弐場 八

「私はあの寺社で呪詛によって作り出された人ざらなるもの。元々は出雲で神官をしていた家に生まれたのだけれど、幼いころより、少し勘がいいって言うので有名だったわ。勘がいいって言ってもそんな大したものでは無かった。たかが相手の考えていることがわかったような気がしていただけ。それでも、人々は私に救いを求めてきたわ。まぁ、何もわからないから適当に言うんだけど、それでも、みんな感謝して帰って行くの。そのうち自分でも本当は凄いんじゃないかって思ってきて、いつの間にか自分で自分を騙していたみたい。


 そんな時よ。京から私の噂を聞きつけてもっと力を発揮できる修行があるから来ないかと誘いが来たわ。父は二つ返事だった。もっと力をつければもっと金持ちになれるってね。私はどうでもいいと思ったけどこんな偽物みたいなのが嫌だったので京まで来たの。それが、ちょうど三か月くらい前のこと。


でも、違ったわ。修行なんて嘘。私以外にもたくさん女の子はいたの。境内の倉庫に押し込まれて、毎晩、あいつらの慰みものになる毎日……それだけ。それでも、みんな朝には戻ってこれるだけ良かったのかも。


ただ、満月の夜だけは違った。満月の夜に連れていかれた子達は戻ってこなかった。連れていかれると三日三晩祈祷すると言っていたのを聞いたけど。それでも三日目の夜までそれが続くことは無かったわ。後から知ったけど戻ってこなかった子はみんな死んじゃったんだって。


一月前、私が満月の夜に連れ出されて社殿の中に入れられた。中には女の子が五人。神官が香を焚いて祈祷するのよ。延々と。それでも、何も起こらなかった。でも、二日目の夜に傍で寝ていた子が苦しみだして、あっという間に死んだわ。それからは次々に血を吐きながら、目から耳から……全員が尋常では無い苦しみ方で死んでいった。私もずっと苦しんでいたの。身体ももちろんだけど心をいじられる様な感覚。心と身体が離れて行くような苦しみ。こんなに苦しいなら死にたいと何度も思ったけど身体が動かせないの……


そして、私だけ生き残った。


初めて生き残ったって神官は大喜びしていたけど。喜びついでに言っていたのが、香に秘密があって巫女の残滓が練りこめられているとか言っていた。その力で降天の巫女を作るのが目的で延々と祈祷していた。と」


少女は淡々と語る。まるで、おとぎ話でも語るかの様に。


「その巫女の残滓の元がウチの妹や」


靜華が話を継ぐ。


「おそらく、あのじっちと戦った時に取られたんだと思うわ」


行徳の事だ。


「降天の巫女が元々持っているものをなんや怪しげなツボに入れて精製する言うとった。こないだ戦った時にな。その精製したもんをどうするかまでは知らんが残滓ちゅうんならそのツボに残った奴を集めて香にしたんやろうな」


「靜華よ。そんな事が出来るのか?」


「出来るも何も、目の前に一人おるやろ。それが全てや」


「そこにはほかに囚われているものはいなかったか?」


吉右衛門が顔をかきながら聞いている。靜華がその仕草を見つめている。


「他? 他ってどういう意味?」


「その神官、僧侶、女の子意外だ。お前、相手の名前もわかるのか?」


「わかるわ。」


「源義経。源九郎義経だ」


「その名前はわからないわ。でも、いつも同じ男が何回か来ている。なんていったかしら……馬場……頼……頼嗣……そう! 馬場頼嗣ばばよりつぐ。昨日も来ていたわ」


「そうか……ほかの捕まっていた娘はどうした?」


弁慶が聞いた。


「私が殺した。全員。あのままいても地獄だから。私の手で殺してあげたの。今日の朝。奴らごと全部消滅させてあげたわ。本当は私も一緒に消えるはずだったのに……」


今まで無機質に話続けていた少女が感情を露わにして慟哭している……


「弁慶。あの話を聞いていると、そもそもあそこにその御曹司がいたとは思えないぞ」


「わからないが、そこにいると聞いていたんだ」


「弁慶よ、鎌田に話をするのちょっと待ってくれ。俺に考えがある」


屋敷の廊下で話し込む二人。吉右衛門は顔をかきながら考え込んでいた。

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