第72話 誕生日プレゼント
あたしは辰巳君を引きずって駅に隣接されてるショッピングモールまで来た。
「それで、大狼さん。買い物って何を買うの?」
「う~ん、実を言うと決めてないんだよねぇ」
あたしが買いたいものは星夜の誕生日プレゼントなんだけど、色々ネットとかで探して見ても星夜が欲しいものが分からないし、それならもう自分の目で見て探すしかないと思ったわけだ。
だから何を買うかは未定。
せっかくプレゼントするんだから、喜んでもらえるものがいいけど‥‥‥まぁ、星夜が確実に喜んでもらえるものって、あたしが思いつくのだと蒸気ポットとか、油がこびりつかないフライパンとか‥‥‥なんかもう、ほんとにこれ? って感じのばかりだし。
それっぽいものだと、服とか腕時計とか財布とかあるけど、こういうのって星夜は自分で見つけてくるから、あたしがあげてもあんまり意味がない。
まったく、家事完璧で身に着けるものとかにも気を使えるのは良いところだと思うけど、こういう時は困りものね。
ということで!
「はい! 欲しいものは何ですか?」
「はいっ!? 欲しいものって僕が!? え、えーっとそうだなぁ‥‥‥大狼さんにもらえるものならなんでも嬉しいよ」
「はいはい、そういうの良いから。誕生日にもらって嬉しいものだよ」
「誕生日? 僕まだ、誕生日は先だけど?」
「うん? 誰も辰巳君の誕生日プレゼント買うなんて言ってないよ、今度幼馴染が誕生日だから参考にしたいの」
「‥‥‥‥‥‥そうだよね‥‥‥大狼さんが僕なんかの誕生日を祝ってくれることなんてないよね‥‥‥だって、興味ないって言ってたし‥‥‥」
あれ? お~い! そんな隅っこでうずくまってどうしちゃったんだい?
なんかよくわかんないけど、辰巳君が暗い影を出し始めてしまった。
辰巳君、あんなキャラだったっけ? もうちょっと自信家みたいな感じだった気がするんだけど‥‥‥まぁ、いいか。
「しょうがない、とりあえず一回フロアを回ってみるか‥‥‥ほら! 辰巳君行くよー!」
「興味ない‥‥‥興味ない‥‥‥あ、はい」
案内板を見てたあたしは、辰巳君を呼び戻して、ウィンドウショッピングを始める。
それにしても‥‥‥。
「その『大狼さん』って言うのやめない? ほら、あたしのお父さんが学校の校長先生だから、なんか嫌なんだよね。だから、みぞれでいいよ?」
「え? いいの? ごほんっ、じゃあ‥‥‥みぞれさん?」
「うん、やっぱそっちの方がいいね! そっちのクラスに行ったら話さない仲じゃないんだし」
「おぉ‥‥‥みぞれさん‥‥‥」
前々から気になってたことを言うと、さっきの沈んだ雰囲気はどこへやら、口になじませるようにあたしの名前を連呼して、なんか鼻歌まで歌いだした‥‥‥なんだコイツ。
「ん~、なかなか『これだっ!』 って言うのが見つからないなぁ‥‥‥」
すでに数店舗巡ってるけど、ピンっとくるものが無い。
定期入れは‥‥‥普段交通機関なんて使わないし、スマホケースは‥‥‥星夜はケース使わない派だしなぁ。
「そうだ、みぞれさん。香水はどうかな? 去年、親戚のおじさんにもらったんだけど気に入っていてね。値段もお手ごろだし、贈り物としては結構良いと——」
「あ~、だからいつもオッサンみたいな臭いするんだ、香水はパスかな~」
「‥‥‥お、オッサン」
「あたし香水ってあんまり好きじゃないんだよね~」
「——ぐはぁっ!?」
オオカミだから鼻が良いっていうのもあるんだけど、あたしは強い匂いとかはムリだ。
それに、星夜のナチュラルな香りが好きなのに、それを上書きするとか言語道断すぎる。
「うぅ‥‥‥臭い‥‥‥オッサン‥‥‥そうだよね、僕がいい匂いするわけないもんね‥‥‥」
というか、辰巳君はまた胸を押さえてどうしたんだろう? 暗い雰囲気漂ってるし、また告白の断り文句を引きずり始めた?
