第四十六話「苦戦」

 4月23日午前0時過ぎ。

 僕が戦闘に加わってから3時間が経過し、日付が変わった。

 最初の2回はほとんど出番がなかったが、3回目から本格的に参戦している。その理由だが、ゴーストが大量に出現してきたからだ。


 最初のうち、ゴーストはポツポツと現れていただけで、弓術士や魔術師の攻撃で十分に対処できていたが、3回目の戦闘が始まったところでいきなり10体以上のゴーストが現れた。


 そのため、遠距離攻撃要員が対応しようとしたのだが、数の多さと動きの速さにより魔術師の魔術では発動時間の関係で対応できず、弓術士の矢では精々2体までしか対応できなかった。


「ライル君! 君はゴーストを集中的に狙い撃ってくれ!」


 指揮を執るリンゼイ隊長の命令を受ける。


「了解!」と答え、外に出ようとするゴーストに狙いをつける。


 最初から弾倉マガジンにはミスリルの部分被甲パーシャルジャケットの弾丸が入っており、M4カービンをフルオートで乱射する。

 パンパンパンと小気味いい発射音が響き、ゴーストたちを貫通していく。

 撃ち込んだ弾は4発だが、物理的な障害はないためそのまま飛んでいき、それだけで8体のゴーストを倒していた。


 ただ、“ギャァァ!”という耳障りな悲鳴と、呪詛の言葉を吐きながら消滅していくため、僅かだが頭痛を感じる。

 ゴーストは消滅する際、精神攻撃を行うためで、10体や20体なら軽い頭痛程度で済むが、数が多くなると無視できないダメージになる可能性があった。


「できるだけ遠くで仕留めます!」と宣言し、M4カービンを収納し、M590ショットガンを取り出す。


 そして、遠距離攻撃用の台に飛び乗った。台の高さは2メートルほどあり、敵からの攻撃を防ぐため1メートルほどの壁がある。


 既にチューブマガジンにはミスリルの散弾ペレットが入ったバードショット用の実包シェルが装填してあり、カシャンという音を立てながら、スライドアクションで薬室に送り込む。


 迷宮の入口の奥にはぼんやりと浮かぶゴーストがうごめいていた。ざっと見で30体ほどいる感じだ。


「ここから狙撃します!」と宣言し、狙いをつける。


 引き金を引くと、M4より低く重い発射音が響く。

 散弾は見えないが、ぼんやりと光っていたゴーストたちが一気に消滅した。


「凄いもんだな」と守備隊の魔術師が驚きの声を上げる。


「対ゴースト戦を想定していますので」


 僕のM590は先端に溝が切ってあるライフルド・チョークになっている。これは散弾を拡散させるためで、20メートル離れたところでは直径2メートル近い範囲に拡散する。


 元々、このショットガンは数が多く耐久力のない、コウモリや蜂などの小型の魔物に対応することも目的の一つとされていた。ゴーストも耐久力はなく、ミスリルの散弾が掠るだけでも消滅させられるため、効率よく倒せるのだ。


 その後、3回同じように散弾を撃ち込み、魔術師と弓術士がその間に攻撃を加えることでゴーストを撃退した。

 20分経ったところで、下がっていくが、リンゼイ隊長から声が掛かる。


「先ほどの弾はあと何回撃てるんだ?」


「16発です。ミスリルの弾丸なので数はあまりないんです」


「そうか……もしかしたら別の班の支援を頼むかもしれん。そのつもりでいてほしい」


 ゴースト以外にもその上位種であるファントムがいるし、吸血鬼ヴァンパイアも霧になって襲ってくることもあるため、僕のショットガンに期待しているのだろう。


 出番があるかと思ったが、他の班の魔術師と弓術士は僕たちの戦いを見て、ゴーストが出てくる前に魔術を撃ち込み、その隙を突いてくる敵には弓術士が対応するという方法を採り、危なげなく倒している。


