第六十七話「逆転」
ノーライフキングを倒すため、モーゼスさんが作った“バズーカ”型の
アメリアさんの決死の足止めとレベルの上がったローザの魔術によって、砲弾は見事に命中した。少なくとも僕にはそう見えた。
しかし、ノーライフキングを倒すまでには至らない。
ローザは苦悶の声を上げたアメリアさんを救うべく、1人で突っ込んでいく。
僕もランチャーを捨て、M4カービンを手にそれを追った。
近づくと月明かりの下で見えるノーライフキングはボロボロの状態で、ローザの一撃で倒せそうなほどに見えた。しかし、炎を纏わせた黒紅の一撃を細い骨だけの手で受け止め、更にそのまま剣を掴んで彼女もろとも投げ捨てる。
「ローザ!」と叫びながら、M4を乱射する。
しかし、ノーライフキングは僕に一瞥しただけで、M4の銃弾は全く効いていなかった。そして、左手をローザに向ける。
「やめろ!」と叫びながら、転移魔術を使ってローザの前に出る。彼女の盾になるためだ。
しかし、敵の魔術の方が僅かに速かった。
ノーライフキングの左手から漆黒の槍がローザの胸に突き刺さる。彼女の身体がビクンと跳ねた。
どう見ても致命傷であることは明らかだ。
「貴様!」
そこで僕の頭は沸騰し、闇雲にM4カービンを乱射する。
パンパンパンという音が響き、その直後にカンカンカンという硬い音がする。
ノーライフキングの身体に当たり弾かれた銃弾が放つ音だ。しかし、ダメージが入っている感じはなかった。
『面白い。だが、原理が分からぬ……』
感情が全く感じられない思念が頭の中に聞こえた。ノーライフキングの放つ念話のようだが、ローザを殺したことや僕を脅威と思っていないのか、魔銃にだけ興味を示している。
その無関心さに腹が立った。
「よくもローザを!」と言って、役に立たないM4を捨て、
『別の武器か……もしや、それが先ほどの?……』
一瞬警戒するが、それでもその場を動くことなく、半ば崩れた眼窩の中の赤い目でM82を見つけていた。
セレクターレバーを
緑色の魔法陣が暗闇の中に浮かび上がる。これが消えれば発射準備完了だが、その時間、約20秒が永遠に感じるほど長い。
それでもノーライフキングは僕に攻撃することなく、微動だにせずに見守っている。
『面白い。そうやって魔力を集めておるのか……』
ボロボロになったことは全く気にせず、楽しげな念話が頭に響く。
そのことで僕は少し冷静さを取り戻した。
(このまま撃ち込んでも防がれるだけだ。神聖魔術も一緒に撃ち込んで確実に仕留めないと……)
ヴァンパイアロードに使った神聖魔術の浄化をこの敵にも使う。
長い20秒が過ぎ、緑色の魔法陣が唐突に消えた。
間髪入れずに、無詠唱で神聖魔術の浄化を撃ち込む。どのくらいの効果があるか分からないため、弱点であるマナクリスタルの周囲に最大本数を叩き込んだ。
『何をするつもりだ?』という念話が聞こえるが、それを応えることなく、
銀色の魔法陣が銃身を貫くように煌めき、闇に慣れた目には眩しい。
その直後、バシュ!という発射音が響く。
『なるほど。そうやって金属の塊を加速させているのか。実に興味深い……』
何事もなかったかのように立ち、M82を見つめている。
今ある最強の武器を使っても倒せなかった。そのことでそれまでの怒りが消え、絶望に包まれる。
「駄目だ……仇を討つこともできないのか……」
そこで緊張の糸が切れ、M82を取り落とし、膝を突いてしまった。
『もう終わりか。詰まらぬ……』
その言葉にも反応できなかった。
涙が溢れ、視界が歪む。項垂れた視線の先には仰向けに倒れたローザの姿があった。
仇を討てなかったことは悔しいが、彼女がいない世界で生きていくことを考えると、ここで死ぬのもいいかと思った。
その時、ローザが僅かに動いた気がした。
(もしかしたら息があるのか……そう言えばポーションがあった! まだ助けられるかもしれない……)
迷宮に入るようになった時、ディアナさんから
そのため、何かあった時のために、高品質のヒールポーションを渡されたのだ。
今まで使う機会がなく、アイテムボックスに入れていたことを忘れていた。
(何としてでも奴を倒さないと……でも、M82が効かなかった。今ある武器、M29リボルバーも駄目だろう。どうしたら……考えるんだ……そうか!)
