第24話 リーシャ、初めて友達が出来る。
現れた令嬢は、何処かで見たような………と思ったら、あのコケシとの戦闘後に可哀想な目でこちらを見ていた令嬢の一人であった。ルイルイとか叫んでた人。
「一方的にお目にかかってはおりましたけど、ちゃんとお話をするのは初めてでございます。フランシーヌ・パームスと申します」
私の部屋に入ると、見事な淑女の礼で挨拶をした彼女は、茶色い柔らかそうなサラサラヘアーの涼しげな容貌をした(要は和風)の、こちらではかなりの美人であろう令嬢だった。
個人的な主観でも、いかにも日本美人て感じで好感が持てる。どうせならこんな顔が良かったわ私も。
こちらも慌てて淑女の礼を返す。
「リーシャ・ルーベンブルグでございます。ようこそいらっしゃいました。狭いところで申し訳ありませんがどうぞこちらへ」
カフェテーブルに案内すると、タイミングを図ったかのようにルパートが紅茶を運んできた。
「よろしければクララのココナッツクッキーもありますの。召し上がって下さいな」
「ありがとうございます」
改めて紅茶を飲みつつ、なんでここに来られたのかが分からず、対応に困る。
「あの………」
「リーシャ様、あのバ………いえ、ルイ・ボーゲン様からこちらに何か話がございませんでしたか?」
「え?あー、何かあったといえばあったで、しょうか………」
もしや、私のルイルイを奪われるかも的な感じで、どこの馬の骨か偵察に来たのかも知れない。
あんなに応援してたし。
「例えば、縁談の話、とか………?」
フランシーヌ様がそう笑顔で問いかけるのに思わずビクッとした。
なんで分かるんだろか。この人超能力者なの?
ヤバい。なんか下手な答え方したら嫌がらせルートかな。
コケシの事なんかなんとも思ってないとどう説明したらいいのか。
国一番とか言われる美男に興味が無いわけないでしょう!とか逆ギレされたらどうしよう。
内心あわあわとしていると、フッ、と微笑んだフランシーヌ様が予想外の事を言い出した。
「私、実は彼の従姉妹なんですのよ。あの子、自分がチヤホヤされてないと気分が悪いみたいで、応援も掛け声も無理矢理頼まれましたの。すごくモテてるみたいで気持ちいいとか。本当に馬鹿みたい。頭に虫が湧いてるのよきっと。
まあ従姉妹のよしみで友人にも頼んで頑張りましたけど、あんな恥ずかしい真似は二度とごめんですわ」
コロコロと笑う姿は、気品溢れるきつめの美人から取っつきやすい美人に印象が変わり、社交性皆無な私は心からホッとした。
「まあ、そうでしたのね。………では何故私の家まで?
ルイ様との話が気に入らなくて、言い方は悪いですが、嫌みでもおっしゃりに来たのかと少しドキドキしていたのです。
実は私、好きな男性が他に居りまして、縁談のお話もお受けするつもりはございませんのよ」
「………ダーク・シャインベック様ですわよね?」
覗き込むように見つめられ、カアッと顔が熱くなる。
「それで、あの会場で思いましたの。もしかしたら私達、お友達になれるかも!と」
「………はあ?」
いけない。よく理解できない展開に思わず素が出てしまった。
「リーシャ様、間違ってたら申し訳ありません。ダーク・シャインベック様のこと、不細工だけど人柄で好き、とかでなく、見た目も格好いいと本気で思っておられませんか?」
「なななっ、何でそれをっ」
「まあ、やっぱり!………実は私もなのです。ダーク様だけでなく、第三、第四部隊の方々の方がよほどイケメンで男性らしく見えますのよ」
そう爆弾発言をした侯爵令嬢は、溜め息をつくと、呆然としている私に打ち明け話をしてくれた。
どうやら小さな頃から、何かおかしい何かおかしいと思っていたそうだ。
「だって、私が格好いいとか素敵とか思ったり言う人は、みんなが醜いとか不細工とか言うのよ?圧倒的マイノリティの私の方がおかしいと思うじゃない?
