第73話 だから、君とは付き合えない
アクセサリーショップから出て、もう夕方のいい時間なので帰ることにした。
そのことを辰巳君に伝えると、家まで送ってくれるって言ってくれたけど、あたしは徒歩で結構近い方だし、それにさっき星夜からメッセージが来てたのに気が付いて急いで返信したら、星夜はスーパーで買い物中らしいので、せっかくだから一緒に帰ることにしたので、お断りした。
えへへっ‥‥‥家に帰るまで会えないと思ってたけど、ちょっと嬉しい誤算!
でもま、直ぐにバイバイってするのは、さすがに何時間もお買い物を付き合わせちゃった辰巳君に悪いと思ったから、代わりにあたしが駅まで送ることにした。
それに、なんだかアクセサリーショップを出てから、口数が急に落ちてちょっと心配だしね。
まぁ、理由はなんとなく分かるけれど。
「みぞれさん、その‥‥‥ミサンガを作って送る相手ってさ‥‥‥」
「あ~、うん‥‥‥もう気づいてると思うし、隠してもしょうがないから言うけど、あたしの想い人だよ」
「そっか‥‥‥その人が理想の人なの?」
「まぁ、そうだね。辰巳君に聞かれて、本気で考えたら出てきたのがその人だった」
「あはは、最初から勝算なんてなかったんだなぁ‥‥‥」
もうすぐで日が沈む夕暮れ時、辰巳君のつぶやきは駅前の行きかう人の騒音に紛れて消えていく。
横目で辰巳君を伺えば、吹っ切れたって感じの顔じゃなく、すごい悲観にくれてるってわけでもなく、なんだかうまく言えないけど、ただただその現実を噛みしめるような表情をしていた。
う~ん‥‥‥気まずい。
何を言えばいいのかわからないし、こんなにも本気で告白されたことは久しくなかったから。
そこらにいる、数うちゃ当たれの有象無象みたいな人なら、サラッと返してまた普通に仲のいい友達に戻れるんだけど‥‥‥。
「えっと、もっと自信を持とう! 辰巳君、女子から人気高いんだから、あたしじゃなくたって恋人くらいすぐできるよ! 例えば、隣の雪とか! あの子、たぶん辰巳君のこと——」
「そういうのはいいから」
ちょっと強めの声で、止められる。
「‥‥‥ごめん」
確かに、咄嗟に出てきたこととはいえ、今のは良くなかったかも。
さらに気まずくなって、少しだけ歩くスピードを上げる。
駅の改札まではもう少し。
「その人の誕生日っていつなの?」
「うん? 来週の金曜日」
「あれ? それって、みぞれさんと同じ?」
「そうだよ、というかあたしの誕生日知ってたんだね」
「うん、雪さんから聞いて」
「そっか」
また会話が途切れる。
あたしはもっと歩くスピードを上げた。
改札まであとちょっと。
「その人の名前を聞いてもいい?」
「うーん、まぁ別に隠してないしね。たぶん知ってると思うけど、宵谷星夜って人」
「あぁ、あの人か。月姫の‥‥‥」
「そう、その人」
ちなみに月姫とはだれが呼び始めたのか月菜のあだ名で、なかなか的を射てると思う。
今は月菜とあられとしぐれが三人だけだし、今頃何してるかな?
意図的にそういうことを考えて‥‥‥やっと改札に着いた。
「じゃあ、また学校で——」
「みぞれさん、その人のこと、好きなの?」
ばいばいを言い終わる前に手を引かれて、被せるように聞かれた。
あぁ、もう、これじゃあ逃げられないじゃん‥‥‥。
でも、問いかけてくる辰巳君の目は本気で、だから今一度真剣に考える。
——大狼みぞれ、お前は宵谷星夜が好きか?
「うん、大好き——」
「——だから、君とは付き合えない」
辰巳君の目を見て、拒絶する。
ちくりと胸が針に刺されたように胸が痛い。
「うん、それが聞きたかった。みぞれさんの飾った言葉じゃない本音、別にあの三連バーストも嘘じゃないんだろうけど‥‥‥うぅ‥‥‥。ま、まぁ自分のせいなら、それを直したらって希望を持っちゃうけど、自分ではどうしようもないことなら、逆に吹っ切れるってものだよ」
そう言って、辰巳君は改札をくぐってく。
「でも、それで諦められるかどうかは別なんだけどね」
「えー、ちゃんと諦めてくれないと困るんですけど!」
ちょっとちゃかすようにそう言って、お互いに「あはは!」って笑い合う。
よかった、どうなることかと思って逃げ出しそうになったけど、辰巳君とはこれからも友達でいられそうで。
あたしは今まで、これからの関係がギクシャクしないよう、相手に合わせて断り方を選んできた。
たぶん、辰巳君はあたしの考えを見抜いてたんだろうなぁ‥‥‥それか、本当にただ諦めが悪いだけか‥‥‥馬鹿みたいに硬いダイヤモンドメンタルなのか。
でも、まず間違いなく言えるのは、この人は強い人だ。
星夜がいなかったら、結構よかったかも。
まぁ、自分から振られに来ようと思うなんて変わってるけど。たぶん、星夜とは別ベクトルで生真面目なんだろう。
「じゃあ、僕はもう行くよ。みぞれさんも気を付けて帰って!」
「うん、辰巳君、今日はありがとね! 結構楽しかった! あんまり使えなかったけど」
「——カハッ!? ‥‥‥そうだよね、僕なんか猫の手にもなれないくらい使えない人間だよね‥‥‥」
うん‥‥‥やっぱり辰巳君、キャラ変わったな。
‥‥‥見なかったことにするか。
とぼとぼと駅のホームに向かってく辰巳君を見送ってあたしも家路につく。
それにしても、ただ適当に振るんじゃなくて、本気で告白をお断りするのってなかなかきついや、特にそこそこ仲のいい人だとなおさらだと思う。
でもそれは、真剣に‥‥‥かなりガチで考えたからで。
星夜は、あたしが告白したら、それくらい考えてくれるだろうか? 仮にもし振られるとして、その時星夜は心を痛めてくれるかな?
うーん、流石に誕生日の時にする予定の告白を、いつもみたいに「はいはい、俺たち幼馴染だからなー」みたいに、袖にされたら泣きたくなるけど。
まぁ、その時は辰巳君を見習って、しつこく行こう!
そんなこと考えながら、ちょっと疲れたあたしは星夜に寄りかかりながら帰る。
星夜の方も、あられとしぐれの相手をして疲れたのか、あんまり覇気がなくて。
でも、たまにはこうやって静かに帰るのもいいかななんて思ってた。
——星夜が、勘違いをしているなんて気づかずに。
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