第38話買い物

昨日、カトレアと共に武器屋と防具屋に行って予備の鉄剣を2本と革鎧を1着購入し宿に戻ったが、カトレアからは明日以降の行動について提案がされた。


明日は一日自由行動し明後日からギルドで依頼をこなすとの事。

自分は道具屋や雑貨屋などに行き、冒険者として必要と思う物を購入して来るように、また長期的な行動に備え保存の利く食料を最低でも1月分は用意するように言われた。

いや、これって自由行動じゃないよね…。


そんな抗議の声をカトレアはカツヒコが冒険者としてやっていけるか、何が必要で何が必要ないかを判断できるかの確認と言われて一蹴されてしまった。

う~ん、カトレアって冒険者じゃないって言ってなかったっけ?

なのに何で冒険者の事を良く知ってるんだろう…。


宿屋で朝食を済ませると、カトレアは1人で何処かに行ってしまったので自分もカトレアに言われた通り街を散策しながら道具屋や雑貨屋を巡る。


それにてもルミナ村とは違いキャールの街は道路も石で舗装され建物も整然と建てられていて明らかに都会と言った感じだ。

大通りを少し歩いただけでも、様々な店が立ち並び、道具屋だけでなく、雑貨屋や服屋等が何軒もある。

村には道具屋も雑貨屋も服屋も1軒ある程度だし、扱っている品も数が少なかったけど、店に入ると見た事も無い道具などが数多く並べられている。


とは言えどの店でも最初は店員さんも成人したばかりで冒険者気どりの若造が来た、と言わんばかりの感じだったけど、Dランク冒険者で必要な道具を揃えに来たと言って、なら冒険者証を見せてみろと言う店員には冒険者証を見せるとそれまでとうって変わって態度が変わった。

うん、どこの世界でもこの辺は変わらんね。

日本と違うところは、客だろうと買う気が無さそうなら、あからさまに冷たい対応をするってところぐらいかな…。


そんな事を思いつつ、道具屋では10メートル程のロープ数本と大きめのフックそして野営具一式を購入し、雑貨屋では日用品を購入し、街を歩き回って気になっていた薬屋も覗いてみる。


大きな看板に「薬」とだけ書かれた店だけど何となく気になってたんだよね。

扉を開けると、ツーンと鼻に突く薬の匂いがし、店内には乾燥させた薬草らしきものが数多くぶら下がっている。


「いらっしゃい。 どんな薬が欲しいんだい」


椅子に腰かけたまま声をかけて来た老婆が品定めをするように自分のつま先から頭のてっぺんまで見て、興味を失ったのか膝の上に居る猫に目をやり撫で始める。


「ここにはどんな薬があるんですか? 解毒薬とかポーションとかありますか?」

「あるよ、ただ解毒薬も、毒の種類によっては効かない場合もあるから毒の巡りを遅らせる薬も買っときな。 冒険者の基本だよ。 まあ見る限り駆け出しで街の外に行くこともなさそうだから必要はないだろうけどね」


「やっぱり駆け出しに見えます?」

「ああ、あんたぐらいの年でそんな恰好をしてるのは、どっかの村から冒険者になって一旗上げようって調子に乗って街に来たお上りぐらいだよ」


老婆にそう言われると、もう乾いた笑いしか出てこない…。

見事にお上りさんって見破られてるし。


「村から出て来たお上りなのは間違えないんですけど、Dランクなんで明日から街の外で活動しようと思ってるんで必要な物を揃えておきたいんですよ」

「Dランク? これは驚いた…。 あんたぐらいの歳でDランクなんてギルドのランク判定も随分甘くなったんだねぇ~」


「まあその辺は言い返せないですね、特別試験でEランクに上がって、ギルドにダンジョンで得た宝石類やドロップした武器や防具を売ったらDランクになったんで…」

「ダンジョン? あんたがかい? まあ見栄を張るのは良いけど程々にしときなよ。 それで解毒薬とポーションは買ってくのかい? ポーションはともかく解毒薬は半年もしたら効果が無くなるからそれまでに使わなかったらただのゴミになるよ」


「あ~、やっぱり薬って使用期限あるんですね…。 まあ自分はアイテムボックスあるし、何故かアイテムボックスの中身は劣化しないんで大丈夫です」


そう言うと老婆は驚いた顔をし、珍しいアイテムボックス持ちだねと言いながら、解毒薬と毒の巡りを緩和する薬、そしてEランクポーションをカウンターに並べ始める。


「ポーションってEランクしかないの? DランクかCランクポーションとか欲しいんだけど…」

「ハァン! そんなもんは無いよ、Dランク、Cランクポーションならギルドで買いな! まあ買えるだけの金があればだけどね」


「Dランク、Cランクポーションってそんなに高いの?」

「そうだね、Eランクポーションは銅貨5枚ってとこだけど、Dランクなら銀貨2枚、Cランクなら金貨1枚ってとこだよ、それ以上はCランクポーションの10倍以上するよ。 まったくそんな事も知らないなんて良く冒険者だなんて言えるねぇ~」


呆れられてしまった…。

ギルドで売ってるのは知らなかった、ていうかそう言う説明聞いてないし!!


その後老婆から解毒薬と毒の巡りを緩和する薬、腹を下した際に使う薬、Eランクポーション5個を購入し薬屋を後にする。


老婆からは、「金があるならいつでも薬を買いにおいで」

と見送られたけど、これはカモられてるのか普通に良い人だったのかイマイチ分からんな…。


そもそも店にはノリで入って薬を買ったけどよくよく考えたら回復魔法も解毒魔法も、そして病気を治すリカバリーも使えるんだよね…。

うん、薬必要なくない?


その後、用事も済んだことなので大通りに面した広場の噴水の縁に腰掛けて露店で買った串焼きを食べながら道行く人々を眺める。

屋台を出して商売をする人、荷車を押した人、籠を背負い商品を売り歩く人、小さな子供と手を繋ぎ買い物をする主婦らしき人、道端の排水口に溜まったゴミを処理する数人の人…。

あれが本来Gランクの人がやる街中での仕事ってやつか?


確か依頼書を見たけどどれも1日銅貨5枚程、しかも清掃する区間を決められていてその日のうちに割り当ての区間を終わらせないと報酬は減額、恐らく1人で割り当て区間を清掃するよりも数人で作業を分担して効率よく終わらせようとしてるんだろうな…。


それにしても1日働いて精々銅貨5枚、ギルドが銅貨1枚で泊まれる宿泊施設を用意してるとは言え恐らく大部屋で雑魚寝だろうし、食事は付かないって言ってたから、食費を差し引いたら手元に残るのは精々銅貨2枚か、GランクからEランクに上がるまでの間は冒険者になって一旗上げようって言う人には相当堪える下積み期間だな…。


まあそれも、新人冒険者の死傷率が高いから出来たせいなんだろうけど、ホント墳墓のダンジョン100階層まで行ってカトレアと出会って良かった。

本来なら、ああいう仕事をする事になってたんだろうから…。

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