そこであることを思い出した。
僕はゆっくりと立ち上がり、ノーライフキングに向かって左手を突き出した。
武器を持っていないことに疑問を持ったのか、ノーライフキングは『何をする気だ?』と念話を送ってきたが、僕はそれに応えることなく、体内の魔力を左手に集めていく。
『魔術を放つつもりか。だが、そなた程度で我にダメージを与えられるほどの魔術が使えるとは思えぬが』
最後は嘲笑に近い思念だった。
実際、僕のレベルでは魔力放出の制限がなくても、この化け物に通用するような魔術は撃てない。
それでも僕には秘策があった。
「自信があるなら撃たせてみろ。それとも杖も持たない僕の魔術が恐ろしいのか?」
挑発することによって、準備する時間を稼ぐ。
『よかろう。そこまで言うならやってみるがよい』
ノーライフキングは僕の挑発に乗った。
僕は残りのすべての
『何をするつもりか分からぬが、そなたのすべての魔力を集めたとて、我には効かぬぞ』
僕にその嘲笑に応える余裕はなかった。魔力が暴走しないよう集中するので精一杯だったのだ。
左手の手首より先が集まった魔力によって眩く光っている。
(これならいける!)
そう思った瞬間、ごく短距離の転移でノーライフキングの懐に飛び込む。
そして、左手を奴の肋骨に当て、魔力の制御をやめた。
制御を失った魔力は暴走し、そこで初めて神聖魔術の浄化を使う。
指先に小さな出口ができ、そこに暴走した魔力が殺到する。次の瞬間、僕の左手は魔力の暴走に耐えかね、真っ白な光を伴って爆発した。
「うわぁぁぁ!」
気を失いそうになるほどの激痛が襲う。
その痛みに耐えかね、ノーライフキングのことを忘れて転げ回った。
左手を押さえるが、手首より先がない。
痛みに転げ回りながら、ノーライフキングを見た。
胸にあるマナクリスタルにひびが入り、無傷の左手で押さえている。
これでも駄目だったかと思ったが、『な、何をした……』という念話が届く。
それから僕の方へ数歩歩いたところで、『このようなところで消えるのか……まあよい。外に出られたのだから……』と呟くような念話が聞こえ、そのまま光の粒子となって消えていった。
左手の痛みに加え、急激なレベルアップによる体の軋みに耐え、ゆっくりと立ち上がった。
(勝った? 勝てたのか?……)
僕が使った最後の手は魔力暴走による自爆だ。
僕は先天的に魔力放出量が少ないが、体内であれば魔力の操作はできる。つまり、体内であれば自由に動かせるということだ。
そして、放出量が少ないというのも、制御して放出できる量が少ないという意味であり、制御さえしなければ体内にある魔力を一気に放出することは不可能ではないのだ。
魔術を使う際に、魔力を暴走させない、つまり制御状態から外さないということが重要だと習う。制御に失敗すると魔力が暴走し、最悪の場合、体内で爆発して死に至るためだ。
今回僕はその現象を利用した。
意図的に魔力を集めて暴発させ、その力で敵にダメージを与えたのだ。
単に暴発させるだけでは効かないかもしれないと考え、指先から神聖魔術を放出し、そこを着火点とした。そうすることで暴発する魔力が神聖魔術に変換できるかもしれないと考えたためだ。
結果としてそれが上手くいった。
上手くいったが、僕の左手は爆発で四散し、消えている。しかし、左手一つでローザが助けられるのなら安いものだ。
左の手首から先を失ったものの爆発の衝撃で焼けたのか、血は思ったより流れていないが、耐えがたいほどの痛みは続いており、一つ一つの動作が緩慢になる。
しかし、今は時間がない。痛みを堪えながら、アイテムボックスからポーションを取り出すと、ローザの下に走った。
■■■
ライルが土壇場で思いついた魔力暴走による攻撃は結果として最良の攻撃方法だった。
ノーライフキングの防御障壁は“物理防御”と“魔術防御”で、それは非常に強固なものだ。
物理防御は城壁すら破壊できるランチャーの攻撃を曲がりなりにも防いでいるし、魔術防御はライルの神聖魔術を防ぐだけでなく、ローザの魔法剣の炎を完全に無効化している。
しかし、物理防御は直接的な打撃に対してであり、魔術防御はあくまで“魔術”に対するものだ。
ライルが暴走させたものは純粋な魔力であり、物理的な打撃力でもなく、魔力を現象に変換した魔術でもなかった。そのため、いずれの障壁も役に立たなかった。
魔力による攻撃を防ぐ障壁があれば、ノーライフキングは消滅しなかっただろう。しかし、そのような障壁はそもそも存在しなかった。
純粋な魔力を外に出すためには、ライルがやったように暴走させるしかないが、それには時間が掛かり、また、相手に密着しなくてはならない。
今回のように相手が発動を許すような特殊な場合を除けば、成功率は著しく低い。
更にライルのような魔力制御の達人ならともかく、通常の魔術師の場合、自らの命と引き換えにする自爆攻撃とならざるを得ない。また、自爆しなくてはならないほど追い詰められている場合、既に
そのため、この攻撃方法が採られることはなく、それに対応する障壁は存在しなかった。
ライルは神聖魔術に変換されることを期待していたが、皮肉なことに変換されなかったことでダメージが与えられた。もし、変換されていたならば、ノーライフキングを倒すことはできなかったであろう。
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