第29話 ダリアとエレナ



 カチャ


 ジュゥゥゥ


「う……ん……朝……か……ああ、二人はご飯の用意か」


 リビングから聞こえる物音に目が覚めた俺は、両隣を見てシュンランとミレイアがいないことに気付いた。そしてすぐに朝食の用意をしているのだろうと思い、眠い目を擦りながら身を起こした。


 それからミレイアが用意してくれたのだろう。枕もとに畳まれていたこの世界では上等な生地でできた、短いモモヒキのような下着と部屋着を身に付けた。


 昨夜は二人と遅くまで愛し合ったからな。そのまま素っ裸で寝てしまったみたいだ。


 昨日原状回復のギフトで二人の足と角を治した後、遅くなったけど二人と夕食を食べた。食事中もミレイアは自分の足をチラチラ見ては嬉しそうな顔をしていて、シュンランも元通りになった角をちょこちょこ触っては口もとを緩めていた。


 そんなシュンランだけど、さっそく狩りに行きたいと言っていた。でもいくら足が治ったとはいえ、半年の間まともに下半身を動かしていない。俺は首を横に振りながら、訓練で身体を慣らしてからにしようと伝えた。そしたら俺に相手をしてもらうと言うので、こりゃキツイ訓練になりそうだなと思いつつも首を縦に振るしかなかった。


 そんな楽しい夕食の後は二人と一緒にお風呂に入った。


 俺に抱き抱えられることなく、自らの足で浴室に入ってきた二人を見てめちゃくちゃ感動した。そしてタオルで前を隠している二人にタオルを外してもらえるように頼んだ。二人とも顔を背けたり下を向いたりして恥ずかしがっていたけど、俺は二人の身体を頭から爪先までじっくり眺めた。


 本当に綺麗だった。気付いたら自然と二人を抱きしめていて、そのまま二人とキスをして二人の足から俺は洗ってあげた。二人もお返しに俺の足からぺニグルまで入念に口と胸を使って洗ってくれた。


 その後リビングで二人と葡萄酒を飲みながら賢者モードを過ごし、酔い始めていい雰囲気になったところで二人を俺の部屋へと誘った。


 二人とも凄く積極的だった。そのうえ足を治すという約束を守ったご褒美になんでもしてくれると言ってくれたので、俺はシュンランにぺニグルの上に、ミレイアには俺の顔をまたぐようにお願いした。それからシュンランにはしゃがんだ状態で両腕を俺の胸に置かせて、激しく腰を上下に動かしてもらった。


 俺はミレイアを口で愛しながら、恥ずかしそうに動くシュンランを眺めて興奮していた。もうめちゃくちゃエロくて最高だったよ。


 その後、今ならいけるかもと思ってミレイアと最後までするのを試みたけど、やっぱりダメだった。俺の大事なペニグルが萎えるほどの電撃をもらってしまったよ。でも後ろから素股はできたから一歩前進したと言えるだろう。


 まあ焦らなくても大丈夫だ。二人の足が治った以上、少し待てば一緒に狩りに行けるしな。あと2レベル上げればレベル40になる。その時に火災保険がランクアップすれば、ミレイアと一つになれる。もう少しだ。もう少しの我慢だ。



 そんな昨夜の出来事を思い出しながらリビングに繋がる引き戸を開けると、奥のキッチンで二人が忙しそうに朝食の用意をしている姿が目に映った。


 その足取りは精霊のブーツを履いていた時よりも軽やかで、二人は冷蔵庫からキッチン。キッチンからダイニングテーブルへとスムーズに移動していた。


「ん? 起きたか。おはよう涼介」


「涼介さん、おはようございます」


「おはよう二人とも。いつも朝食の用意ありがとう。顔を洗ってから稽古してくるよ」


 笑顔で迎えてくれた二人にそう言いながら俺は近づき、二人と軽くキスをしてから洗面所へと向かい顔を洗い歯を磨き、ペンニグルを持って部屋の外に出た。そしてまだ薄暗い広場の隅で、日課である素振りを30分ほど行った。


 素振りを終え部屋の戻り、軽くシャワーを浴びて汗を流してからリビングへと戻った。


 するとちょうど朝食が出来上がっており、三人でテーブルを囲んで食べ始めた。


 機嫌の良い二人と和やかな雰囲気で朝食を食べ終え、そろそろ朝の弁当販売の準備をしなきゃなと考えていると、シュンランとミレイアが相談があると口を開いた。


「相談? 」


 なんだろ? 歩けるようになったことについては、土の精霊が俺の魔力を受け入れてくれたと入居者に説明しようと昨夜決めたよな?


