参場 三

「こんばんわ。頼嗣よりつぐ殿。お尋ねしたい事が二、三有って参上致しました。最初に説明しておきますが我らに嘘は付き通せません。本当の事さえお話しいただければ、我々は早々に立ち去ります。よろしいですね」


三人の黒ずくめを前に頼嗣は恐怖で固まっている。恐らく、音も無く突然目の前に現れたように感じる者への恐怖なのだろう。


「降天の巫女の力を何に使うつもりですか?」


「わからない。俺は何も知らない」


「こいつじゃない」


霞が言う。


「頼嗣はこいつじゃない。私の知ってる頼嗣は目のところに傷があった。でも、反応は頼嗣なの……なんで?」


「どういう事だ?」


吉右衛門が腰に手を当てて目の前の頼嗣を凝視している。

突然、背後の障子戸が開け放たれた。


『馬鹿な。動きを止めたはずなのだが他にもいたのか……霞が失敗したか』


あけ放たれた障子戸の先には男が六人。既に太刀を抜いて構えている。その中央の男が


「ここまで突き止めるとは、思いのほか優秀なのだな? 大滝吉右衛門様」


そう言って、すり足で一歩、一歩間合いを計り部屋の中へと踏み込んできた。


「ふっははっはぁ~……あ~あ」


吉右衛門が腹の底から笑い声を上げていたが、やがて自分への嘲笑に意味が変わっていた。


「何処まで芝居がかった事が好きなんだ。鎌田政光、いや、馬場頼嗣」


「ご名答」


にやりと笑い吉右衛門を見ている鎌田は、付き従う者共々攻撃の準備を整え、いつでも斬りかかれる状態にある。一方、目の前の黒づくめ三人は偽頼嗣の傍で固まっていて、どう見てもこのまま頼嗣に斬りかかられては反撃すらままならないように見て取れる。頼嗣はそれを見て勝利を確信し一笑いしたのだ。


「何を言っている? お前何がしたいんだ? お前の目的は何なんだ?」


「解説しろとでも? どこにそんな親切な悪役がいるかね。そうか、そういう意味では俺の目的は現世の巫女を返してくれればいい。ああ。そう! それでいこう。返してくれるかね?」


「何故、お前達には巫女の技が通用しないのだ?」


「巫女を返せ」


「お前の目的は何だ?」


「巫女を返せ」


「あの寺はお前のか?」


「巫女を返せ」


「あそこで何をしていた?」


「巫女を返せ」


「義経は何処にいる?」


「巫女を返せ」


「怖い。わたし怖い!」


突然、背後にいた霞が恐怖を訴え吉右衛門の背中に張り付いてきて身を隠すようにしている。


「ははは、その黒ずくめが現世の巫女だな。そうか、話が早い。早速、返してもらおう」


二十畳敷きの部屋の中に鎌田を中心に後ろに扇形に広がる五人の男達。対峙する吉右衛門の背後に寄り添う霞、そして、八時方向で太刀を抜く弁慶。さらに、四時方向にいる丸腰の偽頼嗣。どう見ても吉右衛門に分が悪い。


背中で動く霞に吉右衛門が気付いた。


……霞は吉右衛門の背中に文字を書いている。


「……そうか、ご苦労様。よくやった」


吉右衛門が急に笑みを漏らした。

それは、霞が全ての答えにたどり着いたことを意味した。


「さあ、どうするか? 悪党ども。おとなしく降参して俺に殺されろ。それが嫌なら、降参しないで殺されろ。お勧めは前者だが? どちらも今なら特典として、地獄の一丁目直行が確約されるぞ!」

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