第86話 イベントの後、二人で③


 寝ちゃったかな。うん、寝てるみたい。ほっぺたぷにぷにしても、全然反応しないし。


 フフフ。無防備な寝顔、可愛いなあ。


 マサト。さっきも言ったけど、わたし、貴方に会えて、本当に嬉しかったんだよ。


 貴方がいなかったら、わたしはどうなってたか解らない。何の得もないのに、必死でわたしを助けようとしてくれた貴方。


 貴方はわたしの初めての人。


 わたしを心配してくれて、助けてくれて、一緒にいてくれる……わたしの大切な人。


 さっき貴方は、わたしに会えて嬉しかったって言ってくれた。それを聞いて凄く、凄く嬉しかったよ。


 わたしが貴方に会えて嬉しかったのと同じで、貴方もわたしに会えて嬉しかったって。わたしと同じ気持ちでいてくれたんだって解って、凄く嬉しかった。


 きっとそれは本心だと思う。貴方は嘘をつくのが下手だから。気取って、カッコつけようとして、思いつきでそんなセリフが言える程、貴方は器用じゃないもんね。


 だからきっと、急にお返しだアルバイトだって言い出したのも、何か訳があるんでしょ?


 内容までは解らないけど、きっとそうだと思ってる。また何かバカなこと、しちゃったんだろうなって。


 大丈夫だよ、これ以上聞いたりしないから。でももし、自分じゃどうしようもないのなら、遠慮なく言ってね。力になるから。


 バカな貴方。貴方の周りには、魅力的な女の子が一杯いるよね。


 そんな女の子が一杯いる中で……貴方はわたしのこと、どう思っていますか?


 最初はマギーさんが怖いかなーって思ってた。けど、マギーさんのスタイルを見てニヤニヤしてる以外は何もないし。


 意外と大丈夫かなって思ってたら、なんか変な勘違いされてマギーさんがほの字になっちゃって。本当に、どうする気なの?


 それに、最近はウルちゃんがグイグイ来てる。ウルちゃんとは一回話したけど、その時にわたし、こんなこと言われたんだよ。


「オトちゃんもおそらくそうなんでしょ? 悪いけど、ボクもなんだ。そっちも色々あると思うけど……ボクだって、諦める気はない。だから、ボクからオトちゃんに言うのはこれだけ。

 ――負けない。渡さない。マサトはボクが射止めてみせる……ってね。宣戦布告だよ」


 真っ直ぐにわたしの目を見て、そう言われちゃった。


 だから、わたしも負けないよ。だってわたしも、貴方の一番になりたいの。


 何があったのかは詳しくは知らないけど、本気の様子のウルちゃんを見たから、わたしも負けていられない。


 他のみんなには悪いかもしれないけど……わたしの一番大切な人は、貴方だから。


 だからね。わたし、頑張るよ。貴方に一番に振り向いてもらえるように、一生懸命頑張るよ。


 頑張ってみせるから、ちゃんとわたしを見ててね。他の人ばっかり見てちゃ嫌だよ。


 ……恥ずかしいから、まだ言えないけど。わたしは本当に、本当に貴方のことが……。


「…………」


 わたしは両手を使って、寝ている貴方の上で小さいハートマークを作った。


 声を出せないわたしが、貴方にこの想いを伝える唯一の方法。貴方に見せるのは、まだ先になるかもしれないけど。


(今は、これが精一杯……あと、もう一つ……)


 その手を崩して、わたしは右手で髪の毛が邪魔をしないようにかき上げながら、ゆっくりと寝ている貴方のおでこに顔を近づけて。


(……これは、頑張ったマサトへのご褒美)


 そっと、おでこに口づけ。頑張ってくれてありがとう。お疲れ様でした。そしてこれからもよろしくね、マサト。


 叶うなら、いつか……わたしだけを見てね。

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