壱場 六

「お帰りぃ。えろう、おそぅなったな」


朱色の小袖を着た靜華が吉右衛門を見つけると手を振って笑顔で近づいてきた。


「天女様がああしてお迎えに来るというのに、この御人はほかの女子に……」


「あ! 余計なこと言うな!」


吉右衛門は肘鉄を弁慶の胸にいれる。


「どうしたん?」


不思議そうに、二人を交互に見る靜華。


「いやいや、何でもない」


「靜華様、御久しゅうございます。御髪の色が随分とお変わりでございますね。いや、しかし、高貴なお光は相変わらずで、私、再びお目見え出来たことを感激しております」


弁慶がとってつけたような大仰な挨拶をしていると、正面の靜華は、


「え~っと。どちら様?」


腕を組んで小首をかしげ弁慶を見上げていた。


「は~はははっ。そうだよな靜華。あははは」


何かに勝ち誇ったように弁慶を指さし笑いだす吉右衛門。


「靜華様。拙僧はあの日から忘れた事などありませんでしたのにあまりの仕打ち」


大男が涙を浮かべて靜華を見ている。


「あははは、嘘やよ。弁慶。ちゃ~んと覚えとるよ」


いたづらっぽく笑ってお腹を押さえている。


「どうしたん? 弁慶。まずは中はいるか?」


そう言って靜華は弁慶を手招きすると玄関に向かって歩いて行った。

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