第172話 試合の合間に


 次は、オトハさんとベルゲンさんチームと、兄貴とイルマさんチームの試合ですね。


『よろしくお願いします』


「はい、こちらこそ。頑張りましょうね」


 なんか、見た目だけで考えますと仲睦まじいお爺さんとお孫さんと言ったお二人に対し、


「さあエドワル様。ワタシ達、親子の絆を見せる時でございます……」


「誰が親子だ誰がッ!」


「あらあら反抗期でちゅか、エドワル様。昔はママのお婿さんになるなって、可愛らしいことを言ってくれたのでございますが……」


「ありもしねーエピソードぶっ込んでくんなッ!」


 こちらは仲が良いのか悪いのか。兄貴がイルマさんに対してひたすらにツッコミなのかなんなのかよく解らない言葉を連発しています。


 まあ見ていて面白いので、これはこれで良いのでしょう。


「いきます」


 そうこうしている内に、試合が始まりました。サーブはベルゲンさんからです。


 ノルシュタインさんのあれを見た後なので、ベルゲンさんも何か凄いことになるのかと身構えていましたが、至って普通のサーブでした。


 そのまま幾らかの打ち合いが発生し、互いに点を取ったり取られたりしています。


「オトハさん、次は右へ。その後に下がってください」


『は、はい!』


 ベルゲンさんが何やら指示のようなものを出しており、オトハさんがそれに従って動きます。


 そうしてベルゲンさんが放った球を兄貴が打ち返したら、何故かオトハさんの正面に絶好の球となって飛んでいきました。


 びっくりしつつもオトハさんがそれを勢いよく打ち返し、兄貴とイルマさんの間を抜きます。


「お見事です、オトハさん」


『べ、ベルゲンさん。今のは……?』


「なに、年寄の勘ですとも。何となく、あの辺に来るのではないかと思っただけですよ」


 その後も、ベルゲンさんの指示通り動くオトハさんは、やがて次々とショットを決めていくようになりました。


 兄貴とイルマさんも善戦していますが、徐々に点差が開いていっています。


「……試合終了。5-10」


 一進一退かと思われた勝負は、いつの間にかオトハさんとベルゲンさんの勝利となっておりました。


「な、何だありゃ……誰もいねーと思って打ったとこに、いつの間にか嬢ちゃんが……」


「……後半、こちらの動きが完全に読まれていたのでございます。いえ、読まれていたのではございません。もしかしたら、向こうの欲しい所へ打たされていた、という可能性も……」


「ん、んなことできんのか!?」


「い、いえ。ただ、そうとしか思えないのでございまして……」


「ありがとうございました。なかなか楽しかったですよ」


 戸惑っている兄貴達を見つつ、ベルゲンさんはにっこりと笑っていました。


 パッと見そうは見えなかったのですが、兄貴達の反応を見ているともしかしてベルゲンさんも結構な腕前だったりするのでしょうか。


「……ベルゲン殿は、凄い人なのであります!」


 そんな私の表情を読んだのか、ノルシュタインさんが声をかけてきました。私の隣に立ち、いつもの調子でお話されます。


 なお第三試合である、シマオ、アイリスの組とオーメン、バフォの組の戦いは既に始まっています。


「一目では解りづらいのですが、あの方の実力は本物なのであります! ただし、それをあまり見せないのであります! 侮っていると、すぐにやられてしまうのであります!」


 ノルシュタインさんのそのお話に、私はびっくりしていました。


 能ある鷹は爪を隠すと言いますが、そういうのって本当に実力がある方じゃないとできないような芸当だと思います。


 まあノルシュタインさんのように、隠しもしない方もたまにおられますが。


 あと少し、聞いてみたいことが。


「そ、そうなんですか……ところでノルシュタインさんとベルゲンさんは、同期とおっしゃっていましたが……」


 そうです。私が聞いてみたいのは、ノルシュタインさんから見たベルゲンについてです。


 私からしてみれば頼りになる大人、というイメージのベルゲンさんですが、同じ目線からの彼は一体どういう風に見られているのか。


 以前、オーメンさんに、あの人は軍の中でも相当の難物だから気をつけろ、と言われたこともあって、少し気になっていました。


「はい! 私とベルゲン殿は第百二十一期生として共に陸軍に入ったのであります! あれから時が経ち、戦死者も幾名かおりましたので、今では数少ない私の同期ということになります!」


 威勢のよい声で、ノルシュタインさんは話し始めました。

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