第12話 学院編:学院1年生冬③王族のわがまま
ローズマンテとの戦いが終わり、ヘロヘロになりながら学院に帰還した。
結果的に、ローズマンテのおかげで興奮状態になり負傷者は出たが脱落者は出なかった。
マダム、みんな頑張ったよ〜っ!鞭のご褒美下さ〜い!
「じゃあ、短い間だったがありがとな。なんだかんだ、楽しかった気がする。
お前の投げナイフは凄かったから騎士団の暗部に入れるんじゃないか?」と先輩はありがた迷惑な提案をしてきた。
「いえ、私は行政官になりたいので来年は文官科に行きます。」と速攻で断った。
実際には、行政官じゃなくてもいいけど、程のいい断り文句だ。
「そうか、じゃあもうほとんど会わないな。達者でな。」と手をひらひらさせて、キファー先輩は帰っていった。
キファー先輩、もう会うことはないでしょうが、ありがとうございました....
でもね、世の中うまくいかないみたいなの。後日、学院長室に呼び出されたの、私...。
冬ももうすぐ終わり、春が近づいて来て、1年生も残りわずかになったある日のこと。
学院長室に呼び出された私は、豪華なソファに座らされていた。
周りを見渡すと、マダム、学院長、騎士科と文官科の主任担当教官、最後に誰かわからない女の子と3人のお付きっぽい人がいた。
対面のソファーには学院長と女の子が座っている。
誰だろう...?なぜこんな位置に座っているのだろうか?用事はなんだろう?
目立ちたくないんだけどなぁ。
「さて、アリスン・べラルフォン。今日は、あなたにお願いがあってきてもらいました。」と、素敵な帽子をかぶった老婦人、マスターエリザベスがお茶を一口飲んでから話し出した。
「ここにいらっしゃいますのは、モンテバルクの北側に位置するリンデンバルクの王族であらせられるキャスリーン・リンデンバルク第一王女様です。来年度2年生から編入されてきます。」
ん?なんで私呼ばれてるの??意味がわかんない?
「それで、あなたに側つきをしていただきたいのです。」と、びっくり仰天することを言い出した。
「なぜ、私なのでしょうか?礼儀作法が突出しているわけではないですし。他に適任がいるのではないでしょうか?(嫌だよ、目立つよ。王族と関わりたくないよ!)」と、私は恐れ多いことだと主張した。
すると、王女のお付きの人がコトンと何かをテーブルに置いた。
「これに見覚えはありませんか?」と、王女が涼やかな顔で私を見つめてきた。
テーブルに置かれたものを見て思わず顔が引きつった...。
なぜ?これが??ここにあるの?!闘技場の壁に突き刺さったまま抜けなかったペーパーナイフぅぅ!
「私、礼儀作法はこだわりませんの。それよりも、最も近くで護衛をしてくれる学友を求めています。」とさも当然みたいな顔で王女が言ってのけた。
いやいや、なに言ってんの?護衛?無理だからぁぁぁぁっ。平凡一番!
アリスンは平静を装って、否定を即座にすることにした。
「私は、2年時は文官科に行く予定のしがない貴族の令嬢です。護衛なんて出来ません。
なにかの間違いではないですか?その剣のような形をしたものに覚えもありません。」と真剣な顔で訴えた。
実際は背中に大量の汗が流れてるけどねっ!
すると、王女のお付きの人が前に出てきてなんだか説明し出した。
「ここからは、わたくしが説明します。
我が国の情勢を少し説明させていただきますね。
我が国は、小さいながらも鉱山を多数有数しているのはご存知でしょうか?宝石や鉱石の輸出が盛んな国です。
それに対してモンテバルクは、鉱山を有しておりませんが、小麦などの作物を肥沃な大地で栽培しております。
そこで、我が国は作物と鉱物を然るべき割合で課税しながら輸出入をモンテバルクと行っております。うちの領地は、寒さで作物が十分に育たないからです。
ただ、今年モンテバルクが凶作になり作物が十分に取れませんでした。そのため、モンテバルクの一部の領地が我が国と取引することが難しくなり鉱石が手に入らないという状況を作り出してしまいました。
ここまでいいでしょうか?」
うん、わかったけどもなぜ隣国とリンデンバルクの関係の話をし出したの?
そのペーパーナイフと関係あるの??
「はい、理解できてます。」と、アリスンは頷いた。
「それでは、ここからが本題です。キャスリーン様がこちらの芸術祭に赴いた時に、隣国モンテバルクの貴族に襲われました。
捕まえた犯人の調書によると、王女をさらって税の緩和を提案する予定だったらしいです。その時に王女は、赤い髪の女性に助けていただいたそうです。そこで、王女はどうしてもその方とこちらの学院に通いたいと思われたそうです。そうですよね、王女様?」
「はい、その通りですわ。」とニコニコ私に微笑みを向けながら王女は肯定した。
あの時の壁に縫い付けた男ってモンテバルクの貴族だったんだぁ。へぇ〜。
「それで、学院に協力をしてもらい恩人を見つけようとしたのですが、なかなかその女性を見つけられなくて困っておりました。
わかってるのは、赤い髪と残された剣と王女にかけてくれたアクアマリン色のマントだけです。
学院1年生に赤い髪の女性が何人かおり、特定が難しかったです。ですが、先日の演習の様子で学院側があなたであろうと報告がありました。どうでしょうか?」と、確信している目でアリスンを見た。
いやいや、肯定しないよ!あの時助けたお嬢さん、あなただったのね。
でもさ、内緒 って言ったよね!?
なに、話しちゃってんの?!
「いえ、わたくしではありません。助けられるはずがありません。赤い髪の男性だったということはありませんか?」と苦しい言い訳しか出てこない...。
マダム・バレンティンが前に出てきて言った。
「我々学院はあなただと思いましたが、違うなら違うでいいでしょう。
前回の演習の様子をガウリー先生と私が見て、護衛が出来そうだと判断しました。これは、決定事項です。」
嘘ぉぉ、マンテちゃんのせいだぁぁぁぁっ!!
ガウリー先生も前に出てきて
「ベラルフォン嬢の活躍はキファーからも聞いている。大丈夫だ!
そして、キャスリーン王女は護身のために騎士科を選択している。であるからして、ベラルフォン嬢は文官科を選択していたが騎士科に変更してもらう。
俺のクラスで預かることになった。
来年度は、騎士科に所属するように。」と、ありえない通告をしてきた。
「よろしくお願いしますね。」と王女がにっこり笑いかけてきた。
...横暴だ...。
善良な生徒の将来を王族のわがままで決めるなんて....。
王女は王女らしくお淑やかに生きたらいいんじゃないかなぁ!?
「誠心誠意努めさせていただきます.....。」と、アリスンは了承するしかなかった。
「それでは私を救ってくれたこの剣を、あなたに下賜しましょう。使うでしょう?」とペーパーナイフが返ってきた。
もう先っぽがないから宝石を使ってリメイクだ。
なぜ、こんなことになったし?
ハスウェルの呪いのせいだ!!
くそお、ハスウェル殴ってやるぅ!
遠く離れた場所で、ハスウェルはブルッと震えた。
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