第34話 閑話 銀髪の騎士 黒隊首長

「なっ!?」


目の前の柵を咄嗟に握りしめ、ガバッと半身をのりだして闘技場を見下ろした。



今日この場には、帝国学院の芸術祭で将来有望な騎士を発掘するために、帝国騎士団の各首長と次席、最高職の帝国騎士団長までもが一同に集結していた。

闘技場の最上段にある貴賓室では、騎士団トップたちが試合の状況を見ながらさっきの動きがいいだの、あれは使い物にならないだの、口々に論じながら手元の資料にメモを書き記していた。



今は、まさに乱戦最後の試合が舞台上で始まったところだった。


「どうしましたか?首長??」

黒騎士隊の第拾じゅう席であるジャノン・メデシンが声をかけてきた。


芸術祭では今日の学生優勝者と黒騎士隊の拾席が模擬試合をする伝統があるため黒騎士隊のみ首長、次席の他に拾席を連れてきていた。

(余談だが、今年はジェフリーも中隊長の階級であったが、アリスンの解説がてら緑隊首長に連れられてきていた。)


大体模擬試合では、騎士団側がボロ勝ちするのが毎年の流れだ。

しかし、現黒隊首長が学生時代に優勝した年だけは余裕で拾席を負かした為、今では帝国史上最強騎士見習いだったと伝説になっている。



「今の投げナイフ見たか?」

「はい。すごいコントロールでしたね...。6本全て急所に当たってました。しかも女生徒ってところも驚きました。」

「他に気づいたことはあるか?シャスティルはどうだ?」

黒隊首長レオディナル・サラーディンが、次席シャスティル・ガバランドに問いかけた。


「はっ。暗器の扱いが得意そうでありましたね。いい人材だと思います。」

シャスティルは、ビシッと背筋を伸ばしながら答えた。


(ふむ。2人とも見えない者なのか...。他の首長たちも気づいている感じはないな。)


レオディナルは、アリスンの技術にも確かに驚いたが、ナイフの周りにキラキラした粒子がついてることに驚愕したのだった。

普段見えているふわふわした粒子が意思を持ってナイフに集まり軌道を変えているように見えていた。


そう、レオディナルは魔素が見える珍しいシュッテガルト人であった。


(そういえば、あのキラキラを腕にまとわせながら戦う首長たちや俺でも、もれなく攻撃した後は粒子が霧散していたな...。

武器にまで粒子がつくのは見たこともないうえに、手から離れてたのにも関わらずそのままキラキラがついていた....。

何が起きたんだ?どういう状態だ?

わからなすぎて問題を解く以前の問題だ。考えても正解が出ないな。

そういえばこんな感じ、前にも感じたな....。

........ああ、去年の秋、街で起きたモンテバルク誘拐未遂事件で見たんだ。すっかり忘れていた。

その時は、少女が関わっていたが.....。もしや、同じ人物か?赤い髪だったような気がする.....。)


実際は、アリスンが風の魔法を行使していた為、ナイフの周りが魔素で覆われていただけである。

だが、魔素という概念がない世界では正解には辿り着くことができないだろう。

タネも仕掛けもないマジックの方が、まだ理解できる。


そして、レオディナルがあれこれ考えている間に残り7人になっていた。

アリスンが橙色マントの先輩を蹴り上げ吹っ飛ばした場面を見た騎士団の面々は『おぉ〜っ』と感嘆をもらした。


レオディナルだけは、その攻撃を冷静に見ていた。


(ふーん、無駄のない回避と的確な打撃、力もあるようだな。うちの拾席よりも強そうだ。今、いくつだ?

は?瑠璃色のマントというと2年?

11か12歳か?

なんだそれは? 名前は、えっと..2年の名簿はどれだ。....あった。女生徒は2人だな。王女ではないから、こっちか。アリスン・ベラルフォン?

なんか聞いたことあるな。どこだった?)


「シャスティル。

アリスン・ベラルフォンという名に心当たりあるか?どっかで聞いたことがあるんだが...。」

レオディナルは、振り向き後ろに直立不動で立っている次席に問いかけた。


「はっ!アリスン・ベラルフォンとは、行政官のファラウト・アルゲーティンと共に騎士団と行政官のドブネズミを炙り出した功労者の1人だったと記憶しております!」


「あー、あったな。騎士団の規律を守れない無能な隊が何個かあったやつだな。そうか....、あれか。」


レオディナルは、脚を組みトントンとこめかみに指をあて首を横に振り、『嘆かわしいことだ...。』と呟いた。

弱体化した隊(赤・白・緑・青)と言われた首長たちはギョッとレオディナルを見て、身を縮こませた。

騎士団長もうむうむと頷いているのを視界に捉えて、背中に冷たい汗が流れ出す首長たち....。

とんだとばっちりだ。


レオディナルは、冷たい風貌で各首長を見渡して、ふんっと鼻で笑った。

20歳の若造に見下されている40前後の首長たち...、哀れであった。


そうこうしていると、今度はアリスンが回復魔法をかけ始めたのを視界に捉えた。


「ほぉ〜、さすが女子だけあるな。倒した相手を膝枕して心配しているぞい。」

騎士団長は、アリスンが覆い被さりながら相手の頭をさすってる姿を見て感心した。


実際には、回復魔法の光を洩らさないように必死に囲ってるだけであったが、うまく誤魔化せていた。


だが、魔素が見えてしまっているレオディナルだけは、違う光景が見えていた。


(なんだ??またあのキラキラが急速に女生徒に集まってきている。

今までに見たどれよりも動きも凝集さも違う...。

何をしてこんな現象が起きてるんだ?

あの少女と話をしてみたい...。)


レオディナルは、アリスンに多大な興味を持った瞬間だった。


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