第三十一話「目標レベル到達」
4月1日。
僕とローザはサイクロプスを倒した。
相手はレベル480ほどもある大物で、通常はレベル400を超える
そのため、僕もローザも無傷で倒せたことが信じられず、大した魔物が現れなかったことから早々に町に引き上げてきた。
サイクロプスを倒した結果、僕はレベル178から200に上がり、ローザはレベル101から152に上がっている。
「一気に51上がったんだね! 凄いもんだ」と感心する。
「ライル殿のお陰だ。
「僕一人だったら遠くから狙撃して終わっていたから。君がいてくれたお陰で、僕もレベルを上げられたんだから、おあいこさ」
サイクロプスは以前にも狙撃で倒したことがあるが、200メートルほどの距離から弱点である目を撃ち抜いただけで、あんなに近づいたのは初めてだ。
「いや、今回も某がいなくともライル殿1人でも十分に戦えた。最後の止めも近くまで引き付けてから目を撃ち抜けばよかったはず」
あまり納得した様子がない。
彼女の言う通りで僕だけでもできた自信はある。
「これで迷宮に入ることができるようになったんだからいいんだよ」
「確かにそうだが……」というが、
「レベル200になったからモーゼスさんもアーヴィングさんも迷宮に入ることを許可してくれるはず。君もラングレーさんとディアナさんの許可をもらっているから、これでいつでも迷宮に入れるようになったんだ。それを素直に喜ぼう」
「そうだな。これから某がライル殿を助ければよいのだ」
ようやく笑顔が見えた。
レベル200になるまではモーゼスさん、アーヴィングさんが迷宮に入ることを禁じた。理由は
今回のレベルアップで僕のMP総量は2万6千ほどになった。これでM4カービンなら冷却を含めても140発近く撃てる。
1日にこれだけ撃てれば、弓術士と同等の働きはできるらしい。
「
ゲートキーパーは10階層ごとにある転移魔法陣を守っている魔物で、ガーディアンは100階層ごとに出てくる魔物だ。
通常はそいつらと戦ったら地上に戻るので、全力で戦うらしい。
「こいつは大物だね」と男性職員は笑顔で言うが、
「今回は傷が多いね。接近戦で倒したのかい」と聞いてきた。
僕が持ち込む魔物のほとんどが一撃で倒したものだからだ。
「ええ、彼女と一緒に倒しました。今回は目を潰していませんから、査定の方もよろしくお願いしますね」
サイクロプスの目はポーションの原料になるらしく、高値で引き取ってくれるが、今までは目を撃ち抜いていたのでもったいないと言われていた。
「了解したよ。皮の方は少し値は下がるが、いつもより高くなることは間違いないね」
30分ほどで査定が終わった。
結果は1万ソルほど。
「久しぶりにサイクロプスの目が手に入ったから、少し色を付けておいたよ。でも、無理しちゃいけないよ。危ないと思ったら最初に目を潰すんだ。死んだら元も子もないからね」
サイクロプスは目から麻痺の光線のようなものを発射する。そのため、通常のパーティでも弓術士はまず目を潰しに行くそうだ。
そう言う事情もあってサイクロプスの目は希少価値があるということらしい。
「本当はもう少し高く買ってあげたいんだが、守備隊の隊長のお陰で商人たちが安く買い叩こうとするから……」
マーカスの嫌がらせは未だに続いており、エクレストン魔導伯家の力も使って商人たちに無理やりカルテルを組ませたらしく、ハンターが持ち込んだ魔物はどんなに価値があっても安く買うようになっている。
そのため、ハンターたちはシーカーに鞍替えし、町の外が危険な状態になりつつあった。
「全く何を考えておるのだ」とローザは憤慨している。
彼女の怒りはもっともだが、ここでマーカスに逆らっても解決するわけじゃないし、以前のような命に係わるような状況でもないため、半ば諦めている。
「そろそろ僕も迷宮に入るつもりですから、そんなに長くは続きませんよ」
「ハンターたちが戻ってくれるのはうれしいが、いい素材を持ってくる君がいなくなるのは大きな痛手なんだが」
そんな話をした後、金を受け取り、モーゼスさんの家に戻っていく。
モーゼスさんとアーヴィングさんにレベル200になったことを報告する。
「おめでとう。すべては君の努力の結果だよ」とモーゼスさんがいい、
「こんなに早く200になるとはね。驚くより呆れるよ。まあ、めでたいことに違いはないけどね」
アーヴィングさんもそう言って祝福してくれた。
「これで迷宮に入ってもいいですよね」と確認する。
「私はいいと思うよ。アーヴィングさん、あなたの意見は?」
「僕も十分だと思う。たった2人でサイクロプスまで倒せるなら、少なくとも250階層までは問題なくいけるだろうし」
グリステートにあるパーガトリー迷宮の250階層までは洞窟型のダンジョンとなっており、特殊な攻撃を行ってくる魔物は少ない。
「君たちも
迷宮には罠が多数あり、その解除ができないと厳しい。僕もローザもアーヴィングさんに習ってはいるが、本職の斥候職がいた方が安全だ。
しかし、僕たちは断るつもりでいた。
「50階までは二人だけでやってみたいと思っています。罠の解除の訓練にもなりますから」
モーゼスさんは渋い顔で「うーん」と唸るが、アーヴィングさんは「いいんじゃないかな」とすぐに認めてくれた。
「低層階とはいえ、2人だけなんですよ。危険ではありませんか?」とモーゼスさんは反対のようだ。
「危険は承知の上だろうし、この子たちよりレベルが低い子たちでも100階くらいまでは問題なくいけているんだ。あまり過保護にしない方が彼らのためだよ」
僕から言いにくいが、同じことを考えていた。
僕もローザも超一流の指導者に師事し、更に魔銃という強力な武器を与えられ、急速なレベルアップを果たしている。他の若いシーカーから見れば羨ましい限りだろう。
そのことに負い目を感じているつもりはないが、このまま過保護なままでは僕たちはいつまで経っても独り立ちできないのではないかと思っている。
しかし、そのことをモーゼスさんに告げることは憚られる。何の関係もない僕のためにいろいろと骨を折ってくれたのだから。
「そうですね。ライル君とローザ君なら問題ないでしょう。あとはラングレーさんが認めるかどうかと、守備隊が何かしてこないかという点くらいですか」
その点は僕も同意見だ。
ラングレーさんはローザのことを溺愛しているから、2人だけで迷宮に入ることに反対してくる可能性が高い。
それ以上に気になるのはマーカスが何か仕掛けてくるのではないかということだ。
守備隊も訓練とレベルアップのため、定期的に迷宮に入っている。もちろん、隊長であるマーカスも迷宮に入っていた。
迷宮では死体が残らないし、数百人のシーカーがいると言っても他のシーカーと出会う可能性は非常に低い。つまり、理想的な密室ということになる。
マーカスの息の掛かった守備隊の猛者が奇襲を掛けてきたら、僕たちではひとたまりもないだろう。
「それでも某たちは迷宮に入るつもりだ」とローザが宣言する。
「僕も同じ気持ちです。マーカスが何かしてくるとしても、それに怯えていては奴の思うつぼです。それに迷宮内では知り合いでも敵と思った方がいいと教えてもらいました。油断さえしなければ、逃げるだけなら何とかなると思います」
「確かにそうだが……うむ」とモーゼスさんは頷き、
「私はシーカーではないから、ラングレーさんの判断に任せよう。彼がよいというなら私は何も言わない」
こうしてモーゼスさんの説得に成功した。
ラングレーさんたちは3日後の4月4日に迷宮から出てくる予定であるため、その時に話をすることに決まった。
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