第384話 勇者召喚 その4

勇者召喚の儀は、終わった。


そして残されたのは、人であった何かと、血で汚れた広間、そして意識を失ってその場で動かなくなっている王族の生き残りが若干名。


そして、勇者は現れなかった。


「そ、そんな・・・・」


召喚の儀を終えやってくる勇者とその巻き添えの為に待機している人々は、結果に驚きを隠せなかった。


国王の恐ろしいまでの悲惨な死に様、そして国王に近しい王族の、やはり悲惨な死に方。


あの美しかった王妃様が見るも無残な何かに変り果て、立派な魅力あふれる王太子様の変わり果ててしまった姿。

温和ながらもその武勲で兄である国王を支えた王弟殿下の見るも無残な死体。


そして国王の従弟であった巨漢に似合わぬ動きのキレと内包する魔力はグビッシュ王国随一と言われたあの公爵様までもが、あの脂肪の塊だった姿からは想像もできない干からび方。


更にその奥方様で、国王の娘で、公爵に15で嫁いだグビッシュ王国の司法の宝石と謳われたアーダ姫まで・・・・いや待て、まだアーダ様は生きておられる!そしてザーラ姫もだ!

アーダ様が嫁いだ後は、やはりその美貌ゆえに真珠姫と言われ、国王の一番のお気に入りだったザーラ姫も生きておられる!


そしてグビッシュ王国にとって不幸中の幸いだったのが、アルノルト王子の息がかろうじてあった事だろう。

「おおお!アルノルト王子が生きておられる!アルノルト様を最優先に、生存者は皆医務室へ!急げ!」


生存者を医務室へ搬送した後に待っていたのが、国王をはじめ、召喚の儀で犠牲になった人々の埋葬である。

正直とてもではないがあまりにも恐ろしい死に方だったので、敬愛する国王様の死体と言えども、誰も近づけなかった。

だが、このまま放置するわけにもいかず、皆心を殺して死体を回収し、広間の清掃を行った。


・・・・

・・・

・・


翌日、宰相は今後の事を考え、非常に悩んでいた。

この国は王政。

国王を中心に政が行われる。

実質は宰相が中心となるのだが、宰相はあくまで国王の臣下。

国王あっての宰相なのだ。

それなのに、今動ける王族が一人もいない。

国王亡き後、新たな国王となる人物がいないのである。

正確にはかろうじてアルノルト王子が生存しており、本来なら王太子が王位に就くべきだが、王太子も既に鬼籍に入っている。そうなると王族で生き残った男子の中で最年長が王位に就くべきなのだが、その生き残りの男子の中で直系男子は唯一アルノルト王子が生き残ったのみ。

しかも今は意識がない。



どうすべきか・・・・勇者召喚も失敗し、魔王の脅威が眼前に迫っている。

問題がありすぎ、そのどれも解決の糸口が見つからない。


そう思っていると、慌ててやってくる誰かが目に入る。


「さ、宰相閣下!た、大変でございます!」


「な、何事だ!」


「ひ、広間に変化がございます!」


「何?どういう事だ?」


「その、広間が、広間の床に巨大な魔法陣が出現し、輝きだしてございます!」


「わかった!見に行こう!」


宰相はもしや?と思い急ぎ広間に向かう。


通常とは違う方法で行われた勇者召喚。



もしや召喚には時間差があったのでは?


そんな都合の良い話があるはずが、と思いながらも期待をしてしまう宰相だった。

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