第二十八話「アンデッド狩り」
3月21日。
僕とローザは二人だけで魔物を狩るため、アルセニ山地に入った。
目的の獲物はアンデッドだ。
午前7時に出発し、休憩を挟んで午前10時過ぎに目的地に到着した。
「では打合せ通り、
「それでいいよ。相手のレベルは120から130くらいだけど、動きはそれほど速くない。だから無理さえしなければ何も問題はないはずだ」
「うむ。しかし、ライル殿に頼ってばかりで申し訳ない気持ちになるな」
「気にすることはないさ。たまたまここは僕の方が有利というだけで、これから君に頼るところもあるはずだから」
周囲の警戒を強めながら、敵を待つ。
30分ほど待ったところで、7体のスケルトンが現れた。錆びた剣と穴が空いたラウンドシールドをだらりと持ち、ゆっくりとこちらに向かって歩いてくる。
「では、参るとするか!」とローザが気合を入れながら、刀をスラリと引き抜いた。
僕もショットガンを構える。
スケルトンは僕たちに気づいたのか、盾を前に翳し、剣を低く構えながら向かってくる。弱点である頭を守っており、歩調もぴったりと合っていることから、思った以上に統制の取れた感じだ。
「50メートルを切ったら射撃を始める。いくぞ!」
僕も大声を出して気合を入れた。
「あの状態の敵を撃てるのか」とローザが聞いてきた。
確かに盾でしっかりと頭を守っており、矢ならば防がれてしまう。彼女もショットガンの威力は知っているが、不安に感じたのだろう。
「問題ない」と答え、真ん中のスケルトンに照準を合わせる。狙いは盾の向こうにあるスケルトンの頭。
目測で50メートルになった。スケルトンは歩調を変えることなく、近づいてくる。
「攻撃を開始する」と宣言し、ショットガンの引き金を引いた。
バシュッという低い音が響き、その直後にバン!という木の板が割れる音が続く。
真ん中のスケルトンの盾が真っ二つに割れ、そのまま崩れ落ちるように倒れていった。
「お見事!」というローザの声が聞こえるが、僕はそれに応えることなく、M590のハンドグリップを引いてスライドさせ、残された薬莢を排出し、次弾を装填する。
ショットガンは1個の弾丸だけのスラグ弾の他に、9個の弾を飛ばす
次弾を装填すると、圧縮空気の緑色の魔法陣が自動で起動する。
次の弾を撃つのに2秒ほど必要だが、照準を合わせている間にその時間が経過した。
スケルトンは仲間が倒されても同じペースを守っている。
既に40メートルほどに近づいており、ゴリゴリという骨と地面の石がこすれる不快な音が聞こえている。
歩調を合わせて近づいてくる姿は不気味だが、それに構うことなく、次の弾を発射した。
1体目と同じように崩れるように倒れるが、次の瞬間、他のスケルトンたちが突撃してきた。
走る速度は人間並みで、もう1体を倒したところで完全に接近されてしまった。
「参る!」とローザが宣言し、既に抜き放っていた刀を上段に構え、前に出る。
4体のスケルトンはローザを囲むように散開していく。その見事な連携に驚きを隠せないが、側面から援護射撃を行うべく、左に飛ぶように移動した。
一番左の端にいるスケルトンは正面いるローザに向かうべきか、盾を持っていない無防備な右側に移動した僕を狙うべきか一瞬迷い、眼窩の奥の赤い光を揺らめかせながらしゃれこうべを小刻みに揺らす。
1秒ほどで僕が危険だと判断し、身体の向きを変えようとした。しかし、その隙は見逃さない。
視界に見える予測線に従ってショットガンを放ち、頭を吹き飛ばす。
その間にローザは3体のスケルトンの攻撃を巧みに回避し、瞬時に2体の首を刎ねた。
最後の1体は仲間がやられていることを気にすることなく、剣を振り抜いた後の隙を狙って剣を突き出す。
その動きもローザには分かっていたようで、身体を回転させてそれをかわし、その勢いのまま最後の1体の首も刎ね飛ばした。
「お疲れ様。完璧な攻撃だったよ」と微笑みながらいうと、ローザも「ライル殿こそ戦い慣れている。素晴らしかった」と褒めてくれた。
ショットガンの銃身の下にある筒状の弾倉、チューブマガジンに弾を補充し、スケルトンの
「初めての実戦の感想は?」と聞いてみると、
「最初は少し戸惑ったが、父上やアメリアの動きに比べたら何ほどでもない。落ち着けば危険はないというライル殿の言葉通りであったな」
「戸惑っていたようには全く見えなかったよ。次もこんな感じでいってみようか」
その後、リビングデッド、グール、マミーと倒していく。ゴーストやファントムといった霊体系のアンデッドが出てこないので苦戦はしていない。
2時間ほどで僕の魔力が三分の一になった。
「そろそろ帰ろうか」と言うと、ローザは少し心残りなのか、「よいところなのだが」と言ってきた。
「毎日来るつもりだから、無理をする必要はないよ。それに今日だけでもずいぶんレベルが上がったんじゃないのか?」
そこで彼女はパーソナルカードを確認する。
「おお! レベルが81に上がっている! 今日だけで60以上も上がったのか」
町を出る前に確認したが、彼女のレベルは20だった。魔物を倒さなくても訓練などで少しずつレベルは上がるためで、レベル1というのは小さな子供か流れ人くらいしかおらず、一般の人でも20歳くらいでレベル20くらいにはなる。
「ステータスが上がっているから、町に戻って慣らした方がいい。だから今日は帰ろう」
「うむ。それがよいかもしれぬ」
レベルアップしたことで納得できたのか、素直に帰ることに同意してくれた。
帰り道も特に何ごともなく、無事に町に戻る。
今回、彼女のレベルがこれほど上がったのは敵とのレベル差が大きかったためだ。
あの窪地に出てくるアンデッドのレベルはリビングデッドとスケルトンが約120、グールとマミーが約130で、最初のレベル差は100ほど、最後でも40ほどのレベル差があった。
更に僅か2時間だが、僕と2人で58体のアンデッドを倒している。
そのため、効率よくレベルが上がったのだろう。
ちなみに僕もレベルを2つ上げている。
アンデッドのレベルが僕より低かったためローザに比べれば少ないが、ここ最近では
グリステートの町に入る前、最近よく見かける魔術師たちを見た。
魔物除けの魔法陣を町全体に施すらしく、測量をしながら特殊な道具で線を引いている。
魔法陣に詳しいモーゼスさんに聞いたら、迷宮から漏れる魔力を使って町から魔力が漏れない障壁のようなものを作るらしい。
魔物は人の魔力を感じて寄ってくるので、成功すれば画期的なことらしい。
「新たな理論でもできたのかもしれないな。しかし、これほど大規模なものが成功するとは思えないんだが……」
そう言いながら、少し首を傾げていた。
ハンターギルドにいき、
カウンターに58個のマナクリスタルを置き、裏の倉庫でボロボロの剣や盾をマジックバッグから取り出す。
「ずいぶん倒してきたね」と受付の職員に驚かれる。
査定の結果、8000ソル(日本円で80万円)になった。もっともそのほとんどがマナクリスタルで、武具は大量に持って帰ってきたが、300ソルにもならなかった。
1日の儲けとしてはそれまでよりずいぶん下がったが、レベル172と81のコンビが稼ぎ出す金額としては異常だ。
それでも僕が毎日5000ソル以上稼いでいるので、ハンターギルドの人たちは特に驚くことはなかった。
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