを切るつもり?』と俺が全て分かっているかのような物言いをしてくる。


「いいでしょう。説明しましょう。最近、なにか組織的に神谷さんを追いかけまわす人たちがいるみたいですね?」

 何故か俺が悪いようにユッキーは立ち上がり俺の周りを歩き話し始める。


「今までも神谷さんが他のクラスの人と多少の問題を起こした事がありましたけど、個人対個人の事ですし、そこで終始するような事ばかりだったので、よくはない事ですが、そこまで問題にされていませんでした」

 まるで俺がなにか尋問を受けているかのような空気がきついんですが。


「しかし、最近神谷さんを追いかけまわす人たちが現れたせいで、風紀に関わる問題として、取り上げられ始めています」

 吉崎に聞いた話から、また人数増えてるのかなと、嫌な気持ちになる。

 そこで、びっ、と細い人差し指を俺に指し示し、ユッキーは述べる。


「なんで神谷さんをかばって、守ってあげてないんですか!」

「守るもなにも知りませんよ、俺は。普段から神谷といるわけじゃないし。教室での事ならまだしも、他のところの事まで把握できてません。でも、どうせあいつが殴り倒しているんでしょう。いつも通り神谷は加害者じゃないんですかね」

 俺は辟易してそう答える。


 あえて人の嫌がる事をいってしまう奴らも奴らだが、神谷も神谷だ。どちらとも俺からしたら害悪である。


「なにをいっているんですか。一人のか弱い女の子が複数の生徒にからまれていて、学級委員または一男子として何も気付いていないとか、樋口くん、見損ないますよ、私は。私のフィアンセなんて自分の親戚の子にまで気をかける、気配りのできた人なのに、同じ男として恥ずかしくないんですか」


 か弱いとか笑っていいところなんだろうか、今のは。いやいや殴られた腹筋が痛くなるのでやめて欲しい冗談だ。そしてのろけ話をいれるのはやめて欲しい。


「手助けもなにも関与したら、俺が殴り倒されるから余計風紀が乱されるんですけど」

「大丈夫、樋口くんが殴られるのは甘えられているだけだと、先生が職員会議でいっておきますから問題ないですよ」


「問題大ありですよ! 甘えられているとか、そんな訳の分からない勘違いを他の先生たちに広めないで下さい! 第一、俺の体がもちやしませんよ! どっちかっていうと追いかけまわしているそいつらKKMの連中のほうがそういわれて喜ぶんじゃないですかね!?」


「……KKMというんですね」

 目を細めユッキーはしてやったりの表情をして俺の真横にたち、顔をよせてくる。


「なんだ、ちゃんと知っているじゃないですか。そういう名前の会なんですね?」

 細い指を肩にのせられて、俺はうろたえてしまう。


「いや、知っているのは名前くらいで」

「よろしい。では、当然、樋口くんの事だから、対応策も考えているという事ですね。よかった、よかった。心配していたんですけど、問題は解決したようなものですね」

 うんうんと勝手に頷くユッキー。


「あの、どういう……」

「樋口くんが神谷さんとKKMの間で問題を起こさなくしたら、私は職員会議で樋口くんが神谷さんに殴られ罵られる事に喜んでしまう生徒だと言わなくていいです。またその事を生徒会や風紀委員の人たちにも伝えなくて済むかもしれないですね……」


「ちょっと! さっきよりひどくなってんですけど! 俺はKKMの連中と同じじゃないし! しかも教師だけじゃなく生徒の中にもその話もっていくとか! 鬼か!」

 そういった後、頭がくるほど魅力的にユッキーはにっこりとほほ笑む。


「ちゃんと神谷さんを守ってあげて下さいね。樋口君出来る子なんだから、大丈夫です。先生信じてますからね」


 逃げ道がない俺に「……はい」以外の返事があったなら、誰か教えて欲しい、切実に。

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