第20話改名

ダンジョンの100階層で何故かノーライフキングとお茶を飲みながら歓談している。


「そうかそうか…。 名はファインというのか、それにしてもルミナ村とは聞いたことがないな」

「そうなの?、ここから南西の方に5~6日程の所にある1000人ぐらいが住む村なんだけど…。 それよりここには何年程いるの? 知らないって事は、ルミナ村が出来る前から?」


「そうだな、私が死んだ…、いや殺されたのはロマーラル歴193年だ、今がノーム歴241年という事は464年程か…」

「464年? そんな長い間ここに一人で? どれだけ苦痛だったか…」


「いや、殺された時はロマーラル歴193年だが、この体になったのはいつなのか分からん、ただ長い間一人であったのは事実だ、何回か冒険者は来たがいきなり攻撃をして来るだけで話などしなかったからな…」


いや、まああのおぞましい魔力を持つアンデッドが居たら話すより先に攻撃するよね…。

話したいなら、魔力を押さえてフレンドリーに話しかけないと…。


「それで、ファイン、名はなんと言うんだ?」

「いや、名はファインだけど」


「そうではない、前世の名前だ、それにお前の居た世界は、どんな世界だったのだ?」

「ああ~、前世の名前ね…、本間勝彦という名前だった…、どんな世界かと言うと………」


そう言って自分の話を色々と聞き、楽しそうに話すアンデッド…、というかカトレア=フォルバン=フレグラードという名前の自称ノーライフキングに自分の居た日本の話をする


「うむ、ホンマ=カツヒコか…、ホンマが名でカツヒコが姓か?」

「いえ、ホンマが姓でカツヒコが名です」


「そうか、ならカツヒコ、家からも村からも追い出されたのなら、いっそ前世の名前を名乗れ! 自分を追い出した親が付けた名前より前世の名前の方が良いだろう。 何よりカツヒコの方が冒険者として強そうだ」

「そう? ファインも悪くないと思うけど…。 それに家を追い出されたけど、15歳までは普通に育ててくれた親が付けてくれた名前だしね…」


「ふむ、だがこの世界では改名など普通だぞ? 私もカトレアの前はフランソワだったしな、まあ普段はカツヒコ=ホンマを名乗り、必要な時にファインを名乗ればいいじゃない? それに冒険者はちょくちょく名前を変えるわよ?」

「何で? 名前を変える理由無くない? 名前が売れれば仕事も増えるだろうし、名前変えたらデメリットしかないんじゃないの?」


「そうね、本当に名の売れた冒険者ならともかく、少し名の売れたぐらいの冒険者はお互いに足を引っ張り合って悪い噂を流したりもするからね。 それを信じた人たちが依頼を控えたりすることもあるから変な噂が立って仕事に差し支えるようなら名前を変えて冒険者を続けるのよ。 名前は変わっても冒険者としてのランクは変わらないしね」

「冒険者ってそういうものなの? 足の引っ張り合いって…」


「誰でも割のいい依頼を受けたいんだから当然じゃない? それに足を引っ張られる程度の実力しかないのが悪いんだから。 まあそう言う訳だからこの際心機一転、前世の名前で活動すればいいじゃない。 転生者や召喚者と出会うチャンスもあるかもしれないし、それにあなたの場合、村の知り合いに街で器用貧乏と言うギフトを言いふらされ悪い噂を流される可能性が高いんじゃない?」

「う~ん、まあカトレアの話だと、転生者どころか召喚者も居るらしいし、日本人の名前の方がそんな人達と接触しやすいかもしれないしね、うん、それならカツヒコ=ホンマとでも名乗ろうかな」


そう言うとカトレアはうんうんと頷いている。


因みに、何故カトレアと呼ぶことにしたかと言うと、長い名前を覚えきれず四苦八苦していたら、何故か笑われて、カトレアと呼べばいいと言われ、自分はカツヒコと呼ぶと言われてしまったので、言われた通りカトレアと呼ぶことにしたのだが、名前を呼ばれるとカトレアは嬉しそうな雰囲気を出している。

本当にここに一人だったから相当寂しかったんだな…。

話は止まらんし、質問攻めだよこのアンデッド…。


「ふむ、話を聞く限り、ここが100階層という事は、ダンジョンとして成熟しているようだが、その割には魔物も階層主もえらく弱いな…。 やはりこの結界がダンジョンの最下層から溢れる魔力も封じている影響で上層階へ魔力が行き渡らず魔物も弱くなっているんだな」


そう言って忌々しそうに結界を眺めるカトレアですが、恐る恐る、疑問をぶつけてみる。

「カトレアはこの階層主なの?」

「いや、恐らく階層主ではないだろうな、結界の影響で階層主が生まれないのだろう」


「じゃあここを出れたらどうしたいとかある?」

「いや、特に考えた事は無いな、あの忌々しい結界がある以上、私はここから出る事が出来ないからな」


そう言ってカトレアは何処か諦めたようにお茶の入ったカップを口に運びお茶を飲む。

ていうかノーライフキングってお茶飲むの? てかミイラみたいになってる身体に水分入れて大丈夫なの?


「それはそうと、先程話していた、ギフト、器用だから大体の事はこなせるが色んな事に手を出し過ぎてすべてが中途半端になるって感じの事と言っていたであろう、カツヒコはそのような状態でどのようにして生きていくつもりだ?」

「まあそれなんだけど、とりあえず、キャールの街に行って冒険者登録をして冒険者として生きようかと」


そう言うと、カトレアは勿体ない!!と身を乗り出し熱弁を始める。

カトレアの話ではヒールやリカバリーに解毒魔法、そして浄化をすべて使えるうえ、アイテムボックスまで使える人間は少なく、また転生者や召喚者はもれなく何かしら強大な力を有している為、冒険者にならずとも裕福な暮らしが出来るとの事。


「よし! ではカツヒコ、私をこの結界から出すと言うなら、それまでの間私の魔法知識や剣の知識を教えてやろう!!」


えっ? 誰がこの結界からカトレアを出すって言った? 出れたら何したい?って聞いただけだよ?

なに勝手に結界を解いてカトレアを解放するって事にしてるの?


まあカトレアの身の上話を聞く限り、不条理に殺されて埋葬された場所がダンジョンになったとの事、そしてダンジョンの魔力でアンデットとして蘇った後も月日を忘れるような長い時間ここに閉じ込められていたって聞いたら外に出してあげたいと思うけど、こんな強力なアンデッドを野に放って良いのか心配にもなって来るんだよね…。


そんな思いとは裏腹に、「私の身の上話は後々話すとして今は修行だ…」 と言いカトレアはいそいそと部屋の端に置かれた品々の中から剣や盾、そして書物を出してきて、やる気満々の様子。

うん、これ断れないね、もう…。

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