第十三話「狙撃銃」

 大陸暦1119年3月15日。

 この町に来てから1年半ほどが過ぎた。


 最初の魔銃M4カービンに続き、ショットガン、ハンドガンが完成し、そして今日、狙撃銃スナイパーライフルが完成した。


 ショットガンは12ゲージのモスバーグM590A1を模したもので、迷宮内での使用を想定し、スラグ弾でのノックバック効果と散弾での散布効果を期待したものだと教えてもらった。


 ハンドガンはスミス&ウェッソンM29で、モーゼスさんは“44フォーティフォーマグナム”と呼ぶことが多い。回転式拳銃リボルバータイプで、護身用としていつも身に着けるようにしている。


 そして今日できた狙撃銃だが、対物アンチマテリアルライフルであるバレットM82A1を模したもので、それまでの銃と比べると非常に大きい。


 銃ができたことも凄い進歩だが、僕も1年半もの間、ひたすら訓練を行い、身体能力とスキルはずいぶん向上している。


 特に戦闘スキルでは“銃の心得”がレベル4になり、初心者を卒業したと認められるところまで来た。

 ただし、戦闘技術の師匠であるラングレーさんからは慢心するなと釘を刺されている。


「どれだけスキルを上げても実戦を経験していなけりゃ半人前だ。魔物を自力で倒して初めて一人前と言えるんだからな」


 このことは僕に対してというより、娘のローザに向けてのものだろう。


 そのローザとは1年半前よりずいぶん仲良くなれた。最初の半年ほどは敬語で話していたが、今では同年代の友達として普通に話している。

 僕としては友達から恋人に昇格したいのだが、どうしていいのか分からず、“友達以上恋人未満”という状態が続いている。


 彼女とのことを進展させたいと思っているが、誰にも相談していない。多分、モーゼスさんを始め、全員が気付いていると思うけど、年が離れすぎていて相談しづらいのだ。


 彼女以外の友人だが、情けないことに一人もできていない。

 この町に同世代がいないわけではない。10代後半から20代前半の若者は結構いる。

 しかし、その多くが探索者シーカー狩人ハンターで、魔物との戦いを経験している者ばかりだ。僕たちのように訓練ばかりしている者はおらず、話が合わない。


 また、シーカーやハンター以外の職人や商人もいるが、生活リズムが違うため、あまり顔を合わせる機会がなかった。


 友達ができないことは残念だが、それほど危機感があるわけじゃない。学院時代と違い、僕のことを認めてくれるローザがいるから。



 話を戻すが、今日狙撃銃が完成した。

 この銃が性能通りだと確認でき、僕がきちんと扱うことができたら、山に入って魔物を狩ってもいいと言われている。

 ようやく待ちに待ったレベルアップを図ることができるということだ。


 いつも射撃の訓練をしている町の南の荒地に向かう。

 M82はドワーフの鍛冶師グスタフさんが持っている。身長150センチしかないグスタフさんとほぼ同じ145センチもの長さがあり、ちょっと不釣り合いな感じだ。


 重さが8キログラムもあるので、収納袋マジックバッグに入れていけばよさそうなものだが、直接手で持っていきたいらしい。


 ちなみにオリジナルのM82A1は14キログラムくらいあるそうなので、これでも十分に軽量化が図られているそうだ。


 いつもの射撃訓練場に着くが、普段より標的から離れた場所だ。

 普段は遠くても標的から100メートルほどだが、今日は200メートルほど離れたところで待機するよう言われている。


 アーヴィングさんが標的を設置しにいき、グスタフさんから銃を受け取ったモーゼスさんが説明を始めた。


「既に説明しているが、こいつは非常に強力だ。性能通りなら射程は2キロ以上、厚さ3センチくらいの鉄板ならぶち抜ける。試す機会はないと思うが、アダマンタイトの弾丸を使えば、ドラゴンの鱗ですら貫通できるはずだ。その分、扱いが難しい……」


