第11話 学院編:学院1年生冬②特撮怪獣との戦い

そんなこんなで、やってきました!

冬の地獄演習〜!!ヤッホーい!

寒すぎて、テンションおかしくなっております、アリスンベラルフォン11歳です!

先日誕生日を迎えました、やったね。


今の私たちの格好は、アルゲーティン領産の羊毛100%のもこもこ下着。

ムフロン草(太陽に晒して灰で煮ると断熱効果抜群の草)の繊維を織り込んだシャツ、ズボン。

その上に、ファイアーラビット(体が発熱する魔獣)の皮のベストと二の腕まである手袋。

一番上に、頭まですっぽりかぶれる断熱保温ローブを羽織ってゴーグルを装着。

直接空気に肌が触れるところがないようにぴっちりと装備をしてます。

これが案外あったかくて、動きやすい。

魔獣がいる世界だと、どんな化学繊維よりも性能がいい毛皮が手に入る。

薄着になれるからありがたいことだ。


「はい、皆さん注目!」


パシュンっ、バチっ!


マダムの鞭が地面に叩きつけられた。


うをぉぉ!

今日の鞭は冒険者仕様ですね!

ラバー素材でできたブルウィップ。

音の重量感が違います!!

それで私を巻きつけて縛ってぇぇ。


「では、これから演習を開始します。荷物はトナカイの荷馬車に乗せてください。

1年生は、腰に剣もしくはナイフなど、自分が扱える武器を1つは携帯しとくように。

護衛の上級生は1人に1人付きます。

各自歩きながら自己紹介をして交流しなさい。命が関わる瞬間、連携が取れないと死にますよ。

必ず全員で無事に明日学院に戻って来れるように、最善の行動を心がけなさい!以上、行軍開始!」と、マダムが号令をかけた。


生徒たちはマダム・バレンティンに続いて野営地に出発した。

先頭のマダムは、行手に存在する魔獣を鞭でバシバシと叩き殺して、ズンズン進む。


美しい上に強いなんて痺れます!


「じゃあ、先輩交流しましょう。」

アリスンは、護衛担当の先輩に話しかけた。


「私の名前はアリスン・ベラルフォンです。アリスンと呼んでください。」


「俺の名前は、キファー・メルゲルクだ。2年の騎士科所属の首席だ。今回、2年で参加するのは俺だけだ。

不安かもしれないが、安心しろ。今回参加している奴らの大半より俺は強い!

エリートの中のエリートだ!」

胸をどんと叩いて自慢してきた。


キファー先輩の顔は、チラッと見える髪と目が緑で、面構えが比較的整っている男だった。

装備は、私たちと同じような装備の上に胸当と黒革のグローブをはめてあり簡易鎧みたいだ。

武器は大剣で、存在感が凄い。

先輩の身長が低いので異常に目立っていた。


「キファー先輩ですね。よろしくお願いします。

ところで先輩は、芸術祭ではどうだったんですか?

トーナメントには出てなかったですよね?

それでほんとに首席なんですか?」

ズケズケと、アリスンは言い募った。

歯に衣着せないセリフを言えるのは、幼女の特権だ。


一瞬キファーはイラッとしたが、すぐさま一蹴する。

「俺は群れるのが嫌いだ。

実力もないのに束になってセコく勝ち上がるような奴らのもとには、くだりたくない!

向かってくるやつを片っ端からなぎ払うだけだっ!」

鼻息荒く拳を掲げて、思いっきり一匹狼宣言をするキファー。


「あー、だから活躍しきれなかったんですね。ご愁傷様でした。」

アリスンは、憐憫の目で先輩を見た。


騎士団に入って規律を守れるのかなぁ、この人。ちょっと心配....。


「なっ、お前見てなかったのか!?

トーナメントに行く最終ブロックで残り9人全員が俺をまず倒そうとしてきたところを!

俺は、卑怯者たちにやられたんだ!実力は学院で5指に入ると自負してる。」

またもや鼻息荒くキファーは主張した。


うん、ナルシストだ。キファー先輩はナルシスト。自己評価が高いね、覚えておこう。

褒めといたら、きっと万事オーケーだ!


「それはすごいですね、先輩!!(集中攻撃を受けるほど、人望がないってことですね!ある意味すごいです!)」


「俺に凄さが分かったか。

ふふん、いつでも頼れ!今日明日はお前の護衛だ。どんな魔獣も倒して見せよう!」


猿もおだてりゃ木に登るね。


「で、アリスン。お前の武器はなんだ?見たところ、何も腰にさげてないが?」

キファー先輩が、私の全身を見て言った。


「私の武器ですか?

