弐場 七

「お帰りぃ」


屋敷に着くと靜華が少女を寝かせている部屋から出てきて手招きしている。


「どうした?」


「起きたで」


少女は焦点が合わない目を開けて周囲を見回している。丁度、目が覚めたようだ。

二人は少女の足元に座り靜華との話に傾聴している。


靜華の寝間着を着て布団から起きている少女は、眉のところで切りそろえ肩までの黒髪を人差し指でいじりながら、段々と視線に生気が感じられてきた。


黒目がちな丸い大きな目で、まっすぐ前を見つめている。


「ここが何処かわからんやろ?」


「なんなの? あなた達?」


「安心しぃ。ウチらはあんたの味方や」


「味方って言われて、はいそうですか、とでも言うと思っているの?」


「何かやばそうな奴だな」


吉右衛門が弁慶と耳打ちしている。


「おい! そこの下郎共。何をこそこそしている」


少女が、吉右衛門と弁慶を交互に指さしている。


「弁慶~。お呼びだぞ~。お前大好物だろう。あぁ言う感じの奴」


「俺は靜華様の専属だ」


弁慶が認めた。


「なぁ。あんた名前何て言わはるん?」


靜華が少女の目を見て微笑みながら聞いている。


「あなたこそ先に名前を名乗りなさい」


靜華の顔色が変わった。それを見逃さなかった吉右衛門が、靜華の怒り迄のカウントダウンを始めた。


「あんな、ウチはあんたのこと、おっもいのにおんぶしてここまで運んだんよ。礼ぐらい言わんか!」


『はい、10。いや、5』


「誰がそんな事してくれってお願いした?」


「そ、そうやな。余計なことしたのかも、し、知れんな」


『4』


「わかればいいのよ。そんな事より寺はどうなった?」


「のうなったわ」


「そう……私だけ死ねなかったのね……」


「ねぇ。あなた何者なの?」


「この通りの美少女よ」


「ねぇ、あなた何者なの?」


「この通りの美少女よ」


「ねぇ、あなた何者なの?」


「この通りの美少女よ」


「ねぇ、あなた何者なの?」


「この通りの美少女よ」


『1』


「おい! このぼんくら共、何回やらせんねん! もう飽きたわ!! ぼけ+ボケで永遠にオチんやろ! 気付けや熟れ過ぎスイカ共が!! ほんまかなわんわ。ウチが滑ったみたいやろ」


急に二人に向き直りキレてくる靜華をみて、


『え? こっち』


「勉強になりました」


と弁慶は平伏している。


「もうあんたもそのくらいにしときぃ。ウチの心読んでみいや。その方が話がはやいやろ。どうぞ!」


と言って靜華は少女に正対している。


「…………」


「どうや? 理解できたか?」


靜華が穏やかな笑顔を浮かべまっすぐに見て聞いた。


「そうね……」


「それじゃあもう一回……


ねぇ、あなた何者なの?」


「私は---」


吉右衛門と弁慶が”あっ”と言う顔をした。

静華の顔がみるみる鬼のようになる。


「このどあほう! そこは“この通りの美少女よ”やろ! 積み上げた前振り全部無駄にしよったな!

お前! あん山に捨てたろか!!!」


「先に行かないから、師匠ね」


吉右衛門が靜華を羽交い絞めにして止めようとしている。弁慶は平伏して少女の代わりに靜華に 蹴られて恍惚の表情だ。

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