第22話 ダークの密かなる決意。

【ダーク視点】



「まあ!私にとっては魅力に溢れてて、どなたにも渡したくないほど大切な方ですわ。勿論私だけが知っていれば良いことですけれど。

 お分かりになったら、試合が見えませんのでどいて頂けますでしょうか」



 俺の女神(リーシャ)が、あの第一王子にもひけをとらないと言う国でも有数のイケメン、ルイ・ボーゲンに言い放った言葉は、俺の身体を稲妻が走るように突き抜けた。


 恥ずかしいのと嬉しいのと他の何か分からないような感情で、思わず叫びだしたくなるような気持ちを宥め、冷静に試合の準備をする。



 ちらっ、と目をやると、丁度こちらを見ていたようで、リーシャが笑顔になり胸元で手を振った。


 綺麗だ。そして可愛い。可愛すぎる。目がつぶれる。

 なんであんなに眩しいほど綺麗なのに可愛いまで過剰なのか。


 神様は何故こんなに彼女に溢れるほどの加護を注いでしまったのか。

 もう少し普通であれば良かったのに。

 いやでもあれがリーシャなのだ。あのままでいい。


 しかし、今日はローズピンクの鎖骨が見えるような大胆なカットの大人びたドレスで、胸の谷間まで見えているではないか。見えすぎだ。周りのクソガキ共、いや部下達が頬を赤らめてエロい目線で見てるではないか。不細工のくせにリーシャを見るなリーシャが穢れると言いたいが、ブーメランのように己に返る言葉になるので自省する。一番見てはいけないのが俺なのに。


 それにリーシャはまだ俺がどうこう言える関係ではない。


 しかし本当に少しセクシー過ぎるのではなかろうか。


 自分まで頭に血がのぼり、うっかり鼻血が出そうになるが、ただでさえ不細工な顔をこれ以上汚なくする訳にはいかない。



 今日は絶対に勝つと決めていた。



 第一や第二部隊の奴等に勝って、少しでもリーシャに良いところを見せたい。


 そして、俺からも告白をしてこちらから正式に付き合いを申込むのだ。



 今まで、どうしても『付き合いをオーケーしたら飽きて捨てられるかも』との思いが拭えず、俺は卑怯にもはっきりした返事をしないまま、度重なるデートでご飯を作ってもらったり、手を握ったり、膝枕をしてもらったりとリーシャ成分を思いっきり補充してしまった。少しでも幸せを満喫しておきたかったモテない男の足掻きである。

 ヒューイには、


「もう休みごとにデートしてたら普通付き合ってんのと同じじゃね?

 いやなんでまだ付き合ってないって話になんのか意味わかんねえよ」


 と言われてしまったが、違うのだ。

 正式に私と付き合って下さい、はい、があって初めて交際だ。俺はそう思う。


 ずっと言うべきタイミングをどうするべきか悩み、足掻きつつも、いつまでも訪れるかも知れない不幸に怯えてる場合ではないと気づく。


 もし、リーシャが軽い気持ちだったとしても、こんな俺には望むべくもない幸せな日々があったじゃないか。

 遊び飽きて捨てられようが、俺には一生の思い出になる事が沢山ある。

 これがあれば生きていける。………多分。


 万が一、リーシャが本気、いや期待するな俺………だったとしたら、こんなに待たせていたら普通の女性は怒るだろう。離れるだろう。リーシャの懐が深すぎるだけだ。

 だから、勇気がなかろうが、逃げ出してしまいたくなろうが、もうリミットが近いのだ。勝負に出ないと砂粒ほどの可能性も捨てることになる。


 だからせめて。


 イケメン連中よりも、俺は強いというところを見せて、見直してもらう。

 そして次のデートで告白をするんだ。


 そう考えた。



 うちの騎士団は実力社会なので、所属してる期間中は貴族云々は関係ない。爵位の高い者が部下になった場合に、敬語で話すのは示しがつかないという部分もあるようだ。

 だからどんなイケメンだろうが叩き潰せるのである。強いが正義だ。



 リーシャの言葉で、俺は内なる闘志が今まで以上に燃え盛り無敵状態だった。

 まあ正直相手になる者が隊長クラスしかいなかったのだが、申し訳ないが全ての相手に勝利した。


 観客はさぞやがっかりしただろう。イケメンが勝たなくて。


 パラパラとお愛想のような拍手の中で、リーシャの力強い拍手と笑顔だけあれば俺は良かった。さっさと残った仕事を終わらせて自宅でリーシャとの次のデートの計画をするだけだ。


 と、内心浮かれていた。



 だが、何故か俺の執務室に奴がいる。


 ルイ・ボーゲンである。


 全く、なんだよ本当に間近で見ても、悔しいほどのイケメンだよ。

 俺もこの半分でもまともな顔だったらとつくづく思う。


 別に美しく生まれたのは彼のせいではないのに、理不尽な怒りが湧いたのを少し反省する。


「第一部隊の君が何故ここに?」


 とりあえず、心が荒む気がするので早く用件だけ聞いて帰したかった。


「シャインベック隊長どの。本日応援に来られた美しいご令嬢は、婚約者の方だったのでしょうか?」


「は?リーシャ……嬢……のことか……いや、(まだ)違うが」


 上手くいけば速攻で婚約に持ち込むつもりではあるが。

 そうか。イケメンから見ても美しいと思うよなリーシャは。当然だが。

 思わずにやけてしまう口元を引き締めた。


「そうでしたか!いえ、それでしたら結構です。では、失礼します!」


 さっさと敬礼をして部屋を出ていくルイ・ボーゲンに、だから用件は何だったんだよ、今の若い奴はさっぱり分からん、と頭を疑問符が飛び回るのだった。



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