だから、それが分かってからは、自分は頭がおかしいと思われるんじゃないかと怖くなってしまって、一切口にはしなくなったのよ」
あ、公式の場でもないし私元々堅苦しいの苦手だからもっと楽にお話ししましょ、フランと呼んで、と親しげに私の手を握った。
「ルイルイが、あっ、こう呼ぶとなんか崇められてる感じでいいとかあのアホが言うから使ってるだけなのよ誤解しないでね、彼も絶世のイケメンとか持て囃されてるけど、私には頭悪いしナルシストだし、顔も木彫りの人形みたいでちっとも素敵には見えないのよ。流石に自分は病んでるかもと心配になってた訳。
だから、ルイルイに興味のかけらも見せない貴女を見て、もしかして私は病気ではないのかもって希望が生まれたの。
それに、私への縁談もツラいものがあってね。
周りの美的感覚が私と真逆だから、親は不細工な相手ばかり選んでるように見えるし、難しい顔をしてしまうと両親はイケメンで家柄も申し分ないのに何が不満だと怒り出すし。そうよ人間は顔じゃないし、と思ってお会いしてみると、また顔を鼻にかけた横柄な性格悪い人ばっかり。絶望したわ」
私は馬鹿と思いやりのない男はキライなのよ、何が不満だ?顔も性格も大いに不満なのよっ、と吐き捨てたフラン様に、私は興奮してこちらから手を握りしめた。
「フラン様!同じ価値観の方がこの世にいらっしゃるなんて!!こちらこそ是非お友達になって下さい」
「ああっ!勇気を出して会いに来て良かった!!リーシャと呼んでもいい?貴女もフランと呼んで下さる?」
「勿論です!」
二人しておいおい泣きながら抱き合っていると、ドアがノックの後に開かれ、
「只今戻りましたリーシャお嬢様。一昨日に発売した『ヘロデア号』、書店では既に売り切れてしまって出版元に直接購入しにくる読者まで現れたようでございます。
更にデビュー作『ご主人様は狼でした』も含めイザベラ=ハンコックフェアをやろうという話が………つっ!お客様がいらっしゃるとは気づきませんで大変失礼致しました」
手帳のメモを見ながら入ってきたルーシーは、見たことがない令嬢と私が抱き合って泣いてるのを見て一瞬棒立ちになり、慌てて礼をすると部屋を下がろうとした。
「お待ちになって。今、イザベラ=ハンコック様の話をされていたと思うのだけど、もしやリーシャは………」
いつも冷静なルーシーも、流石にボッチの私の部屋に誰かいるとは夢にも思っていなかったのだろう。
モロバレである。
せっかく出来た友達なのに、伯爵令嬢の癖にエロさ満載の薄い本書いてるとかやっぱりドン引きでしょうねぇ、と残念に思いつつも、いやそれより誰かにばらされたら我が家はお仕舞いだと血の気が引いた。
「あのっフラン、これには事情がありましてっ」
どう言い訳をしようか脳内会議で非常召集をかけていると、目をきらっきらさせたフランが私を見つめていた。
「………まさか、親友が出来た上に、その人が大ファンの作家さんだったなんて私もう死ぬのかしら。いえまだ死ねないわ」
嬉しそうに頬を染めると、
「私、今夜は積もる話もあるし、お泊まりしたいのだけれど、ねえリーシャ友達だもの、いいわよね?
女子会というのを一度はやってみたかったの私」
と、満面の笑みで強請をかけてきた。
「フランも腐ってる方の婦女子でしたか………」
「いやぁね。イザベラ=ハンコック様の本を全刊揃えている位よ?もう容疑真っ黒け全面自供の腐女子だわよ」
私は、安堵と落胆が入り交じり、溜め息をついた。
いや、身バレの心配がなくなったのは嬉しい。
しかしなぜ私の周囲には普通の婦女子がいないのだろうか。
浄化エリアが全くない。
どんどん身体に澱んだ何かが溜まってる気がする。いや自分が元々ダークサイド側の人間だからか。それも腐女子を育成してる確信犯だし。マスターオブ腐女子。
そんな人間が、普通の婦女子が友達だったら、などと願うのはお門違いである。
ちょっと普通に憧れる乙女みたいな事を言える身分ではなかったのだ。
そもそも薄い本を書いてなければ、腐女子にジョブチェンジせずに済んだ女性も沢山いるだろうに、私の腐らせ方も相当罪深い。後悔はしていないところが特に。
そんな訳で、友達が出来たのは本当に嬉しいのだけど、とても微妙な気持ちもある。
ルーシーが二人に増えたような気がしなくもない。
「うふふ。何て楽しい日かしら。では、私待たせている侍女にこちらへの滞在を伝えて参りますわね!すぐ戻りますので!すぐ!」
軽やかな足取りで部屋を出ていくフランを見送りながら、私はルーシーを見ると、彼女はお詫びの見本のような土下座をしていた。
「誠に、誠に申し訳ございませんでした。喜びに注意力が散漫になってこのような事態に」
「………まあフラン様がこちら側の人間だったことが分かって、ある意味付き合いが楽になったからそれは不問にするわ。
ところでダーク様には会えたの?」
「はい。お仕事中でしたので、手紙だけ渡して、デートの約束を改めたい旨お伝えし、了承頂きました。新しい休みのスケジュールも届けてくれるようです」
「そう。ありがとう」
私はホッと息をついた。
今日はなんだか色々あった。
正直もう寝てしまいたいが、多分無理だろう。
ダーク様、私とっととコケシ討伐してきますので、それまで少しだけ待ってて下さいね。早くお会いしたいです。
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