第171話 飛球トーナメント開幕


「……さて皆さま。クジは引かれましたでございますでしょうか?」


 イルマさんのその言葉に、皆さんは頷きました。


 クジですが、せっかくこれだけ集まったのだから、何か勝負をしようとマギーさんが言い出しまして、男女混合飛球ダブルストーナメントを行うことになりました。


 ちなみにイルマさんの出した題名は、「温泉宿で男女入り乱れての淫らな飛球大会! 気になるあの子とくんずほぐれず!?」と高らかに宣言しておりましたが、ほぼ全員から華麗にスルーされました。


 ほぼ全員というのも、実はバフォさんだけが、「あら、良い題名じゃないの!」って言ってイルマさんと握手をしていたので、馬の合う人は世界の何処かにはいるものなんだと、世界の広さを実感しました。


 私たちは全員で十三名ですが、フランシスさんが「面倒だから絶対やだ」と言って聞かないので彼女を審判にして除き十二名。


 なので二人組を六つ作り、これで一回戦を行って三組を選出。その中でじゃんけんして一組だけが決勝へのシード権を獲得。


 残り二組で決勝戦進出をかけて戦い、勝ち残った組とシードで出た組とで決勝。その結果でもって優勝を決めることになりました。


 優勝賞品は、この宿で振る舞われる一番高い夕食のフルコースの食事券です。元々バフォさんが会社で当ててきた中にあったものですが、「せっかくだからこれを景品にしましょう!」と彼が快くオッケーしてくださったので、晴れて景品となりました。


 ここの旅館のフルコースは、山の幸とお肉を駆使した豪華なもの。これは是非味わってみたいものです。頑張りましょう。


 そして、気になるクジの結果ですが。


「よろしくお願いします」


「はい! お願いするであります、マサト殿ッ!!!」


 私はノルシュタインさんとチーム組むことなりました。他のチームはと言いますと。


「ワタシとエドワル様が一緒になるなんて……やはりママとの絆は固いものなのでございますね」


「不正だー! 誰か変わってくれー!」


 兄貴とイルマさんのチーム。


『よ、よろしくお願いします……』


「はい。頑張りましょうね、オトハさん」


 オトハさんとベルゲンさんのチーム。


「やりますわよウルリーカ!」


「オッケー、マギーちゃん」


 マギーさんとウルさんのチーム。


「やっぱりワタシ達、運命の赤い糸で結ばれてるのね。ダ、ア、リ、ン」


「ヘルプ! ヘルププリーズ!」


 バフォさんとオーメンさんのチーム。


「ちょっとウチの旦那よ! シマオ君も何か言ってよ! 貴方のお父さんでしょう!?」


「いやその、ワイ的にもまだ割り切れてない部分があるっちゅーか……ほら、ワイ未だ、思春期やし……」


 アイリスさんとシマオのチーム。以上、六チームとなりました。


 なお、クジは公平に行われたとイルマさんからの発表がありましたので、チームメイトの交換は禁止とのことです。


 二名ほど露骨にガッカリしていましたが、まあ些細なことでしょう。


「……じゃ、さっさと一回戦やるわよ」


 やる気のなさそうなフランシスさんに促されて、早速試合開始です。


 まず最初は、私とノルシュタインさんチームと、マギーさんとウルさんチームの試合からです。


「いくでありますッ!」


 まずはサーブから。サーブは下から打つことしか認められていないので、これを放ってそれを相手が打ち返してきてからが勝負ですね。


 この競技は初めてですが、そんなに難しそうではありませんので、私もできるだけ頑張ってみましょう。


 そんな私の意気込みを他所に、ノルシュタインさんが威勢のよい声と共にサーブを放ちます。


「「「……えっ?」」」


 放たれたピンポン玉のような小さく軽い球は孤を描きながら急速に加速し、受け手であるマギーさんの元にいったかと思うと、あっさりと床に落ちました。


 彼女が遅れてラケットを振るいましたが、それは虚しく空を切って終わります。


 一体何が起きたのか。マギーさんにウルさん、そして同じチームである私ですら首を傾げてしまいます。


「1-0」


 フランシスさんがやる気ない声で点が入ったことを教えてくれました。ちなみに試合は、十点先取で勝ちとなります。


 いやそれよりも、さっきの高速サーブはなんですか? それを誰か説明してください。


 下から打ったのに、あんな速度が出るものなんですか?


「こらこらノルシュタインさん。先ほどのオーメンさんを相手にするんじゃないんですし、何よりこれはお遊戯だ。互いに楽しめないのは、いけませんなぁ」


「そうでありますねッ! ベルゲン殿の言う通りであります! 私、ついつい何事も本気で取り組んでしまう癖があるのであります! 熱くなってしまったのであります! 皆さま、申し訳ないのであります!」


 私たちが呆気に取られているとベルゲンさんからそう忠告が入り、それに頷いたノルシュタインさんが九十度に近いくらいに頭を下げました。


 その謝罪に応えた私たちはとりあえず仕切り直しをしましたが、


「ハッ、でありますッ!」


「うわっ!」


 ノルシュタインさんの容赦のないカーブショットがウルさんを襲い、


「ここッ、でありますッ!」


「と、届きませんわッ!」


 コートの角を狙った精密なショットがマギーさんを襲い。


「……試合終了。10-0ね」


 フランシスさんのコールで我に返った時には、気がつけば試合は終わっており、私たちがストレート勝ちをしていました。


 いやあの、私、自分のサーブの時くらいしか球を打っていないのですが、あの。


「ありがとうございました、でありますッ!」


「こ、これはもう、悔しいとかそういう問題ではありませんわ……」


「う、うん。あそこまでやられちゃうと、もう運が悪かったとしか思えないよ……」


 試合後に礼儀正しくお辞儀をしているノルシュタインさんでしたが、マギーさんとウルさんはもう、その、なんて言うか、戸惑っていらっしゃるのがよく解りました。


「私の同期がすみません。なにぶん、不器用な方でして」


 ベルゲンさんがフォローを入れていますが、この人、どこでもこんな感じなのでしょうか。


 物事に真剣に取り組むことは悪いことではありませんが、その、えっと、みんなで楽しもうっていう空気は読んでいただきたいですね、はい。


「さあ、さっさと次の試合するわよ」


 あくび混じりにそう言ったフランシスさんに促されて、次の試合が始まります。

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