これから読む人は「サルでもわかるってそういうことかッ!!」という驚きを必ず持てる物語。
自分の事務所に対するレビューを読んでいる魔法相続士の主人公——津雲直人とサルみたいなイヌ――メルとのかけ合いから始まり、少しとっつきにくいような設定をスラスラと読ませる書き方がすごい。
活字が苦手な人にもオススメできる。
その後の展開も、激しいバトルはないけれどのめり込める。
さくさく進んでいくストーリーと依頼人——十時春華とその周囲が抱える謎を魔法相続士という立場から解決していく姿は読んでいて爽快だった。
エピローグまで読んでタイトルの意味にも納得できたし、ストーリー全体の整理もつけられた。
本当に物語の構成がすばらしい作品。
この世で唯一レベル4以上の魔法相続を可能とする魔法相続士・津雲直人。しかし、貴重な力を持ちながらも彼は非常にへこんでいた。ときどきわけもわからず魔法の相続が失敗するのだ。おかげでネットには悪評を書きこまれ、仕事の数も減る一方。外見は犬なのになぜか人間の言葉を話す相棒のメルは彼を励ましてくれるが、失敗を解決するあては一向に見つからない。そんな中、行方不明になった父と姉を探してほしいという一見相続とは関係のない依頼が持ち込まれ……。
魔法相続という独自の設定を下敷きに、行方不明者の捜索というミステリー要素を含んだ風変りなファンタジー。一見魔法相続とは関係ない事件が思わぬ形で繋がっていき、ちゃんと魔法相続を問題解決への手段に生かしていくストーリー運びが上手い。
そして外見はどう見ても犬なのに自分はサルだと主張し、さらに魔女を自称する相棒のメルティオラが非常にキュートで可愛らしい。普段は好物のチョコレートのことばかり考えているマスコット的な存在なのだが、ときおり人間とは隔絶した倫理観を見せるというギャップもあったり、この強烈なキャラクター性が作品を何倍も面白くしてくれている。
(新作紹介 カクヨム金のたまご/文=柿崎 憲)