 M82の弾丸はM4カービンのものの10倍の重さがあり、速度も計算上では1.7倍近くある。つまり運動エネルギーでは30倍近い計算になるのだ。

 と言っても、この銃に関しては、僕は一度も撃っていないので、どの程度の威力なのか実感は全くない。


「……あの標的を撃ってもらう。ではよろしく頼んだよ」


 そう言ってM82を渡してきた。

 受け取るとずっしりとした重量を感じ、早く撃ちたいという思いが募る。


 銃の状態を確認しながら二脚バイポッドを展開し、地面に置く。

 この銃はオリジナルほど反動が強くないはずなので、手で持って撃つこともできるらしいが、基本的には二脚で固定して使う。

 特に今日は試射ということで、少しでもリスクを減らすため、安定した伏射の姿勢で行う。


「準備完了です。いつでも撃てます」と告げると、モーゼスさんは静かに頷いた。


 独特な形状の銃床ストックに肩をしっかりと付け、左手はセレクターレバーを操作した後、ストックの下にあるリアグリップをしっかりと握る。

 右手でボルトレバーを引き、薬室チャンバーに弾丸を送り込み、グリップを握った。


 チャンバーの上に緑色の魔法陣が浮き上がる。

 この魔法陣は風魔術のもので、圧縮空気を発生させるものだ。


 魔力を注入していくが、なかなか消えない。しかし、僕に焦りはない。この銃では魔力の注入に20秒掛かることが分かっており、その間に光学式照準スコープを覗いて照準を合わせる。


 スコープは小型の望遠鏡で、中に十字の線が引かれており、それで照準を合わせるのだが、近距離でしか試射を行っていないため、あまり参考にできないと聞いている。


 緑色の魔法陣が唐突に消えた。


「発射準備完了。撃ちます!」といい、呼吸を整えてから、引き金トリガーを引く。


 次の瞬間、“ブォン”という重い音と“パーン”という比較的軽い音が同時に聞こえる。肩にストックが押し付けられる。


 スコープを見ているため僕には見えないが、銀色の魔法陣が15個、一瞬だけ浮かび上がっていたはずだ。


 200メートル先の標的が真っ二つに割れ、その後ろにあった直径2メートルほどの岩の上部が大きく割れて吹き飛んでいく。


「凄い……」


 誰の声かは分からないが、僕も同じ思いだった。


「セレクターを“SAFE”に」というモーゼスさんの言葉で、慌ててセレクターレバーを操作する。


 駆け寄ってきたモーゼスさんとグスタフさんに場所を譲り、標的があった場所を呆然と見つめていた。


「凄いものだな。これならば竜すら倒せるというモーゼス殿の言葉が真だと信じられる……」


 ローザの言葉に「そうだね……」と答えることしかできなかった。


 それほど衝撃を受けていたのだ。


「魔力の消費量はどうなんだい?」とアーヴィングさんが聞いてきた。


 慌ててパーソナルカードを出し、数値を確認する。


「350ほど使いました。計算通りです」


「そうか。4発は撃てる計算だな。少し心許ないけど、この威力なら仕方ないな」


 そんな話をしている間にも、モーゼスさんとグスタフさんはM82を確認していた。しかし、二人の表情は険しく、何かトラブルがあったようだ。


「何かありましたか?」と聞くと、


銃身バレルが思った以上に過熱している」


「それが問題になるんですか?」


 そこでグスタフさんが話に加わってきた。


「1発や2発なら問題はない。だが、ここまで温度が上がると、放熱に時間が掛かりすぎるし、均一に冷却できねば銃身が歪む。どうしたものかの」


「しかし、これ以上厚みは増やせませんよ。アダマンタイトを使って何とか強度は持たせましたけど、鋼部分の加工は限界なんですから」


「分かっておる」と、グスタフさんは苦虫を噛み潰したような表情でモーゼスさんに答える。


 詳細は分からないが、弾丸と銃身の摩擦で発生する熱で歪みが起きる可能性があるらしい。


「水冷……いや、魔術を使った冷却システムを付けますか? 強制冷却なら、均一に冷やすこともできると思いますが」


 モーゼスさんの提案にグスタフさんは「それしかないかの」と渋々頷いた。


 結局、試射はそれで終了となった。

 重苦しい雰囲気の中、店に戻ったところで、詳細を聞いてみると、銃身の厚みが加工技術の限界でオリジナルより薄いことと、鋼自体の強度がオリジナルより劣ることから、摩擦で発生した熱が問題になるらしい。


「それならもう少し威力を弱めてはどうですか?」


「その手もあるね。ただ、私としてはオリジナルに負けない魔銃を作りたいんだよ。だから、少しだけ時間をもらえるかな」


「ここまで待ったんですから、問題はないです」


 こうして、M82は改造されることとなった。

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