 俺は魔人のハーフだから魔力があることに疑問は持たれないだろうし、精霊に気に入られているらしいというのは皆も知っている。角も俺が謎の魔導技術で復元してくっ付けたって事にするつもりだから、他に相談するようなことは無いはずなんだけどな。


「ああ、涼介は私たちの勇者だと言ってくれた。それは非常に嬉しいし本当は独占したい所なのだが、涼介には私たち以外の勇者にもなって欲しいのだ」


「シュンランとミレイア以外の勇者に? それはどういうことだ? 」


 俺はシュンランの言葉の意図が理解できず聞き返した。


「涼介の原状回復のギフトで、私たちの足と同じようにダリアとカルラたちの傷も治して欲しいという意味だ」


「私からもお願いします涼介さん」


「ああ、そういうことか。当然だ。ダリアもカルラたちも治してあげるつもりだよ」


 シュンランとミレイアの考えていることが、俺と同じことであった事に安心した。


 俺も昨日シュンランとミレイアの足を治せたことで、ダリアとカルラたちの傷と失った身体を治してあげたいと思っていた。


 ダリアはうちの従業員だし、一生懸命働いてくれている。カルラたちも創業以来色々と助けてくれて、今では俺たちの共通の友人だ。そんな人たちを助けたいと思うのは当然だ。


 ただ、大人数のパーティであるカルラたちを一度に治すのはリスクがある。周囲のハンターたちに、教会で治したと思ってもらえるように工夫が必要だ。


「フフフ、涼介ならそう言ってくれると思っていたよ」


「ふふっ、涼介さんはやっぱり涼介さんでした」


「あはは、でも問題はどう説明して治すかなんだよな」


 治癒のギフトが発現したっていうのは……ちょっと苦しいな。半年以上前から俺のことを知ってるからな。俺がそんなギフトを持っていないのは知られている。それに例え突然発現した事にしたとしても、治癒のギフトで欠損部位を治せるようになるまでには何十年も掛かると聞いた。それをいきなり使えるようになりましたというには無理がある。


「確かにそうだな……涼介をよく知る彼女たちに治癒のギフトだというには無理があるか」


「そうでした……どう説明して治してあげましょうか」


「うーん……そろそろダリアとカルラたちに俺が何者なのか話す時が来たのかもしれないな。彼女たちなら信用できるし大丈夫だと思う」


 ダリアもサラも色々勘づいているようだし、もうこれ以上ごまかすのは難しいだろう。ならちゃんと説明して協力してもらった方がいい。


 シュンランとミレイアが自分の足で動けるようになった今なら、多少のリスクを冒しても大丈夫だと思う。最悪の状態に陥っても、前より遥かに逃げやすくなったからな。


「そうだな……彼女たちなら信用できる。だがもしも涼介のことが世間に広まりここにいられなくなったとしても、私がずっと涼介の側にいて背中を守るから安心していい」


「私も涼介さんにどこまでもついていきます! そしてシュンランさんと一緒に背中を守ります! 」


「ありがとう二人とも。俺も二人とダリアたちを守れるようにもっと強くなるよ」


 俺は二人の気持ちに胸が熱くなりながらも、この子達を守れるようにもっと強くなろうと心に誓った。


「フフフ、そのためにも訓練の量を増やさねばな。私も一緒にできるようになったのだ。より実戦に近い訓練を行うとしよう。お客が来ていない間ずっとな」


「ええ!? いや、俺は実戦の方が……いえ、お願いします」


 俺は魔物を倒したら強くなれるとは言えず、シュンランの訓練メニューに首を縦に振ることしかできなかった。


 その後、恒例の朝の弁当販売を行った。そしてその時に予想通りカルラや他のハンターたちにまた歩けるようになったことに驚かれたが、俺が用意していた設定を話すとそんなこともあるんだなと納得してくれた。


 俺の作る特殊な部屋を知っていることと、細かい事を気にしない者が多いハンターだから通用したんだと思う。まあ、サラだけは首を傾げていたけどね。


 そしてそんな日に限って新規のお客が全く来なかった。その結果、木製の槍を持たされた俺は、敷地の奥でシュンランの鬼の訓練にずっと付き合わされたのだった。


 いやキツかった。初めてシュンランと実戦形式で訓練をしたけど、やっぱり彼女は強い。俺の方が身体能力で遥かに上回るのに、かなりの数の攻撃をかわされ、逆にかなりの数の攻撃を受けてしまった。


