第33話 4度目の進化
「当たるかよ! 『スケールウィップ』! 喰らえ! 」
俺はアラクネ三体が前方と左右から飛ばしてきた糸を、アンドロメダスケールを鞭のように操り切断し防いだ。そしてペングニルを前方と左にいる二体のアラクネの間に投擲した。
明後日の方向に向かうペングニルに、アラクネはその醜悪な顔を歪め笑った。そして武器を失った俺に対し、蜘蛛の足を屈め飛び掛かる動作に入った。
『ダブル! 』
俺はそのタイミングでペングニルを分裂させた。
ギエッ!
分裂したペングニルはほぼ直角に軌道を変え、二体のアラクネの胸に深々と突き刺さった。
「『剣山』! 」
俺は崩れ落ちるアラクネを見届けることなく、すかさず反対側で固まっている残りのアラクネへと身体を向けた。そして足元から十本の鉄の槍を発生させ、その胴を串刺しにした。
「ふぅ……この辺のアラクネの群れはこれで最後かな? 」
魔物探知機を確認しながらそう呟いた。
アラクネがやたらといるなと思ったら、まさかアラクネの集落だったとはな。
流石に30体以上のアラクネに追いかけられた時は焦った。3時間掛けて森を駆け回り各個撃破できたのはいいけど、魔石を回収する余裕なんて全く無かった。
もうどこで倒したなんて覚えてない。魔物探知機に走ってきた足跡は残ってるけど、今は魔石の回収よりも経験値の方が欲しい。さっき倒した5体と今の3体の魔石の回収だけにしておくか。
レベル上げのために夜の狩りを再開して十日が経ったが、俺は未だに夜の森に一人で狩りに来ている。
再開して三日目に推定レベル39になったが、それ以降この1週間まったくレベルが上がっていない。
この十日間は魔物の素材は諦めて魔石だけ回収して、とにかく数をこなしていた。シュンランたちと一緒に風呂に入るのも我慢して、夜遅くまで狩りをしていというのに、それでも未だにレベル40にはなっていない。
レベル39に三日で上がったのは、多分これまでちょこちょこ狩った飛竜の分の経験値が貯まっていたからだろう。でもそこから1週間以上も掛かるとは予想外だった。昼に飛竜をちょこちょこ狩っているのにだ。36とか37になった時はもう少し早かったと思うんだけどな。
やっぱりレベルが上がるごとにレベルアップしにくくなっているよな。
こりゃ次のレベルアップで40になった際に、火災保険のギフトの特約が増えなかったら厳しいな。不定期にやってくる飛竜と夜のCランクの魔物狩りだけじゃあ、次に特約が追加される可能性のあるレベル50になるのは相当先になる。3ヶ月……いや半年かかるかもしれない。
さすがにそこまで待ちたくはないな。ミレイアと早く繋がってあんなことやこんなことをしたいし、シュンランがレベルアップした原因も確かめたい。
かといってマンションを放り出して、ここから十日は掛かるBランクの魔物がいる領域に行くわけにもいかない。
だから頼む、次のレベルアップで落雷の特約ついていてくれよ? というか次で40だよな? 身体が痛くなった回数だから間違いないとは思うけど、数え間違いしてないよな?
