第六十九話「再会」
4月23日の午後11時頃。
僕たちは町の中で戦死した兵士や
長い戦いの後で身体は休息を求めていたが、放置しておくとアンデッド化する恐れがあり、命懸けで町を守った英雄たちの最後を汚さないよう
遺体を探す作業は思いの外、大変だった。
探知魔術では魔力を目印にするため、亡くなっていれば使えない。当然気配を感じることもできず、町の中を虱潰しに見ていくしかない。
僕たち3人は手分けして探すことにした。
僕の担当は北の商業地区で、想像していたより多くの遺体を見つけた。
町の中で戦い、散っていった人の遺体もあったが、逃げなかった住民の遺体も多かった。住民の遺体は老人ばかりで、脱出に使う馬車の数が少なかったから、あえて残ったのだろう。
もし、スタンピードが発生していなければ、命を落とすことなく、余生を過ごせたはずだ。そう考えると悲しみと怒りが込み上げてくる。
商業ギルドの建物で見知った人の遺体を見つけた。
ルーサー・リンゼイ隊長で2人の兵士と共に倒れていた。床に焼けたような跡があったことから魔術を使う敵と戦ったらしい。
その顔は思ったより穏やかだった。少しでも時間を稼げたことで満足して逝けたのだろう。
(皆さんのおかげで、町は守られました。ゆっくり休んでください)
黙祷を捧げ、遺体を収容する。
日付を跨いだ午前0時頃。
この1時間ほどで20体ほどの遺体を回収し、そのうち兵士やシーカーは半数。他は老夫妻が3組と2人の老婦人、そして見知らぬ魔術師風が2人だ。
魔術師はこの町の兵士やシーカーではなく、見たことがない人たちだった。装備も杖は立派だが、マントはどこにでもある普通の物で、アンバランスな感じを受けた。
誰なのか分からないが、アンデッドになられても困るので、とりあえず収納した。
担当していた地区の捜索が終わったので、モーゼスさんの工房に戻る。
「ようやく帰ってきたか!」という男の人の声が響く。
そこに立っていたのはローザの父、ラングレーさんで、その後ろにはディアナさんと3人のパーティメンバー、更に後ろにアメリアさんが立っている。
「ラングレーさん! 皆さん! ご無事だったんですね!」
「何とか生き残れた。まあ、お前らが頑張っている時に隠れていただけだがな」
自嘲気味にそう言ってきた。
「そんなことありません! 本当によかった! ローザは知っているんですか!」
「まだだ。アメリアに無事だと聞いているが、まだ戻ってきていない」
「呼んできます! 待っていてください!」
そう言って探知魔術を使ってローザを探す。彼女は南地区に行っており、300メートルほど離れているが、一気に転移する。
ローザは僕の気配を感じ、「何かあったのか!」と驚く。
「ラングレーさんたちが戻ってきたんだ! 今モーゼスさんの工房にいる! すぐに戻ろう!」
「父上たちが……よかった……」
そう言って涙ぐむが、
「あと少しで終わる。父上たちが無事なら急ぐことはないが、遺体は放置できぬ」
思った以上に冷静な彼女に驚くが、言っていることは正しい。
「2人で手分けしよう。その方が早く終わるから」
残っていたのは10軒ほどですぐに確認は終わった。
どのくらい遺体があったのか確認すると、
「30人ほどだ。すべて住民だった……」
この辺りは住宅地で、引退したシーカーやハンターたちが多く住んでいた。彼らの多くは身体に何らかのハンディキャップを持っており、足手まといになることを嫌ったのだろう。
「そうか……」と言って黙祷する。
「じゃあ戻ろうか」
「そうだな」
彼女の手を取り、工房に戻る。
ラングレーさんとディアナさんの顔を見たローザは2人に駆け寄っていった。
「父上……母上……」
「無事でよかった」とラングレーさんが涙ぐみながら彼女を抱き締め、ディアナさんはローザの背中を抱くようにして、泣いている。
親子の再会を邪魔しないようにその場を離れ、エルフの斥候ペネロペさんに話を聞く。
「いつも出られたんですか?」