 飛竜を一撃で倒し、バガンを圧倒した俺が苦戦している姿を遠巻きに見ていたダリアとエレナなんて驚いた顔をしていたな。


 まあ神器の無い俺なんてこんなもんだ。シュンランとは自力が違うしな。俺には圧倒的に技術が足らない。力に驕ることなくレベルアップによって得た身体能力だけじゃなく技術も身につけなければ、万が一国に狙われた時に彼女たちを守ることなんてできない。


 強く、今よりもっと強くならないと。



 ♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢



「いらっしゃいませオーナー。お待ちしてました」


「急に言って悪かったね。ご馳走になりにきたよ」


 夜になり、俺はシュンランとミレイアを連れて向かいの管理人室兼ダリアとエレナの部屋へと訪問した。


 ダリアたちには昼に夕食をご馳走になりたいと伝えてある。たまにだけど、こうして俺たちが二人の故郷の料理を食べに来ることもあるんだ。


 玄関に現れたダリアは、町娘が着るようなベージュの長袖のワンピース姿で出迎えてくれた。その左袖に肘から先の腕はなく、ダラリと布が垂れ下がっていた。俺はきっと治してみせるからと思いながら、部屋の中へと入っていった。


 シュンランとミレイアも土足で上がってもいいように、ダリアが事前に敷いてくれたカーペットの上を靴を履いたまま上がっていった。


 管理人室の中は度重なる改修によってかなり広い。


 ダリアとエレナの個室のほかに、入居者の台帳や消耗品などの物置もある。部屋数でいったらうちより多い。


 そんな彼女たちの部屋のリビングに通された俺たちは、ダイニングテーブルに腰掛けた。そして二人が気合を入れて作ったという、今は滅びてしまった故郷の村に伝わる料理をご馳走になった。


 料理はすごく美味しくて、二人ともいいお嫁さんになるだろうなと思いながらあっという間に食べ終わった。そして一息ついたタイミングで、俺は二人に大事な話があると切り出した。


「大事なお話ですか? 」


「ああ、俺の事について話しておきたいことがあってね」


「オーナーの……聞かせてください」


 ダリアとエレナに俺の事についての話だと告げると、二人は一瞬目を合わせたあと頷き、真剣な表情で聞かせて欲しいと口にした。


「薄々勘づいているとは思うけど、実は俺は魔人と人族のハーフではなく純粋な人族なんだ。この世界とは別の世界のだけどね」


「べ、別の世界の人族!? で、ではやはりオーナー……いえリョウスケさんは女神様より遣わされた……」


「ゆ、勇者……様なのですか? 」


「フローディアによってこの世界に遣わされたのはそうだ。だけど勇者じゃないよ。俺は女神にこの世界を救うようにとは言われていない。別の使命を果たすためにこの世界に飛ば……遣わされたんだ」


 驚きつつもどこか納得した目をしている二人に、俺はそう説明した。


 まあ俺のギフトを側でずっと見ていたしな。黒目黒髪でこの世界にはない物を創造する存在が普通のハーフなはずないと思っていたはずだ。それでも二人は何も聞かないでいてくれたのは、確証が無いのもそうだが俺が隠そうとしていたのを察したからだろう。


「べ、別の使命……ですか? 」


「ああ、今はこの世界を離れている女神の住む家を作るのが俺の使命だ」


 俺は驚きつつも恐る恐る聞いてきたダリアへそう答えた。


「!? 女神様がこの世界からお離れに……」


「そ、その女神様が戻るための家をオーナーが……」


「そんな大切な使命を……この世界に女神様を呼び戻すこ使命を与えられたお方……」


「ちょっ! 跪かないでくれ! 俺は確かに女神によって遣わされたけど、ちょっと特殊なギフトと神器を与えられた普通の人間なんだ。そんなたいそうな存在じゃない」


 俺は突然席を立ってテーブルの下で跪こうとする二人の腕を取り、そう言って椅子に座るように促した。


「そうだぞダリア、涼介は確かに女神によって遣わされたが普通の人間だ。だからそういう神に祈るようなことは嫌がるからやめておけ」


「そうです。エレナちゃんもそんなにかしこまらないであげて下さい。涼介さんは強くて優しい普通の人間なんですから」


「で、でも女神様のお帰りになる家を作るという、崇高な使命を持ったお方と同じ目線で話すなんて……」


「無理です……知らなかったとはいえ今までの無礼を死んでお詫びしたいくらいです」


「まいったなこりゃ……」


 あのワガママ自己中女神の家。超高級タワーマンションを作ることを崇高な使命だなんて思うとはな。ちょっと言い方間違えたかな? でも信仰心の厚い王国人に女神をボロクソには言えないし。


