藤次郎-14
「藤次郎、これも持っていきなさい」
藤次郎の母が別れ際、金子を渡してきた。
「……こんなに」
藤次郎の家も金が有り余っているわけでは無いのだが、かわいい子供の大事だ。何とかしたいのが母心と言うものだろう。藤次郎は何も話はしなかったし、両親も何も聞かなった。言えることは新しい仕官先から一月も経たないのに子供を連れて帰ってきた。理由を話さないのが理由だろうと簡単に両親にとっては想像できたし、決して人の道に反する様な事をする子供ではないと言い切れるからだ。
佳宵は随分と藤次郎の家が気に入って何かと母に絡んでいたので、母からは家の子供になれと言われていた。佐々木家には女の子がいなかったので母としても願ったり叶ったりなのだ。
しかし、藤次郎はここから早く移動しないといけないと考えている。
連れている相手が相手だ。捜索している側は絶対にあきらめないだろう。
藤次郎の家などまず真っ先に疑われる場所だ。藤次郎と佳宵にとって無縁の街に出る事で追手から逃れる策を考えるしかない。一方、佳宵にかけられた呪詛を解呪するためには東の常陸の国に行って、もしかしたら、その方法を知るかもしれない竜の一族を探し出す仕事も残されている。どちらを優先すべきか悩むところだ。だが、まずはここから移動すること、その一点だ。
佐々木家のあるこの土地は奴らの勢力外である。国の境目から100kmも離れた山間の集落である。藤次郎たちはあの夜、馬を乗り継いで山の間道を走り切った。まずは、最初の関門を突破したと言う事だろう。藤次郎の見積りであれば今日にも家を出れば追手から逃げきれるはずだ。
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