第三十五話「誕生パーティ:後篇」
ローザの誕生パーティは盛り上がっている。
ドワーフのグスタフさんは同じ酒好きの
「それにしても見事な刀だな」とスタンリーさんがいい、
「苦労して集めた甲斐があったというものだ」とアベルさんも頷いている。
2人はラングレーさんと同じパーティに所属しており、ローザにプレゼントされた刀、“
「儂も久しぶりに良い仕事ができて満足じゃ!」
「それを言ったら僕もだよ。アダマンタイトの魔剣に関われるなんて思ってもいなかったからね」
アーヴィングさんは黒紅に炎を纏わせる魔法陣を刻んでいる。
魔剣自体はこの国、スールジア魔導王国ではそれほど珍しい存在ではないけど、素材がアダマンタイトとなると話は変わってくる。
最低でも一振り1千万ソル(日本円で10億円)はするので、普通は王都シャンドゥの工房でしか作られることはない。
「仕事の後の酒はやっぱりいいものじゃの」とグスタフさんが大きなグラスに口をつけている。
グスタフさんが飲んでいるのはビールではなく、ウイスキーだ。無類の蒸留酒が大好きで、特にハイランドのウイスキーが気に入っているらしい。
その横ではスタンリーさんが「このビールも美味いぞ」と言いながら、10リットルくらい入りそうな小型の樽かと思うほど大きな特製のジョッキでビールを飲んでいる。
「いやいや、やはりサケが一番だ」とアベルさんがいい、アーヴィングさんも「そうだよね」と言いながら、四角い木の箱のような器でサケを飲んでいた。
アーヴィングさんはマシア共和国のサケが大好きで、個人で輸入しているほどだ。
一度、一緒に飲んだが、とても美味しいお酒だった。ただし、治癒魔術では追い付かず、次の日は酷い二日酔いになっている。
他にもグスタフさんに勧められるままウイスキーを飲んで潰れたり、スタンリーさんと同じペースでビールを飲んで記憶を無くしたりと、お酒では何度も痛い目に合っている。
だからこの4人には極力近づかないようにしていた。
ローザの両親であるラングレーさんとディアナさんだが、アメリアさん、ペネロペさん、モーゼスさんと一緒にワインを傾けていた。
ラングレーさんもお酒は大好きで普段はグスタフさんたちと一緒に飲んでいるのだが、飲み過ぎると僕に絡むのでディアナさんが目を光らせているのだ。
というわけで、僕とローザが浮いている感じだ。
2人だけでいる時間は長いが、こういう雰囲気で2人だけというのは初めてで何を話したらいいのか困ってしまう。
最初は刀の話をして何とか盛り上がることができたが、すぐに話題が尽きてしまった。
仕方がないので共通の話題である明日からの迷宮の話をすることにした。
「そういえば、最近迷宮の魔物が増えたという話があるけど本当なのかな」
「うむ。父上たちもそのようなことをおっしゃっていたな」
迷宮に入る準備のため、情報収集を行ったが、4月に入った頃から徐々にだが魔物の数が増えているという話を聞いている。
若手のシーカーたちはあまり危機感を持っていないようで、「探し回る手間が省けて助かる」と言っている。
しかし、ベテランになるほど不安感と持っている人が多く、「
「スタンピードの前兆かもという人もいるけど、どうなんだろうね」
「母上に聞いたが、それは違うようだ」
「どういうこと?」
「スタンピードは何らかの原因で急激に増えた魔物を強制的に排出するために、迷宮が階層を解放すると言われている。魔物は
マナヴェインは地下からマナが噴き出す場所で、その上に迷宮ができると言われている。
「なるほど」
「今まで確認できているスタンピードでは必ず下の階層から始まっている。何の兆候もなく、我らシーカーがいる階層に突然下層階の魔物が現れるから厄介なのだ。今回のように上層階の魔物が増えたという話は聞いたことがないそうだ」
「そう言えば学院で習った気がするな……なら、どういうことなんだろうな?」
ローザが答えようとした時、ディアナさんが口を挟んできた。
「誕生日のお祝いなんだからもう少し色っぽい話をしなさい」とからかわれてしまった。
その話はそれで打ち切り、その後は他愛のない話をして時間を過ごしていった。
■■■
パーガトリー迷宮の301階から350階はゴーレムが現れるエリアだ。しかし、ほとんどがストーンゴーレムやアイアンゴーレムで、シルバーやゴールド、プラチナといった貴金属系のゴーレムが
魔法金属系のミスリルゴーレムは350階の
また、遭遇したとしてもドラゴンに匹敵すると言われる防御力を持ち、通常の武器では傷を入れることすら難しい。また、同じアダマンタイトの剣であっても破損する可能性が高く、シーカーたちは相手にすることなく撤退する。
更に魔術に対する耐性は物理耐性以上で、レベル400を超える
アダマンタイトのインゴットを集め始めたのは10年以上前で、ちょうどその頃、スタンリーらの3人のレベルが300を超えたところであったため、ゴーレム狩りが主となっていた。
本来であれば、数ヶ月でその下の階層に向かうため、運よく集まったとしても2キログラム程度なのだが、スタンリーらの武術レベルが低かったこともあり、比較的相性のいいゴーレムを相手に3年近い期間を350階層付近で過ごした。
3人のスキル向上とラングレーらのインゴット集めという目的が一致したためだが、10キログラム以上のインゴットを得ている。
そのうち、自分たちの武器に7キログラムほど使い、残りの3キログラムが残っていたのだ。
350階付近で長期間停滞したことに対し、スタンリーらに不満はなかった。
一番の理由は彼らもローザを娘のように思っていたためだが、武術のスキルを上げた方がその後の攻略に役に立つと考えたことが大きい。
実際、彼らより早い段階で下に向かったパーティはミノタウロス系の魔物に苦戦しており、全滅したところすらある。
スタンリーは戦棍術の極意を、アベルは戦斧術の極意を、ペネロペは長弓術の極意と風魔術の極意を得たことで、難敵であるミノタウロスに対し、優位に戦いを進め、ブラックランクとして認められる400階層を突破していた。
もっとも彼らもその下の階層で5年以上停滞している。
パーガトリー迷宮の401階層以下では悪魔系の魔物が現れる。悪魔系の魔物は物理的な攻撃力に加え、魔術を得意としており、特に暗黒魔術を使う
スタンリーとアベルは種族的に魔術耐性が低く、攻略が止まっているのだ。そのため、現状では二人の魔術耐性を上げることと神聖魔術が使えるディアナとペネロペの能力向上を主眼にしている。
本来であれば、ここに魔術耐性が高く、物理・魔術の攻撃力があるローザが加われば、攻略は一気に進むはずだ。しかし、ラングレーらはローザがやりたいようにすることを優先するため、誰もそのことを気にしていなかった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます