第61話 クッコロ
真っ暗になる前に浜辺の焚火のところまで帰ってくることができた。
アリスが恭しく頭を下げて出迎えてくれる。
「おかえりなさいませレオ様。お疲れさまでした」
「ただいま、アリス。アリスの火力支援のおかげで助かったよ」
「当然のことをしたまでです。ところでレオ様、お食事になさいますか? それともお風呂が先ですか? それともア・タ・シ? そこの脳筋ロリでもいっこうに構いませんが……」
何を言っているんだろうねこいつは?
「誰がロリよ。私はレオより年上なんだからねっ」
レベッカも話を混ぜ返すなよ……。
「ロリババア……で、ございますか」
怒りに任せてレベッカが放った渾身の右ストレートをアリスは苦も無く避けた。
もう話が面倒だから全てスルーしてやることにしよう。
「本当はお風呂に入りたいけどそんな施設はないもんね。仕方がないから飲料用の水を使って身体だけは綺麗にしたいな」
「それでしたら先ほど川を発見いたしました」
レベッカの左回し蹴りを躱しながらアリスは平然と言葉を繋いでいる。
レベッカの猛攻は続いていたがアリスは全てを紙一重で避けていた。
「でかしたアリス! その水は飲んでも大丈夫なの?」
「はい。成分は解析済みです。スルスミのアームを使えば川の横にプールを掘ることなど造作もございません。露天風呂でよろしければすぐにご用意できます」
だけどこの季節に川に入るのはつらいな。
陽も落ちて気温はどんどん下がり始めている。
懸念が表情に出ていたのかアリスが詳しく教えてくれた。
「ご安心くださいませ。先ほどからこのたき火で石を焼いております。これから作るプールに焼いた石を入れればちょうどいい温度のお風呂になりますから」
なるほど、それなら安心だ。
強烈な右アッパーを片手でブロックしたアリスがレベッカに顔を近づけた。
「というわけでレベッカ様もお風呂のご準備を。すぐに冷めてしまうでしょうから一緒に入りましょう」
「……………………一緒にって、アリスと?」
「はい。それからレオ様もでございます」
レベッカは口をパクパクさせている。
「あの、俺はお湯を浸したタオルで体を拭えれば――」
「いけません!」
「だめよ!」
なんで二人そろって拒否するかな。
「わ、わ、わ、私は殿下やイルマやマルタ隊長と違って胸が小さいからっ!」
レベッカが正気を失って訳の分からないことを言い出した。
「そ、その、つまらないかもしれないけど……」
俯くレベッカの肩をアリスがポンと優しくたたく。
「ご安心ください。小さい者同士、今晩はお風呂で親睦を深めましょう」
確かにアリスも小さいけど、オートマタは自由にサイズ変更も可能だったような……。
「そもそも大きければ良いなどというのは凡百の俗物どもの考え方でございますよ」
それって、言い換えれば一般的というのではないだろうか……。
「そ、そうかな?」
「もちろんでございます。私が思うにちっぱいにこそ至高にございます!」
その自信の根拠はどこにあるんだ?
「小さな胸の方が感度は高いという学術報告もございます!」
「本当に?」
学術報告は嘘っぽすぎるぞ。
「そうなんだ!」
レベッカは信じてるっ!?
「もちろんです。私の世界にある「ネェチャン」という総合学術雑誌に報告が掲載されておりました」
やっぱり嘘だ!
はぁ……もうなんでもいいや。
「早いところお風呂を設置しよう」
「あら、がっついていますね。そういう少年らしいところもお姉さんは好きでございますよ」
誰がお姉さんだよ……。
この世に生まれて一年も経ってないくせに。
「ではスルスミで穴を掘りましょう。今夜はレオ様に控えめな肉体美を堪能していただくのです!」
控えめという言葉を押し付けてくるこの矛盾は何なんだろう。
アリスの仕事は早かった。
スルスミのアームに取り付けられたパイルバンカーで大きな岩塊に穴が穿たれ、その穴に川から水を引いて貯めていく。
水が溜まったら焼けた岩の塊をいくつも入れればお風呂の完成だ。
「スキャン完了。水温は43度。少し熱めですがすぐに冷めますよ。まずは外でハーピーの血を流してしまいましょう」
アリスが促してもいざとなるとレベッカはピクリとも動かなかった。
「俺は向こうを向いて流すから、レベッカも血を洗い落とした方がいいよ」
「わ、わかってるから」
レベッカに背中を向けて俺も服を脱いだ。
緑色に染まった服は普通に洗濯した程度では落ちそうもない。
軽く臭いを嗅ぐと吐き気を催す生臭さがあった。
「うえっ……。ひどい臭いだ。シャンプーと石鹸も召喚しておいてよかったよ」
パシャーン。
背中越しにお湯を身体にかける音が聞こえてきた。
「生き返る心地がする……」
レベッカのため息が聞こえる。
……全部脱いだのか。
「レオ様、レベッカ様をお洗いするのでシャンプーと石鹸を出してくださいませ。ちなみにレベッカ様は綺麗な色をしていらっしゃいますよ」
どこが? なんて聞くもんか!
これ以上アリスの術中には嵌らない。
アイツは俺を悶々とさせて楽しんでいるのだ。
S型AIめ!
振り向かないように肩越しにシャンプーを持ち上げるとアリスの真っ白な腕が伸びてきて容器を掴んでいった。
それだけでも心臓がバクバクしてしまう。
考えてみればアリスとはずっと一緒にいるのに裸を見たことがない。
……って、当たり前か。
普通は見ないよな。
雑念を振り払うように俺もシャンプーで頭をごしごしと洗った。
花とベリーが入り混じったような香りに心が安らぐ。
桶に汲んだお湯を頭からかけると身も心もすっきりだ。
「レオ様、ちょっとこっちを向いてください」
突然アリスが声をかけてきた。
「振り向けるわけないだろう。アリスもレベッカも裸なんだから」
「大丈夫です。大事なところはもう隠しましたから」
タオルでも巻いたのかな?
それだったら振り返ってもいいのかな?
ちょっと見るくらいなら……。
「うわっ!!」
レベッカとアリスはとんでもない恰好をしていた。
格好というか……大事なところに石鹸の泡だけが乗っている状態だ。
「レ、レ、レ」
「おじさん?」
レベッカと叫びたかっただけなのになぜにオジサン?
いや、そんなことはどうでもいい!
これは前にも見たことのある奴だ。
DVDの中でミヤゾノ・ヒメカちゃんが同じ格好をしていた!
オマリーが大好きでそのシーンを何度も再生しなおしていたからよく覚えている。
ヒメカちゃんは胸がものすごく大きかったけど、目の前にいる二人は随分と控え目だ。
だけど……。
悔しいけどアリスの言う通りだった。
小さいは小さいでやけに引き付けられるものがある……。
「いかがですかレオ様?」
どう答えればいいんだよ!?
「恥ずかしくて死にそう」
それでも顔を横にそむけるだけで隠そうとしないレベッカはなんなの?
「大丈夫ですよ。レオ様はたいそう喜んでいらっしゃいます」
「本当に?」
「ええ。確認してみましょう。腰に巻かれたタオルを外せばすぐにわかることですよ」
「や、やめ……」
格闘戦でアニタに勝てたといっても、まだまだアリスに勝てるレベルではない。
俺のタオルは瞬く間にはぎ取られてしまった。
「くっ、殺せ……」
満天の夜空に星が流れた。
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