第11話 出会い
「君、怪我はないか? 」
助けに入ってくれた黒髪の女性が、双剣を腰の鞘に収めながら俺の前で立ち止まり声を掛けた。
「いえ、おかげさまでかすり傷程度で済みました。ありがとうございます」
黒髪の女性に頭を下げて礼を言った。
近くで見ると彼女の両側頭部から二本の角が生えていた。しかし左側の一本は途中で折れており、遠目には一本しかないように見えていただけだったようだ。
ピンク髪の女性は、黒髪の女性の後ろに隠れるように俺を見ている。この子も頭に短いが二本の角が生えている。
俺はピンク髪の女性にも視線を向けて頭を下げたあと、目の前の黒髪の女性に視線を戻した。
十代後半か二十歳くらいだろうか? 俺と同じくらいの背丈のこの女性は黒のチャイナドレスのような服を身につけており、そこには銀の竜の刺繍が施されていた。そしてその上には黒く塗った革の胸当てを装備している。
ただ、チャイナドレスといっても生足が出ているわけじゃない。長いスリットの切れ目から白いズボンが見える。森の中を歩くんだし当然だな。
顔は少しキツい印象を受けるが鼻筋がスッと伸びていて、切れ長の目をしておりとても整った顔立ちをしている。後ろで結んでいる長い黒髪も艶があり、肌も透き通るように白い。本当に美しい女性だな。
「君は……人族か? いや、そんなはずはないか……ああ、すまない。礼には及ばない。私たちも水汲みにここに来ていた。もう少し早く来ていれば、あの
女性は俺の髪と顔を見て、首を振ったあとそう言った。
まただ。人族に黒髪はそんなにいないものなんだろうか? 確かに兇賊にいた俺と同じ姿をした者たちは金髪だったが……
「それでも助かったのは事実です。ありがとうございました」
俺は人種の疑問は置いておき、助かったのは事実なので再び頭を下げ礼を言った。
「フッ、律儀だな。正直助太刀したことに怒られるかと思っていた。たった一人で兇賊の頭らしき者を含め10人ほどを倒していたようだからな」
「そんなことないです……本当に助かりました」
彼女の言葉に俺の脳裏には、土槍で串刺しにしペングニルで首を刺し殺した風景がフラッシュバックしていた。
うっ……また気持ち悪くなってきた。
「……顔色が悪いな。兇賊の荷物は私たちが集めておこう。君は少し休んでいるといい」
「いえ、だい……すみません」
俺は大丈夫と言いそうになったが、大丈夫じゃなかったので好意に甘えることにした。
そしてその場から全力で離れ、背負っていた物を全部放り投げて川に向かって吐いた。
そうやって吐いて口をすすいでを何度か繰り返していると、ふと背中を撫でられることに気がついた。
振り向くと黒髪の女性とピンク髪の女性が、心配そうな顔で俺の背中をさすってくれていた。
「すみません……」
「大丈夫か? どうやら人間と戦ったのは初めてのようだな」
「……はい」
俺は彼女たちの手を背中に感じながら素直に答えた。
「そうか。初めてであの数を相手にしたのか……君は強いな」
「いえ……ただ必死で」
「普通はあの数を相手にしたら心が折れる。最後まで抵抗し、生き残ろうとした君は強いさ。名を聞いても? 」
「あ、俺は藤原 涼介といいます」
「フジワラ リョウスケ? ん? もしや家名持ちか? 」
「はい。藤原が家名で名前が涼介です」
「魔国の貴族の家系……なのか? 」
「いえ、違います。あ〜勝手に名乗ってるだけなので、涼介ということで」
俺は黒髪の女性の怪訝な表情に、なんかまずそうな雰囲気を感じ勝手に名乗ってる家名ということにした。
というかここでも魔族扱いなのかよ……
「勝手に……プッ、ククククク。君は面白いな。家名を勝手に名乗る者など初めて見たぞ」
「ハハハ、ノリで……」
俺は口もとに拳を当て笑う黒髪の女性と、その後ろで静かに笑っているピンク髪の女性に頭をかきながら引きつった笑みでそう返した。
「ああ、失礼。私はシュンラン。この子はミレイアという。彼女はとても優しい子なんだが男性が苦手でね、あまり見ないでやってもらえると助かる」
「あ、そうだったんですか。すみません」
俺はシュンランさんの言葉に、ずっと視線を合わそうとしないミレイアさんの行動に納得が行き、視線を逸らしながら彼女に軽く頭を下げた。
確かにローブの下もかなり厚着で顔と手くらいしか肌が見えない。何か身体にコンプレックスがあるのかもな。シュンランさんと同じく、真っ白で綺麗な肌をしているのにもったいないな。
「フフッ、強いのに腰の低い男だ。ああ、すまない。私たちはそろそろパーティに戻らないといけないんだ。森の西に向かう途中でね」
「あ、そうだったんですね。引き止めてしまいすみませんでした」
「いいさ。それでこれは私たちが倒した兇賊の持ち物なのだが、もらってもいいだろうか? 」
「はい。お礼に俺が倒したのもどうぞ」
俺はせめてものお礼にと、兇賊が持っていた持ち物を全て渡すことにした。
彼女たちが来てくれなかったらどうなっていたか分からないし。
「そうはいかない。これは君が命懸けで得たものだ。私たちは自分が倒した分だけで十分だ。下級の治癒水もあったしな」
シュンランさんはそう言って直径5センチほどの長方形の木製の容器を俺に見せた。容器には下級と彫られており、てっぺんにはコルクみたいな栓がしてある。
「治癒水? 」
コショウとか七味じゃなくて?