俺は少し不安な気持ちになりながら、アラクネの胸から魔石を回収し次の魔物がいるエリアへと向かった。
そしてそれから1時間後。
夜の闇に紛れて羽の刃を飛ばしてくる夜魔切鳥の群れと、ジャイアントトレントを倒したところでペングニルとアンドロメダスケール。そして魔物探知機が突然光り出した。
「おっ!? これはまさか!? 」
俺はその光景に胸を踊らせた。
その光は神器が進化する時に現れる光だったからだ。
それからしばらくして光りが収まると、予想通り見た目が少し変化した三種の神器が現れた。
ペングニルは1.5メートルと長さはそのままだが、ずっしりと重くなっており、持ち手である柄の部分に金色の東洋の竜が彫られていた。そして万年筆そっくりの穂先も二本に増え、ダーツの羽の部分のようにクロスしていた。上から見ると十字になっている感じだ。
腰のポーチに入れていたアンドロメダスケールの本体も拳より少し大きくなっており、魔物探知機も拳くらいの大きさから手のひらサイズになっていた。
「よしっ! やっぱり次がレベル40で間違いなかったな」
神器が進化したってことはレベルアップしたってことだ。今までもそうだった。
つまり今夜寝れば身体が痛くなるはず。そしてそれが収まった時には火災保険のギフトも進化しているはず。前回も神器の進化と一緒に火災保険も進化したから、今回もそうなると思う。
間取り図と地上げ屋はレベルとは関係無さそうだが、火災保険のように常時発動しているタイプのギフトの進化はレベル依存なんだろう。
「レベルアップしたならもう狩りをする理由はないな。神器の能力を確かめてから帰るか」
俺はとりあえず帰り道での魔物との戦闘のことを考え、進化した神器の能力を確認することにした。
そして最初にアンドロメダスケールを手に取り、スケールを伸ばしてみた。すると長さ20メートルの幅5センチだったのが、幅はそのままだが一気に倍以上の50メートルに伸びていた。もちろん刃もついている。本体が発する金色の光も心なしか強くなった気がする。
夜は目立つので光るのをいい加減やめて欲しいが、アンドロメダスケールの長さが増えたのは嬉しい。これでより広範囲にスケールストームを展開できるし、それによってシュンランとミレイアも守れるようになる。
次に首からぶら下げていた魔物探知機を確認すると、探知範囲が300メートルから500メートルくらいに広がったように見えた。
それ以外に増えた機能はよくわからない。まだバガンたちが来た時に、盤面上の点が点滅していた意味も謎のままだしな。なんとなく悪意を持った人間がそうなるんじゃないかとは思うが、あれから一回も点滅しなかったから検証のしようがなかったんだよな。
「うーん、まあ魔物探知機は魔物の居場所がわかればいいしな。他に機能が増えたならそのうちわかるだろう」
それよりペングニルだな。また何か特殊能力が追加された可能性が高い。
俺は豪華になり重くなったペングニルを眺め、前回分身の能力を得た時のように何かスイッチやマークがないか探した。
しかし最初は分身の能力が増えて三分身になるのかと思ったが、柄にあるマークにⅢという文字はなくⅡのままだった。
次に増えた穂先に何か仕掛けがあるとも思ったが、特に何も無いように見えた。
「うーん……いつも通りとりあえず投げてみるか」
ひと通り調べてもわからないので、俺は今まで通りとりあえず投げてみることにした。そしてペングニルを構え、100メートルほど先に見える巨岩に向かって投擲した。
俺の手から離れたペングニルは真っ直ぐ巨岩に向かっていった。
が、突然その姿を消した。
「えっ!? ど、どこ行った!? 」
俺は今まで狙った所に必ず当たっていたペングニルが、突然消えてたことに焦った。もしかしたら戻って来ているのかもしれないと慌てて手元をも見たが、そこにはペングニルは無かった。
俺は生命線でもある最強の神器が消えたことに一気に顔から血の気が引き、慌てて消えた場所に探しに行こうと思ったその時。
前方から大きな破砕音がした。
まさかと思い視線を音がした方向に向けると、狙っていた巨岩の中央が大きくえぐれていた。
「当たった? え? でもどうやって……あ、戻ってきた……」
確かに当たる前に消えたはずなのにと混乱していると、手元に消えたはずのペングニルが戻ってきた。
消えたと思ったらちゃんと狙った場所に当たっていた……ということはつまり……
俺はまさかと思い再度ペングニルを巨岩へと投擲した。
すると先ほどと同じように消え、そして少しして巨岩へと命中した。
「マジか! ステルス機能が付いたのか! 」
狙った場所に必ず当たるのに消えるとか!
しかも2本に分裂するんだぞ? こんなの消えると分かっていても避けれない。
おいおいおい、いくらなんでもチート過ぎるだろ。
でも……
「守る者ができた身としてはありがたいな」
この危険な世界でシュンランとミレイアを守るには力が必要だ。もう二度と彼女たちに悲しい想いをさせないために、どんな脅威からも守れる力が。
それがチート《ズル》だろうがなんだろうが関係ない。躊躇うことなく使ってやるさ。
「しっかし女神も大盤振る舞いだな。それだけタワーマンションを建てる前に俺に死なれたくないってことか」
こりゃ建てれなかった時が怖いな。役立たずとか言われて神器もギフトも全部取り上げられないだろうな?
特に期限を指定されなかったが、金を貯める必要も無くなったし本腰を入れて建てるとするか……
そうは言っても、どうやってあんな高級タワーマンションを建てればいいのか未だにわからないだよな。
とりあえず今ある部屋全部を最新のバージョンにしてみるか。
俺はそんなことを考えながらシュンランたちの待つ家に戻るのだった。
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