私、貴族の令嬢なんで剣とか持ってても使いこなせないので初めから持ちません。

いざというときの目くらましになればいいのでナイフです。ナイフを投げて時間を稼ぐので先輩が守ってください。頼りにしてます。」と期待をした目で先輩を見上げた。


「そうか、わかった。ナイフはどこにあるんだ??」


「ローブの裏に収納してます。見ます?」

ほらっ。とローブを開いて見せたら、キファーがドン引いた....。


私のローブの下にはナイフが30本収納してある。特注品だ。

目立たず魔獣や獲物を殺せるので、今回の獲物はナイフにした。

もちろん大剣でも短剣でも、鎖鎌でもなんでも使えるがね。


先輩は、顔を引きつらせながら

「本格的な暗器使いみたいだな...。」と呟いた。



なんだかんだ話していると、今回の目的地に到着した。

到着してすぐに火をおこし、天幕を組み立てる。そして食事をして寝る。

そして、朝になったら学院に帰る。

それでこの演習は終了だ。

寒さに耐えれば、簡単なものである。


今は、護衛の先輩たちが交代で見張りをしてくれているところだ。騎士科の先輩がたは交代で仮眠をする。

しかし、アリスンとエリザは1年生なので朝までくっついて寝るだけだ。

互いの足と足をぴったりサンドして、足の先が凍傷にならないよう体勢を整えておやすみなさ〜い。




ぱちっぱちっと焚き火の炎が燃え爆ぜる。

キファーは度数が高い酒をちびちび飲んでは、体を温め見張りをしていた。

途中、第5級危険種が何匹か出てきたが、危なげなく討伐した。


「ふう〜。早く夜が開けないかな。帰って暖かい布団で寝てぇ。」と愚痴をこぼした。


「第5級くらいしか出ないから緊張感もないよなぁ〜」と他の見張り要員も愚痴をこぼした。


だがその時、ドドドドっと地響きがして空気が変わった。


「なんだ!?地震か?」

見張りの騎士見習いは一斉に臨戦体勢に入った。


...... .......。なにが起きている?


キファーはキョロキョロと周りを見渡した。


すると、どこからか悲鳴が聞こえてきた。

同時に、ドカーンッと大きな音が響く。


「なにっ!?キファー先輩、何の音ですか?!」

アリスンたちも慌てて天幕からでできた。


「後ろの天幕の方から音がしたが..。」と、キファーと音がした方を見てみると魔物がニョキッと生えていた!?


び、び、ビ○ランテ!!!!!

あれは、某特撮映画ゴ○ラVSビ○ランテのビ○ランテに違いないっ!

頭にでっかいバラの花が咲いててその下に大きな口。そして無数の触手!

まさにビ○ランテ!3階建の家並みにでかい!ぇ、あれどこにいたの?いきなり生えるの??不思議植物?


「先輩、あれなんていうんですか!?」


「あれは、第4級危険種の人食いローズマンテだ!」

おおっ、ランテ成分がちょっと残ってたよ!


「だが、あんなでかいのは見たことない。しかも今は冬だ。

あれは夏の魔物のはずで、大きさも人より少し大きいくらいで色々異常だ!!」


そりゃそうだ!だって、ビ○ランテだもんっ!

デカくなきゃ、ビ○ランテじゃない!!


「どうしますか?あれって討伐できるんですか?」


「普通のローズマンテなら触手を再生能力を上回るスピードで全部切り落とすんだ。

そうすると、バラの花が枯れて中から実が出てくるからそれを根本から落とすと退治できる。

だが、あんな高いところの触手をどうやって切ればいいのか。」

キファーはうんうん唸って考える....。


あっ、見てください!あそこに人が触手に捕まってますよ!!と、コンラッドが叫んだ。


「まずいぞ!あの触手を切らないと、食われる!!」


「キファー先輩、とりあえずマンテちゃんの口を閉じさせたらいいんじゃないですか?私、いい考えがあります!!」

アリスンは、荷物置き場にたたたっと走った。


ゴソゴソと木箱を漁ってありったけの唐辛子を出して、更にそれを布に包んでナイフにくくりつける。


「先輩、護衛お願いします。今から4本の唐辛子ナイフをマンテちゃんの口に投げ入れてきます!」


「「「はぁっ?!」」」


全員、何言ってんのって目でみるのやめてくれないかな。頭は正常だ!


「だってあれ魔物でかつ植物でしょ?

っていうことは、農薬が効くんじゃないかと。唐辛子って天然の農薬になるんです!

