藤次郎-6

 藤次郎がいつもの様に外塀の周りを夜の巡回に出ていた。


『この塀に佳宵かしょう様は挟まっていたなぁ。また、どこかで挟まっていないかな?』


「とう!」


上から人の声がしたと思ったら藤次郎の後ろに


重いものが落ちる音が突然する。


慌てて振り返り、振り向きざま槍を向けると、そこには


「藤次郎! あなたが望んだから来ましたよ」


尻もちをついた佳宵が“あいたた”とお尻をさすりながら立ち上がっていた。

塀の横にある木の上から落ちてきたのだ。

いや、派手に登場したらしい。


「五日ぶりですね、藤次郎! 随分、私をお慕いしていますのね」


そういうと藤次郎の手を取ってきた。


「あなたの声は十分届いていましたよ。やればできるじゃないですか。それと私、いつもいつも塀に挟まっていませんよ」


佳宵の微笑みが優しく、藤次郎の想いの中に沁み込んでいくのだろう。藤次郎も佳宵の手を優しく握り返した。


「藤次郎、私、今晩は時間が無いの、そろそろ帰らないといけないのよ。また、明日会える?」


「もちろん。です」


「あったばかりでごめんなさい。また明日。楽しみにしていますね」


佳宵は黒髪を風になびかせ左手で優しく手を振るとはにかんだ笑顔で門の中に消えていった。


次の晩、藤次郎は佳宵を探し求め塀の外側を数周した。なぜなら、昨晩、優しく手を振り別れの挨拶をした佳宵が現れなかったから。


藤次郎は巡回もそこそこにあの木の上や塀の継ぎ目の向こう側など探してみたものの佳宵は見当たらない。もしかしたら、明日と言われたのを聞き間違えたのかとも考えているのだが、それも違う様に感じる。時間いっぱい塀を何周もしたのだが、ついに佳宵が姿を現すことはなかった。

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