第167話 温泉を楽しもう


『もう! お母さんのばかッ! ばかッ!』


「お、落ち着いてよオトちゃん……怒る気持ちは解るけどさ……」


 わたくし達は今、旅館の一押しである露天風呂付きの大浴場に入る為に、脱衣所でいそいそと服を脱いでおります。


 あの後。何故か旅館の廊下をタオル一枚で歩いていたフランシスさんを、オトハがこってりと叱っていましたわ。


 ただ、お叱りを受けた彼女の様子が何も変わっていなかったので、暖簾に腕押しだったような気がしますが……。


 珍しく本気で怒っているオトハを何とかなだめつつ、お母様であるフランシスさんには部屋にあった部屋着を渡して、それで帰すことができました。


「……素晴らしい方でしたでございます。あんな肢体を間近で見ることができるなんて……ワタシはモーレツに感激と共に、目と股を濡らしているのでございまヘブッ!?」


「そこの駄メイドはわたくしが後ほどしっかりと指導しておきますので、ご容赦くださいませ」


 ちなみに上記のような言葉を抜かして盛りだしたウチの駄メイドがうるさかったので、気絶させて部屋に放置して来ましたわ。


 お嬢様の肢体をワタシがお洗いさせていただくのでございますこの日をどれだけ待ちわびたことか思春期に入ってワタシですら拝見することが叶わなかったお嬢様の肢体を公衆浴場という場で合法的に目に入れることがハアハア、とか言っておりましたので、当然と言えば当然ですけどね。


 今脱衣所には、他に利用されている一般の方々を除けば、わたくしとオトハ、そしてウルリーカしか知り合いはおりませんわ。


「……まあ、あれだけ怒りましたら、お母様も解ってくださることでしょう。それよりも、今は温泉ですわ! ゆっくりとつかって、日々の疲れと嫌なことをお湯に流そうではありませんの!」


『……そう、だね。うん。ゆっくり入って、忘れちゃお』


「そうそう。せっかく来たんだしさ、ヤなことは忘れて、ゆっくりしよ~よ」


 そうしてタオルを巻いたわたくし達は、お風呂場へと続く扉を開けました。中には大浴場の名に相応しい、数々のお風呂が。


 大浴場のメインとなる大きなお風呂場に、何かの薬草を染み込ませた薬草湯。水流で身体のコリをほぐしてくれる風魔法入りのジェット風呂に、雷の魔法が付与されたお湯のある電気風呂。サウナに水風呂まで見えますわね。


 そして外へと続く扉の向こうには、ここの一押しとなる露天風呂の温泉が湧いております。


「うわ~、広いね~。どれから入ろうかな?」


『まずはメインの露天風呂の温泉に入ろうよ。天然のものだって書いてあったし』


「決まりですわね!」


 三人でかけ湯をしてから、わたくし達は他の方々の邪魔にならないように外に出ましたわ。


 うう、寒い。タオル一枚で、外に出ると、身にしみる風ですこと。


 どうやら中とは違って、露天風呂にはわたくし達以外はおりませんでしたわ。貸し切りですわね!


