第15話 騎士科編:学院2年生春①選抜メンバーと桃太郎

4月の初め。

今日から騎士科にて新たな学院生活が始まる。

外は、これから起きる何かの前触れのように春の嵐が訪れ暴風が吹き乱れていた。


不吉だ....。何かよくないことが起きそうな気がする。


アリスンは、気持ちが沈んでいるのでノロノロと身支度を整える。

「...メアリー、今日の私の服装はどうかな?似合ってるかな?」と、メイドのメアリーにたずねた。

今日から制服が変わったから客観的な意見が欲しかったからだ。


メアリーは、朝食をテーブルに並べながら

「もちろんです。凛々しく感じられる気がします。」と、さらっと答えた。


「いや、見てないじゃん!何適当に言ってるのさっ。」


メアリーの態度にびっくり仰天だ!それでも、メイドですかね?!


それでも少しテンションが上がったアリスンである。



2年生になったので、制服のマントはアクアマリンから瑠璃色のマントになった。

しかも騎士科になったせいで大幅に制服が変わってしまった。

リボンタイはなくなり、首まで覆われた白のブラウスに、群青色のズボン。

黒色の編み上げブーツ、最後に腰にサーベルを帯剣する格好だ。

可愛さ成分が全くない...。せっかく女子なのに。

一応お気に入りのポイントは、サーベルの持ち手にレッドジェードをはめてあるところだ。あのいわくのペーパーナイフのリメイクだ。

髪型はいつもどおりポニーテールである。


「じゃあ、メアリー行ってくるけど、あとよろしく。」


「王女様に嫌われるってのも手ですよ。そうすればそば付きから外されますしね。何とかなりますよ、お嬢様行ってらっしゃいませ。」

メアリーが、メイドらしく優しく励ましてくれた。



アリスンは、とぼとぼと並木道を足取り重く通りながら騎士科の建物に向かう。


はぁ実力を出し惜しみしないと決めたけど、なかなか気持ちの踏ん切りがつかないな...。

確実に目立つよ...。

魔女狩り、過労死まで行かなくても、壁を作られて好意的じゃない目を向けられ、あることないこと噂の中心になるかも。嫌だなぁ。

あくまでも私の目標は、幸せに老衰なのに...。


思案しながら教室に入ると、男、男、そのまた男。

女の子が、いない!

第二皇女の近衛目的の女子もいないの?


なんだここは、この世の終わりか!?

筋肉がほどよくあってすらっとした迫力美人になりそうな女子よ、現れたまえっ!

癒し成分を私にぃ与えたまえ〜!!

神様ぁ〜!

南無南無、アーメン、クワンギ....。あらゆる神に拝んどこ。


王女様はいつくるんだろう...。はあ、憂鬱だ..。


結局、王女様はホームルームの途中で賓客扱いで紹介された。


「キャスリーン・リンデンバルクですの。

剣の心得は、ありません。初めから学ぶつもりですわ。皆様、ご指導よろしくお願いしますわ。

王女ですが、学院にいる間は学友として分け隔てなく接していただきたいですわ。

むしろ敬語なんて話されたら、嫌いになりますわよ。仲良くしてくださいませ。」と、おっとりと自己紹介をし、それでいて有無を言わせないような王族の雰囲気をバシバシと出していた。


王女は、遊牧民族の名残なのか美しく染められた布を頭に巻いて帽子のようにかぶっていた。


それを見てハスウェルが質問した。

「はい!その帽子って激しい動きで落ちないの?」


馬鹿だ。この雰囲気にも呑まれず早速、敬語も使わずに下らない質問をするなんて..。

相変わらずの脳筋KYだなっ。


「ふふ、落ちませんわ。

ご存知かもしれませんが、我が国では、絶壁の岩肌が多いのです。

そこをヤックというヤギに乗って駆け上がるのです。その際この帽子を落とさないように体重移動させながら乗るのです。

それが出来て我が国の民と認められると言っても過言ではありません。

なので多少の動きでは絶対落としませんわ。

この帽子は万が一崖から落ちた時頭を庇うための目的もあり、我が国民はみんな被っておりますの。」


え、結構それって体幹必要だよね?意外に王女、騎士科むきだった?

ただのおしゃれかと思ってたけど、意外に過酷な状況でも被らなきゃいけないものだったんだね。


「では、これより訓練場に向かう。」とガウリー先生が言ったのでみんなで移動を始めた。


アリスンは、そば付きとして王女のところへ向かうと和やかに王女が挨拶してきた。

「アリスン、お久しぶりですね。」


「お久しぶりです、王女様。本日より至らないかと思いますが、護衛をさせていただいます。」

騎士の礼にて挨拶をする。


「まあ!敬語はやめて。

私のことは、キャスと呼んでくれる?

私、親しい人には愛称で呼ばれていましてよ。

アリスンは、愛称はあるのかしら?」


「わかりま...わかった。キャス様、なるべく敬語で話さないようにしま....するよ。私には、愛称はありません。

アリスンとみんな呼んでい...るよ。」


あー、もう!!喋りづらいなぁ。


「様も要りません。

アリスン?私たち友達でしょう。」


うん、知り合い以上友達未満だけどね。

友達決定なんだね...。

うん、ハスウェルを巻き込もう。無理だ。

王女と友達...。この11年のアリスン・ベラルフォンの生き方にすこぶる合わない。


「では、キャス。私の友人を紹介してもいいでしょうか?

