陸場 三

北面武士団の詰め所にて吉右衛門が幹篤と面会していた。


「本日はお忙しいなか申し訳ございません」


「いかがいたしました? 大滝殿」


「はぁ、少しの間、京を離れる事になりましたのでご挨拶をと思いまして」


「離れるとは?」


「妻の実家がある丹波に暫く行く事になりまして。おそらく一年程度になろうかと」


「おお! それはまた、長いですな。何故ですか?」


「はい、妻の母上が病気がちでして、その面倒を見る事になりました。最初は京に呼び寄せるつもりだったのですが、年寄りが慣れない京で暮らすの大変だろうと靜華が申すものですから……

私自身も、知らない土地で暮らすのも、楽しいかと」


「なるほど、それは。それは。わかりました。戻られたらまた、声を掛けてくだされ。出発は何時に?」


「明日夜明けとともに」


お辞儀をする吉右衛門。


屋敷に戻って夕ご飯を食べながら靜華と話をしている。


「これで、明日、丹波まで出発だ」


ついさっき北面武士団の詰め所での会話を静かに聞かせて今後についてどうするかを決めたかった。


「なぁ、何も出て来んかったらどないしはるん?」


靜華が気にかけている事の一つだ。


「そん時は旅行でいいじゃないか? 金はあるし、適当に転々として」


吉右衛門も案外気負っていないのだと靜華が受け取った。


「はぁ、そんなんでええのんか」


靜華の顔が曇ったのを見て吉右衛門は


「なんだ? 嬉しくないのか?」


と問う。吉右衛門にしてはダメなら楽しく旅行とまでは思っていないがやはり、連れて行くのであれば笑顔にしてあげたいと考えていた。


「う~ん。楽しいは楽しいけんどな。ウチらの知らないところで精が悪さしていたらなぁおもうとな」


「それは、丹波の精を退治すればそれはそれでいいんじゃないか?」


「まぁ、それもそうやな。せっかくやし。美味しいものぎょうさん食べてこよな」


満面の笑みの靜華の目的が旅行になった瞬間だ。

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