つまり、うまくいけば死ぬかもしれないし。ダメでも辛さに悶絶でもしてもらえれば、人食ってる暇ないでしょう?いいこと尽くめです!

行きますよ、キファー先輩!どんな魔獣でも倒すって言ったでしょ?

あれは植物ですが、怪獣の一種です。獣になるはず!」


「カイジュウ?何だそれは?というか待て、アリスン!護衛対象が離れるな!!」


キファー先輩は、迫りくる触手をバサバサと払い切って私をちゃんと守ってくれた。

おおっ、先輩ほんとに優秀だったんだね。


右手の指に4本の唐辛子ナイフをセットして、腰を回し背面からおもいっきり振りかぶってぇぇぇぇぇ投げるっ


ギュンっ! とぉりゃっ!!


アリスンが投げた唐辛子ナイフがローズマンテの口に見事命中!やったね♪


「どうだろう?効いたかな?」

アリスンは、じっとマンテちゃんを観察する。


うーん、キファー先輩がうるさい....。

何っ?早く逃げろって?

もうちょい頑張れ、先輩ならできる!

結果を見届けたいからもう少し待機しまーす。


おおっ!ぎゃぎゃッと唸って口閉じましたよ、マンテちゃんが!


「先輩成功しました!とりあえず撤退しましょう!」

アリスンたちは、ダッシュで距離をとった。


視界の端では、私の女王さまマダム・バレンティンが、鞭で触手を掴んでは剣で切って捨てるを繰り返してるのを確認できた。


「先輩、マダム・バレンティンがすごいですよ!見てください!先輩、鞭使えないんですか?」


「使えない!何のために、鞭が必要なのかわからない!」と撤退しつつ触手を斬り捨てながらツッコミをいれてきた。


....全く鞭の素晴らしさが、通じないとは。

それでも健康な男子か、嘆かわしい。やれやれ...


天幕まで戻るとコンラッドが近づいてきた。

「アリスン、ハイこれ。さっき頼まれたものもらってきたよ。

救護所にあった高濃度アルコール消毒液をありったけ持ってきた。

怪我した人の治療したらいい?」


「あ、コンラッドありがとう。それね、マンテちゃんに使うの。」


「「「はぁっ!?」」」


またまたみんなして変な目で見ないでよ。ちゃんと理由があるのよ。


「消毒液も口に入れるのか?ナイフに液体はつかないし、今は口が開いてないぞ。」とキファー先輩が呆れながら苦言をいう。


全く騎士はみんな脳筋だな。


「先輩、マンテちゃんは植物ですよ!

口は1つじゃありません。土の中の根っこにもあります。

なので、根元の土にぶっかけます!!

行きますよ、キファー先輩。ハスウェル、援護お願い!」「お、おいっ!」


キファー先輩とハスウェルとハスウェルの護衛の先輩3人で私に伸びる触手をバサバサと切り捨てていく。


ザシュっ ザンっ ジャキっ

斬撃が飛び交う


ぼたっ ぼとっ ぼたっ

マンテちゃんの触手が落ちる


私は根本に近づいて、ありったけの瓶を根本に向けて投げる!投げる!投げる!


ガシャンガシャンガシャンガシャンっ


割れなかった瓶は、ナイフで


しゅっ


パリンっ 見事に瓶が全部割れた。


「撤収します!」と4人で安全地帯に向かった。



離れたところからマンテちゃんを、観察....

「なあ、なにも変わらないぞ?」と先輩が訝しげに私をみた。


「効くまで時間かかるに決まってるじゃないですか?

土に染み込むのも時間かかるし、根っこからの吸収はどのくらいかかるか流石に不明ですよ。

もう少し観察しましょう。」とアリスンは諭した。


すると、5分くらいすると触手の動きがゆっくりになってきた。

それから10分もたたないうちに、ふらふらと根本から地面にローズマンテが横たわって全然動かなくなった。


「なんで、動かなくなったんだ?死んではいないみたいだが...。」と先輩が不思議な顔をしながら聞いてきた。


「酔っぱらったんですよ。消毒液の高いアルコール成分が根から吸収されて、寝ちゃったんです。

さ、今のうちに100近い触手を斬り落とし尽くしちゃいましょう。騎士見習いの先輩さん達、働いてくださいな。」


騎士科と職員が、黙々と触手を斬り落として、ようやく花が枯れて実がでできた。

根元から実を刈り取ると、みるみるうちに大きなローズマンテは萎れていった。



....長かった夜が、ようやく終わった。うん、寝よう。お休み〜。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る