 その後の戦いでは僕の出番はあまりなかった。逆にローザとアメリアさんは前衛に出て剣舞のような華麗な動きでアンデッドたちを次々と葬っている。

 特にローザは縮地のスキルを使い、敵の真ん中に躍り込むと、刀術の極意の技の一つである乱れ斬りによって一度に数体の魔物を倒していた。


 後退した後、額に汗を浮かべているローザが話しかけてきた。


「ライル殿のレベルはどうだ? それがしはレベルが228に上がっているのだが」


 ローザのレベルは最初200だったから、この3時間でレベルを28も上げたことになる。


「僕も242に上がっているよ。まだまだ上がりそうな感じだね」


 戦いを始めてからレベルを18上げている。これは敵のレベルが250程度と僕たちより高いことと、12人でパーティを組んだ状態になっており、他の人が倒した魔力も吸収できているためだ。レベルアップしたことで魔力MP保有量が1万近く上がり、余裕がある。


 他の班もベテランぞろいのミスリルランクということで戦いは順調に推移していたが、敵に人狼ワーウルフとヴァンパイアが混じり始めてから苦戦し始める。


 ワーウルフは狼を擬人化したような姿で、鋭い爪と牙を持ち、鋼製の鎧を紙のように引き裂くことができる。また、素早い身のこなしと格闘術の心得を持っているため、懐に入られると厄介だ。

 更に通常の攻撃は効かず、魔法金属性の武器か魔術しかダメージを与えられないし、ダメージを与えたとしても再生の能力を持っているため、倒すのに手間がかかる。


 ヴァンパイアは更に厄介だ。

 ヴァンパイアは300階の守護者ガーディアンで、レベルは400もある。また、火や風、暗黒魔術の使い手であるだけでなく、魔眼による魅了や麻痺などの特殊な攻撃も使ってくる。


 ワーウルフと同様に魔法金属の武器か魔術による攻撃しか効かず、再生能力もあるが、それ以上に厄介なのは知性を有していることだろう。

 言葉を発することはないが、こちらの弱点を突いてくる攻撃は厄介で、既に5人以上が戦闘不能に陥っていた。

 幸い、数が少ないため、戦線は崩壊していないが、確実に戦力は落ちている。


「神官は神聖魔術による支援を行え! 後衛はヴァンパイアを集中的に攻撃しろ! 前衛は倒すより倒されないことを考えろ!」


 リンゼイ隊長が声を枯らして指示を連発している。


「ライル君! ヴァンパイアを狙えるか!」


 まだ僕の出番ではないが、素早い動きのヴァンパイアに魔術師の魔術は当たらず、弓術士のミスリルの矢も有効なダメージを与えられずにいたためだ。


「了解しました!」と叫び、狙撃用の台に飛び乗る。


 M4カービンを取り出し、フルオートにセレクトし、前線から10メートルほど後ろにいるヴァンパイアに狙いをつける。


 いつも通り、白い予測線が現れ、それに従って照準を合わせ、引き金を引く。

 パンパンパンと3発の弾丸が発射され、ヴァンパイアの胸に吸い込まれていった。ヴァンパイアは苦悶の表情を浮かべるが、最後にニヤリと笑った。


 その瞬間、身体が硬直する。


(不味い。麻痺か……)


 そのまま膝から崩れ落ちるように前のめりになり、防御用の壁にもたれかかる。


「大丈夫か」とシーカーの魔術師が聞いてきたが、口が上手く動かず、答えられない。


「麻痺か! これを飲め!」と言って、ポーションの瓶を口に突っ込まれる。


 酸っぱいような刺激とひどく苦い液体が口に広がる。

 徐々に身体が動くようになり、「ありがとうございました」と礼を言えるくらいに回復した。


「奴の目には気を付けろ。魔眼はタイムラグなしで発動してくるからな」


 油断していたわけではないが、この距離であんなに簡単にかかるとは思っていなかった。

 ヴァンパイアとは以前も戦ったことがあるが、その時は200メートルくらい離れた場所から狙撃しただけだったため、実感としてなかったことが原因だ。


(麻痺だったからよかったけど、即死のスキルなら僕は今頃死んでいた。でも敵はまだレベル400に過ぎないんだ。これからもっと強い魔物が出てくる。油断だけはしないようにしなければ……)


 ポーションの苦みを飲み込みながら覚悟を決め、再び銃を構えた。

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