「ん? 治癒力を高める水のことだが? まさか知らないわけではあるまい」
違った。治癒力ってことはポーションみたいなものか。それなら知ってないとおかしいか。
「あ、はい。知ってます。はは、それは良かったですね。ですがお礼なので俺の分も受け取ってください」
「そうはいかない。これは君が……」
「いえ、お礼なので……」
そうやって数回ほど兇賊の荷物をお互いに譲り合うことを繰り返した。
「ふぅ……君は欲がないな」
「シュンランさんも」
俺は根負けし、呆れるたシュンランさんにそう返した。
「フフッ、ならお言葉に甘えるとしよう。正直最近は入れてくれるパーティがいなくてね。懐が寂しかったんだ。だが、あの熊人族の持ち物はもらえない。かなり良い装備とアイテムを持っていいたからな。それは受け取ってほしい」
「いえ……わかりました。それだけいただきます」
俺は仲間を待たせている彼女たちをこれ以上引き止めるわけにはいかないと思い、熊人族の大剣と腰にぶら下げていたポーチを受け取った。
ミレイヤさんも後ろで喜んでるし、ここが落とし所かな。
「そのポーチには下級の治癒水6本と、中級の治癒水が2本も入っていた。知っているとは思うが中級は貴重で、重傷を負ってもすぐに飲めば止血され2〜3日で完治する。きっとそれは君の命を救ってくれるだろう」
「は、はい。ありがとうございます」
こりゃシュンランさんは、俺が治癒水のことを知らない事に気付いているな。
それでも俺を立てるような言い方で教えてくれた。優しい女性だな。
「君が戦って得た物だというのに……本当に変わった男だ。リョウスケだったな。私たちは普段はこの滅びの森の東街で活動している。普段の狩場はずっと東の方なのだ。だが今回はいつもの所でパーティを組めなくてね。それでこっちまで出張って来ていた。ハンターをやっていればまた会うこともあるだろう。その時は声を掛けてくれると嬉しい」
「は、はい。必ず」
「では私たちはこれで失礼する。リョウスケも早く仲間のもとに戻るといい。ではまた」
「ええ、また」
俺は背を向け去っていくシュンランさんと、軽く会釈をしてその後をついていくミレイアさんが森の中に入るまで見送った。
「ふぅ……助かったな」
兇賊の襲撃からも、そのショックからも。
両方とも彼女たちに救われた。
滅びの森の東街か。
落ち着いたら会いに行こう。そして恩返しをしよう。
「あっ! 東街がどこにあるか聞き忘れた! 」
あ〜失敗した。でも知ってて当たり前の口ぶりだったしな。多分気付いても聞けなかったかもな。
まあこの世界の住民と会えたんだ。次に会った人に聞けばいいか。
兇賊以外で。
それにしても今日は疲れた。色々なことがありすぎてもう頭がごちゃごちゃだ。
でもなんで兇賊の矢や槍を弾いたんだろう……何かまだ隠されたチートでもあるのか? 物理攻撃無効とか?
ないな。ゴブリンの棍棒で死にかけたし、兇賊のタックルも受けた。
でもそれならなぜ矢や槍を弾いたのか……
駄目だ。色々いっぺんに起こりすぎて思考がまとまらない。
とにかく早く帰ろう。そして風呂入って寝よう。
俺はそんなことを考えながら、神殿へと帰路につくのだった。
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