第23話 騎士科編:学院2年生夏⑥ファラウト男の危機

じゅるっ。

ヨダレ出た.........ふきふき。


....はっ!

寝てた...私。

暇すぎて寝てた。


騎士きてない?騎士きてない?

キョロキョロ見渡すが、変化なし。


きっと大丈夫!きっとくるよね?

寝てる間に騎士が来て帰っちゃってたら、計画が丸潰れ。

やばしっ!


ドキドキ静かに慌てていると、音が聞こえてきた。


カタンっ。ガタンゴトゴトっ。


音がする...。もしかして今来た?


セーーーーーフっ!!


音がする方に目を凝らして見てみる。

ぬっと、何かが床板から出てきた?


騎士さん??

えっ?そこから出てくるの?

そっから来たら普通にグルですよ〜って言ってるようなもんじゃない?

杜撰〜!!!!


「しーっ。声を出さないで。」

小声で囁いてきた..。


無理だ。ツッコミどころが満載だ!叫びたい!

(『嘘や〜んっ!!!!!!!!!!』)


「だ、誰ですか?」

精一杯驚いた顔をつくるよ。


「私は、騎士団に所属してるものだ。この辺を巡回していたところ、君を発見した。

助けてあげるから、静かに指示に従ってくれるね。」


まず、この辺を巡回する騎士なんていないっ!

騎士は街にしかいない。森にいるのは冒険者だっ!

100歩譲ってその事情を知らない町娘だとしても、隠し通路を知ってる男は通常信用しなくない??

それに誰って聞いてるんだから名前を言えよっ、仕事は聞いてねぇ、格好見ればわかるわっ!

人質の要求叶えろや。


「はい...。その前にお名前を教えていただけませんか?」(とりあえず、もう一度名前を聞く。本名をうっかり言うもんならラッキーだ。)


恐る恐る、か弱い女子を演じながら騎士に問いかける。

人質を安心させるためにこっちの要求をのむよね?

ジーっと見つめる。


「................。」

右頬がちょっと引き攣ってるね。

偽名を用意してなかったのね。よし、うろたえろっイケメン!

狼狽たイケメン、眼福です。

これが美女なら、なお良しだった!


「あなた様のお名前を教えてください。

親切にしていただいた方の名前も知らずに生きることはうちの家では万死に値するんです!

毎日感謝の祈りを捧げる家なんです!

このまま家に帰ったら両親に叱られ、死ぬほうがマシなひどい暴力を受けるんです。

どうかお慈悲を!

どうかお名前を!」

必死に縋りつきながら見上げて懇願する。

イメージはぶっ飛んでる時のアイザックだ。

慣れてないとドン引き案件である。


普通に考えれば嘘だとわかる。

だが、変な家訓だけど危機に陥った娘が嘘をつくなんて思いもしない男は、綺麗な顔でオタオタしだした。


「え、えっと、えーと......。万死に....??

じゃあ、ローと呼んでください。」


「はい。ロー様!何をしたらいいですか?」


うん、偽名なのか愛称なのかわかんなかった!

もういいや。

チャチャッと進むよ。どんどん指示出せ!


あらかじめ聞いてた通りの流れで進む。

偽名の書き方を教えてもらって、カキカキ。

よーく見れば紙は2重になってるね。名前のところが空いている。

名前欄の周りに黒いインクで縁どりされて2重なのかわかりづらくなってた。

もう、ツッコミどころが多すぎる。


なぜこんな縁取りされた紙持ってるの?って普通思うだろう?!


拐われた娘たちよ、馬鹿なの?


騙す方も、馬鹿だよ!

もうちょっと成功に作られた紙を用意しろよ。


とりあえず名前を書くとき手が滑ったていで思いっきり線をはみ出しといた。

これで剥がされた後も、重ね合わせた時確認がしやすいっしょ?


血判を押す時になった。あれの出番です。


「あの、拐われる時に足を擦りむいたんです。新たに指を切るより怪我してるところの血を使います。

恥ずかしいので後ろ向いてもらってもいいですか?足を膝までたくし上げるので....。」

精一杯恥じらいながら、イケメンを見つめる。

イケメンが後ろを向いたのを確認。


ちゃらららっちゃら〜♪

さ〜か〜な〜の血〜ぃ♪


試験管をそーっと開けて母印完了。


うん、なんか臭い....。

乙女の血が生臭い件...。

嫁にいけないんじゃないだろうか?


後は、私が奴隷商人に引き渡されれば私のお役目御免だね。

何はともあれ、身の危険がなく終わりそう。

あとは、黒猫とファラウトが証拠を押さえれば大丈夫。




一方その頃、黒猫商会にて。

「頭取、嬢ちゃんが騎士に血判状を渡したのを確認したと連絡がありました。」


「そう....。」

胡蝶は、書類仕事をしながら近況を聞いていた。


「じゃあ、うちは奴隷商人を引き続き監視。私の可愛いアリスンが引き渡されるところを押さえるよ!騎士の方は、坊やの方でおさえるんだろう?」

ファラウトの方を、睨むような鋭い眼差しで見た。


「はい。二重書類と騎士をおさえます。

運び屋に書類を渡すところを拘束し、書類はうちの間諜が入れ替わり届けます。

フーディエさんの方は、商人の方をお願いします。」


「運び屋は、普通の一般人の可能性もあるけど取り押さえるのかい?」


「はい、疑わしきものは全て取り押さえます。

この事件が解決すれば国に報告して行政の管轄になりますので、いくらでも後で挽回できます。

そのための行政官、行政救済法です。

まずは、証拠、罪人を残らず回収します。」

ファラウトは、淡々と言いのける。


間違った人を捕らえるのに全く躊躇する様子はない。綿飴の皮を被った狼である。


「ふーん。見た目通りの優男じゃないってわけか。好感が持てるね。

だがね坊や、しくじるんじゃないよ。

私の大事な子達のためにミスは許さない。

しくじったら、ちょん切るからね。」

胡蝶はどこを、とは言わなかったが、思わずファラウトは股を閉じた。


「うちの国では、ちょん切った男が王宮でたくさん働いてる。命の別状はないから安心しな。

初め痛いが、あとはいいこと尽くめだよ。

髭は生えなくなるし、中性的な雰囲気で老若男女にモテる。そんなに気負わなくていいよ。」

胡蝶は、手をふりふりしながらケラケラ笑う。


言われたファラウトは、本当にしくじったら切られる危機を感じ身震いをした。


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