 わたくしは逸る気持ちを抑えつつ、足先からゆっくり温泉に浸かります。


「あッ……あああっ……し、染み込みますわぁ……」


『んッ……気持ち、良いね……』


「ァハ……ハァァ……良いお湯~……」


 わたくしに続いて、他の二人もたまらずに声を漏らしましたわ。


 このポカポカのお湯が身体の芯まで温めてくれそうな、気持ちの良いお湯。


 冷たい風が顔に当たるのも、逆に温泉の温かさが引き立つような感じがして良しですわ。


 少し眠気も来たのか、わたくしはとろんとしてきた目を閉じて、じっくりとその温度を楽しみます。


 は~、疲れがお湯に溶けていくみたいで、たまりませんわ~。


『良い、ね。温泉……って……』


「こんなお風呂が近場にあれば……な……」


 ゆっくりとお湯の感触を楽しんでいたら、お二人が急に言葉を切りましたわ。


 一体どうしたのだろうと目を開けてみると、二人が揃ってわたくしの方を見ていましたわ。どうかしたのでしょうか。


『う、浮いてる……ッ!?』


「う、嘘でしょ……都市伝説だと、思ってたのに……」


「……ああ、これですか?」


 お二人が見ているのが、わたくしの立派な胸であるということが解りましたわ。わたくしからしたら日常茶飯事のことなのですが、そんなに珍しいのでしょうか。


「お風呂に入ると勝手に浮いてくれるので、肩が楽なのですわ~。重たいものからの開放感といったら……」


「……失礼」


 わたくしが喋っている途中に、ウルリーカが近寄ってきましたわ。そして手を伸ばしたかと思うと、わたくしの胸を下から持ち上げるように触ってきます。


「お、重……柔らか……」


『わ、わたしもちょっと……』


 今度はオトハも手を伸ばしてきました。オトハの手はウルリーカより小さいので、わたくしの胸で埋まってしまいそうになっておりますわ。


『お、重……すべ、すべ……』


「そうなんですわ、これホント重くて……わたくしの抜群のスタイルも、苦労ばかりなのですわ……」


 わたくしが苦労話をしようとしたら、お二人は自身の胸に手を当てて何やら呟いていましたわ。


『わたしには将来があるわたしには将来があるわたしには将来がある……』


「だ、大事なのは形だもんね。お、おおお大きさだけじゃ……」


「二人とも何をおっしゃっておりますの?」


 よく解らない言葉で自分を慰めているように見えますが、わたくしの気のせいでしょうか。


 それよりも。


「わたくしばかり触られるのは不公平ですわ! そちらのも触らせなさいな!」


「うひゃあ!」


 手を伸ばしたわたくしが掴んだのは、ウルリーカの胸でした。おお、手に少しだけ余る程よいサイズ、良い感触ですわ。


「良いさわり心地ですわ~」


「ち、ちょっとマギーちゃん、激し……あンッ!」


『ほんとに~?』


「お、オトちゃんまで!? ち、ちょっと待っ……ンンッ」


 オトハが加わった今。わたくしが狙うのは他の部位ですわ。結構前からずっと触ってみたかったウルリーカのあそこも、今なら!


「ついでにモフモフの尻尾も堪能ですわ! あぁ、これですわ、ずっとモフってみたかったのですわー!」


「ふゃぁあああっ! だ、駄目だって、尻尾は……」


「そ、し、て。オトハの耳もですわー!」


『ひゃんッ!』


 ついでに狙うは尖ったオトハの耳ですわ。おおおっ。思ったとおり、ふにふにですわー。


『み、耳なんて触っても面白くないよ』


「それを決めるのはわたくしですわ!」


「お返しだよマギーちゃん!」


 すると手が空いたウルリーカが、わたくしの胸を掴んできます。


「散々人の尻尾をおもちゃにしてくれたからね。今度はボクの番だよ」


「いや~ん、ですわ。それならわたくしも、オトハの慎ましやかなお胸を……」


『ンンンンッ! さ、先っぽはだ、駄目……ッ!』


 こうしてわたくし達は、ゆっくりするのか遊んでいるのか解らない感じで露天風呂を堪能しましたわ。


 その後、その他のお風呂にも挑戦してみたのですが、


「し、しびび、痺れびれますわわわわ~……」


『む、無理しちゃ駄目だよマギーさん!』


 電気風呂ではわたくしが音を上げ、


『た、たすけ、とば、飛ばされ……』


「オトちゃんにジェット風呂はまだ早いって~ッ!」


 ジェット風呂ではオトハが飛ばされそうになり、


「ハア、ハア、あ、あづい~……」


「ウルリーカ、耳までヘタってますことよ……」


 サウナではウルリーカがダウンしましたわ。


 様々なお風呂を堪能したわたくし達は、最後にもう一度露天風呂の方に来ました。全員で温泉に肩まで浸かり、疲れを癒やしていきます。


「『「あ~…………」』」


 特に変なこともありませんでしたし、素晴らしいものでしたわ!


 まだまだ日程はありますし、ここに居る間は温泉を存分に満喫させていただきますことよー!

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