 当の本人は別の世界の高級マンションに不法侵入して、ゲーム三昧の日々を送っているんだけどな。俺をこの世界に飛ばした時の動画があれば是非この二人に見せてやりたい。一瞬で信仰心なんて吹っ飛ぶだろう。


 それから目を伏せかしこまる二人に俺とシュンランたちで必死に説明して、なんとか今まで通り接してくれる事になった。その理由も女神の使徒である俺が嫌がるからというものだったけど。


「まあそういう事で今までどおりに頼むよ」


「はい。勇……オーナーがそれを求めるならば恐れ多いですが……」


「ひえぇ……いいんでしょうか本当に……」


「涼介がそうして欲しいといっているのだ。二人がそうしないと他の者たちに勘づかれ、涼介が教会に利用されかねん。必要なことなのだ」


 勇者と同等の存在に今まだ通り接することに未だ抵抗を覚えている二人に、シュンランがそう言って諭した。


「それは……あり得るわね。確かにあの教会ならオーナーを利用して、森に呑み込まれたままの聖地を取り戻そうとするかも」


「教会の聖騎士団が来てこのマンションも没収されるかもしれないです。そうなったら私たちも居場所がなくなってしまいます」


「大丈夫だよ。万が一教会に知られてここを引き払って逃げる事になっても、また別の地でマンションを建てるさ。俺は女神の家を作るために遣わされた存在だ。つまりギフトもそういう物なんだ」


「やはり……このマンションもそのギフトで作られたのですね? 」


「ああ、俺に魔導の技術なんてないよ。全部ギフトで作った」


「ひえぇ! お、おかしいとは思っていたんです。一晩でお部屋が何個も増えたり、壊れた家具がいつの間にか直っていたり……でも女神様から直接与えられた勇者様のギフトなら納得です」


「ああ、これがその部屋を作るギフトだ」


 俺はそういって間取り図のギフトを発動した。


 突然目の前に金色の物体が現れたことで、ダリアもエレナは椅子から落ちそうになるほど驚きまた跪こうとしたが、俺はそんな二人に目を瞑るように言ってから『マンカン』のアイコンをクリックした。


 すると管理室の間取り図が現れ、予想どおり二人の股間の部分と、ダリアの失った左腕が赤く光っていた。


 やっぱり設備として認識されている。これなら……


 二人の傷を治せると確信した俺は、赤く光っている部分をクリックした。すると画面右上に表示されている必要魔石数の欄に『D×140』と表示された。


 あれ? 欠損部位の再生で魔石300個は必要だと思ったけど、処女膜の再生は欠損とは違うのか? 1か所20個、20万か……そんなもんで二度と治らない身体の傷を癒せるなら安いもんだ。


 そう思った俺は決定ボタンを押し、用意していた魔石を革袋から取り出しマンカンの画面に投入した。


「ダリア、エレナ。そのままで聞いてくれ。今まで一生懸命働いてくれてありがとう。これはそんな君たちに対する感謝の気持ちだ。受け取って欲しい」


 目を瞑ったままの二人にそう伝えると、二人は戸惑っているような声をあげた。俺はそんな二人をよそに、シュンランとミレイアにも目を瞑るよう指示をして実行ボタンを押した。


 その瞬間、二人の身体は金色の光に包まれた。


「え? 」


「ひ、光が……」


 二人はまぶた越しに見える強い光に再び戸惑う声を上げていたが、俺は目をつぶりながら大丈夫だからそのままでと言ってなだめた。


 そして光が収まるタイミングで目を開けると、ダリアのワンピースの左袖には失ったはずの腕が存在していた。


「!? う、腕が……え? こ、これは……まさか……」


「ダリアさんの腕が……い、今のはまさか治癒のギフトの光? 」


「治癒とは違うよ。壊れた家具がある部屋は俺が直していただろ? あれはこのギフトを使って直していたんだ。昨日そのギフトが進化してね。人の身体も治せるようになったんだ。もちろんシュンランとミレイアの足もね」


 俺はそう言ってシュンランとミレイアに目配せした。すると二人はニコリと笑みを浮かべながら履いていたブーツを脱いだ。


「あ……足が……シュンラン……ミレイア……ああ……良かった……二人の足が……」


「ミレイアちゃん! 良かった! 良かったよぉぉぉ! 」


 二人の足を見たダリアとエレナは、それぞれが席を立ってシュンランとミレイに抱きつき泣き出した。


 自分の左腕が治ったことを忘れ、友人である二人のために涙を流して喜んでくれている。


 そんな二人を見て、俺は打ち明けて良かったと。二人の傷を治して良かったと思えたのだった。





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