騎士として有能です。少々、頭が悪いですが...いいやつでして。

ハスウェル!!」

ハスウェルを呼ぶと、すぐにきた。

犬だな、尻尾がブンブン見えるようだ。


「何だ?」とハスウェルはニコニコしながらきた。

緊張のきの字も知らないやつだなっ。


「ハスウェル。前にも行ったけど王女様のそば付きになったんだけど、手伝ってくれない?」


「うん、いいぞー。

俺は、ハスウェル・チータゲルクだ。ハスウェルと呼んでくれ。」と騎士の礼をした。


「先ほどの方でしたか。よろしくお願いしますね。私のことは、キャスって呼んで?」と、見様見真似で騎士の礼をキャスは返した。


よしこれで、付き人が2人になったね。負担が減ったよ。

桃太郎で言うならあと一人ってところだ。

猿の私と犬(っぽい)のハスウェルが揃ったから、あとはキジだ!(メアリーに昔から魔獣猿と私は呼ばれてたからね!)


も〜もたろさん、ももたろさん♪

もひとり生贄どこにいる〜?

ついてくる人大募集〜♪


もうやけになって変なテンションを維持するアリスンであった。


訓練場について、ガウリー先生が説明を始めた。

「これより木剣を使って、俺と一人ずつ打ち合いをしてもらう。俺の攻撃を防げるかを見ていく。

そこで、防げた者たちと防げない者たちにまずグループを分けていく。

そのグループで、しばらくは授業を行う。その中でも実力が高い10人は、選抜グループとして上級生と混じって授業をしてもらうこともある。

夏前に同じようなグループ分けをするので、今日のグループがずっとではない。選抜に入れるように切磋琢磨する様に!」


ふむふむ、ここで首席からじゅう席の人たちが決まるのか。なるほどね〜。


「ガウリー先生!打ち返してもいいんでしょうか?」と自信満々にハスウェルが聞いた。


「もちろんいいぞ。だが、俺には敵わないと思うがな。」とニヤリと笑った。


うん、私は勝たせてもらおうかな。

そうすれば首席になって授業中はキャスから離れられるね。

キャスは女子だから、選抜から漏れるはずだ。


「それでは、かかってこい!」

ガウリー先生が構えて、生徒が一人ずつ向かっていった。


結果、防げないのが大多数でぽいぽいと下位グループが出来上がっていく。

防げても、2打目を防げない者たちがほとんどだった。

それでも防げたということでその者たちは上位グループに分けられてった。


うーん、11歳ってこんなもんかなぁ。

ハスウェル基準だと、もっとできると思ってたけど。


そのハスウェルは、全部の攻撃を防いで先生にも打ち込むことが出来ていた。

だが、結局1撃も入らず最後は木剣を飛ばされた。


「クッソ〜。1撃もあたらねぇ。」

ハスウェルは悔しがりながら空を仰いだ。


そして意外なことに、キャスが6発も攻撃を防いだ。

はぁ?!芸術祭の時プルプルして震えてたじゃん?なんで?


「キャス。剣の心得ないって言ってなかった?」


「はい、ありませんわ。でも、我が国では野鳥が大事な食料でして。

何時でも見かけたら銃で獲れるように暮らしています。

なので、目がいいのです!防ぐくらいならできます。」と、得意げにキャスが答えた。


なるほどね、あの時は力技で拐われそうだったから手も足もでなかったのか....。


「「「おおっ!」」」

キャスと話していると、歓声が上がった。


なんだ?と思って先生の方を見てみると、善戦している男がいた。

ハスウェルのように打ち返すことは出来てないが全て防いでいた。

しばらくすると、ガウリー先生が攻撃をやめた。


「アイザック・コールディン合格!上位グループに入れ!」と、先生が指示を出した。


へぇ。かなりのイケメンじゃん。

将来、近衛に入ったらキャーキャー言われそう。

赤い目に深緑の髪で、冷たい雰囲気の美青年。

ヴァンパイアみたいなミステリアスな雰囲気を11歳にして醸し出すなんて、色っぽいなぁ。


あ、赤と緑っ!まさしくキジだ!

ちょうどいいね。強いし、護衛にも良さそう。あとで声かけよう。

♪もーもたろさーん♪


「次!アリスン・ベラルフォン!お前で最後だ。」と先生に呼ばれたので向かい合う。


「では、始める!」と先生が打ってきた。


先生は中段の構えから右脇腹に一太刀。

アリスンは難なく剣で防ぐ。

そのまま逆側に一太刀くるのをしゃがみながら剣で躱し、両足に力を入れて先生の懐に飛び込む。

そのまま右手を伸ばしてひと突き!!


うん、かわすよね。先生だもんね。


今度は、上段から斜めに袈裟斬りが飛んできたので、後ろへバックステップでかわした。ちょっと距離が離れた。

先生が走りながら下段から逆袈裟斬りを仕掛けてきたので、すかさず剣を上から刀身に沿わせて力を受け流す。

そんでもって、手首を返して先生の剣を巻き込むように.....右上に振り切るっ!!


ザンっ    


先生の木剣を巻き込んで吹っ飛ばした。


私の勝ち。ニヤッと先生に笑いかける。


「アリスン・ベラルフォン合格!首席!!」と宣告された。


わぁっと周りが沸いた。

先生も驚いてる、ふふん。

このくらい朝飯前よ!身体強化を使うまでもないわ。

先生も全くやる気なかったしね。


結果、選抜メンバーの首席に私。

次席がハスウェル。第参さん席がアイザック(キジ男)。

意外なことにキャスが第伍席だった。

結局、実技も同じグループになった。

どうしてこうなったし?解せぬ。

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