第579話 トーヴェ

この世の出来事の中には、決して触れてはいけない事柄がある。

その一つがトーヴェだ。


彼女は僕の妻となった。

本人はとてもうれしそうにしているし、お腹に僕との間に授かった命が宿っていて、とても幸せそうにお腹を時折触っている。


それはいいんです。

そこに一片の疑問もありません。

だけどなぜトーヴェが触れてはいけない事柄なのか?


それはオイヴィとの関係。

正確にはオイヴィは嫌がっていて、しかも迷惑そうにしている。

彼女は男が好きな女性だ。その相手は僕なんだけど。


そしてオイヴィは決して百合ではない。


だがどうやらトーヴェは両方共にいける口らしい。


今はオイヴィがお気に入りのようで、僕と過ごしていない時はほぼオイヴィにべったりだ。


これは僕がオイヴィにそれとなく暫くの間トーヴェを監視してとまではいかないケれど、見守っていてほしいとお願いしたからなのですが、だからオイヴィは常にトーヴェの周囲にいるわけで、そこに目を付けたトーヴェが、

「お姉さま♪」

とオイヴィをお姉さんと呼び、そして腕を絡めて密着している。

時々見かけるとオイヴィが助けを求めるような視線を送ってくるけれど、

【ごめんオイヴィ、耐えてくれ。】


と心の中で謝罪しつつ、その場を逃げて・・・・自分で言うのも何ですが、最低な行動。

この埋め合わせは必ず後で・・・・


しかしそれが叶うのは相当後になってしまいました。

何せこの時僕は王都に居る義理の弟、つまりアルノルト国王に呼ばれたからです。


まあすぐにゲートで行き来できるので、問題はないのですが、それに万が一の場合はポチに乗っていけばあっという間なんです。


移動手段は複数持っているべき。



・・・・

・・・

・・


「急な呼びたてをしてしまってすまない義兄。」


アルノルトも最近は貫禄が出てきて国王らしくなった。

だが僕と接する時は駄目だな。

「陛下。衆目があるので家臣として扱って下さい。」


「それはならん!護国の英雄を家臣として扱うなど有り得ぬ!」


そこは差別しないでしっかり対応してほしいんだけど、これに関してはアルノルトは一切譲らない。


「で、一体何の呼び立てでしょうか?」


心当たりはない。

トーヴェの事はアーダとザーラが伝えてくれているはずだし、それに関してはアルノルトは一切関与しない構えを見せていたようだし、なので今更何かを言われても困るんです。

既にトーヴェのお腹には僕との間に授かった子がいるし、それを追放しろとか殺せとか、そう言われたらどう対応すべきか悩んでしまいます。


最悪国を捨てて何処かへ行くとか。

例えば魔大陸?


そんな事を思っていたらアルノルトが、

「魔大陸の事で話をしたいと思ってきてもらった。」


偶然なのか必然なのか、アルノルトの口から魔大陸が出た。

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