「1時間ほど前よ。転送室に向かったんだけど、アンデッドが多くて手間取ったの。でも、そのアンデッドが突然消えたから、帰ってこられたのよ」
今から2時間ほど前、ちょうど僕たちがノーライフキングを倒したタイミングでアンデッドが消えたらしい。
恐らくだが、それらはノーライフキングの眷属で、大元を倒したことでアンデッドたちも消滅したのだろう。
「迷宮の入口に戻った時、びっくりしたわ。物凄い数の
「入口はリンゼイ隊長たちと一緒に。広場はモーゼスさんの作った武器を使って倒しました」
「アメリアに聞いたんだけど、あのアンデッドを倒したんですって。凄いわ。私なんて、結構離れていたのに、動くこともできなかったわ」
「僕だけの力じゃないです。ローザがいなければ使えませんでしたし、アメリアさんが足止めしてくれなかったら当てられなかったですから。それにモーゼスさんが作ってくれなかったらそもそも戦おうっていう気にならなかったと思います」
そんな話をしていると、ローザたちは落ち着いたらしく、僕たちのところにやってきた。
「お前たちはゆっくり休め。迷宮の入口は俺たちが見張っておいてやる。これから戻ってくる奴が出てくるだろうからな」
その言葉でローザは地下室に向かい、僕は2階にある自分の部屋に向かった。
部屋に入り、装備を外す。
(まさかこんなに早く、ここに戻るとは思わなかったな。戦いで命を落とすか、スタウセンバーグに逃げるしかないと思っていたから……)
ベッドに入り横になると、それまでの疲れが一気に出たのか、すぐに眠りに就いた。
■■■
ライルとローザを休ませたラングレーはパーティメンバーに向かって話し始めた。
「疲れているだろうが、あいつらが倒した魔物のドロップ品を回収するぞ」
「急がなくてもいいんじゃないの?」とペネロペが言うと、
「ミノタウロスの肉が落ちていた。聞いた話じゃ、昨日の朝にドロップした物らしい。包みが破れていない物なら、まだ価値はあるはずだ。戦った連中のために少しでも金にできるものは回収しておきたい」
ラングレーの言う通り、迷宮のドロップ品の肉は透明な被膜に覆われており、腐敗しにくい。また、グリステートは標高が高く、4月下旬にはそれほど気温が上がらないことから、傷んでいない可能性が高い。
ミノタウロスの肉は非常に高価で、特にミノタウロスチャンピオンの肉は1つで1万ソル(日本円で100万円)以上するもので、回収する価値は十分にあった。
「そうね。なら手分けしてやりましょう。アメリアから聞いたのだけど、鐘楼で戦っていたそうだから、あの中にもたくさん落ちているはずでしょうから」
ディアナの提案で迷宮の入口に3人、鐘楼に2人と分かれて回収作業を行った。
「本当にどれだけいたのかしら?」と鐘楼の中を担当することになったディアナが中を見て驚きの声を上げる。
階段の下には無数のマナクリスタルと硬貨で敷き詰められ、その上に戦斧などの武器と肉の塊が落ちている。
ほとんどの肉は踏みつぶされていたが、それでも運よく難を逃れたものも多くあった。
迷宮の入口で作業するラングレーも半分呆れながら、回収作業に当たっていた。
「どれだけ倒したんだ? ここにあるだけで何年分になるんだろうな」
彼らが回収作業に当たっているとポツポツとシーカーたちが入口に現れる。
まだ残っている魔物がいるのではという不安が顔に出ていたが、ラングレーらの姿を見て安堵の表情に変わった。
「終わったんですね! ありがとうございます」と若いシーカーが頭を下げる。
ラングレーは苦笑しながら、
「終わったことは間違いないが、俺たちも迷宮の中で隠れていただけだからな。感謝ならここで命を賭けて戦った連中にしてくれ」
肉の回収を終えると、落ちていたマナクリスタルや硬貨、他のドロップ品を集めていく。
迷宮から戻ったシーカーたちもその作業を手伝っていった。
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