まぁ、自分で言っておいてわからなくはないけど。
「いや、待てよ? これは単に僕が高校生なのにちょっと背伸びしすぎたからじゃないか? きっとそうだ! 断じて加齢臭みたいな臭いがするわけじゃないはず!」
ん~? やっぱキャラ変わった? 自分を慰めるような人だったかなー?
‥‥‥あ、もしかして、あたしのせいで自分に自信無くしたとか? それなら、悪いことしちゃったなぁ、辰巳君は普通にかっこよくていい人だとは思ってるし。あたしが興味なかっただけで。
まぁ、自己完結して立ち直ったならいいか。
それからさらに、シューズや文房具、メンズコスメ、雑貨屋って感じに色々回ってみたけど、やっぱりなかなかいいものが見つからない。
一応、香水も見に行ったけど、店に入る前に断念した。無理、臭い。
いつの間にか、お昼からかなり時間が経ってたのか、西日も差し始めたし‥‥‥本当は、早めに決めてあたしも星夜ん家に行きたいんだけどなぁ、あられとしぐれのことも気になるし。
あと、星夜に会いたい。
くっついて、さっき感じたときめきを少しでも分け合いたい。告白のフライングはしないけどね?
そんなことを思いながら、はやる気持ちを抑えて、しっかりと見聞する。もういいやこれでって感じに適当に選ぶことはしない。
大体のお店は回ってしまったため、しょうがないから候補から外してたアクセサリーショップに来た。
星夜はあまり装飾品を好まないんだよね。
前に健星おじさんに、「星夜もそろそろオシャレでもしたらどうだ? 最近の男子は指輪とか付けてるみたいだぞ、父さんが買ってやろうか!」って言われてたけど、「そういうのはいらないよ、あと邪魔」って冷たくあしらわれてた。可哀そう。
まぁ、でも、家事するときに邪魔になるっていうのは分からなくはないしね‥‥‥きっとあれは、そういうことで、決して健星おじさんの存在が邪魔って言ったわけじゃないと思う。だから健星おじさん、「息子にいらない子扱いされた‥‥‥」って、あたしに泣きつかないで欲しかった。
「いらっしゃいませ! 何かお探しですか?」
「あ~、えっと、男性に送る誕生日プレゼントを探してるんですけど——」
お店の中をうろちょろしてると、ショップの店員さんが声をかけて来たので、一応探してるものを聞いてみる。
「ほぉ~、家事男子! もしかして彼氏さんですか? あ、もしかしてあそこのかっこいい人だったり!?」
っと、振り返る店員さん。
そこには、ネックレスを手に取って見てる辰巳君。
うん、流石イケメン。なかなか絵になってるなぁ‥‥‥あ、こっち来た。
「みぞれさん、何かいいのあった?」
「ううん、辰巳君が彼氏ですかって聞かれたから、さっき振りましたって言おうとしてたとこ」
「あ、ははっ‥‥‥そうなんです、さっきボコボコに振られたんです‥‥‥なにか恋愛運が上がるアクセサリーありませんか‥‥‥?」
「え、えっと、それは‥‥‥あっ! ならこちらなんてどうですか? 色によって意味が違うんです! 恋愛関係だと、赤とかピンクですね!」
ちょっと引きつり顔で店員さんが勧めてきたのは、ミサンガだった。
商品の近くにラベルが貼られてて、そこにそれぞれの色の効果が書いてある。赤は情熱・勇気・恋愛、ピンクは恋愛・親愛・協調らしい。
「ミサンガなら、アンクレットにもできるので家事をするときにも邪魔にならないでしょうしおススメですよ?」
ミサンガかぁー、確かに足に付けるなら星夜も違和感なく付けられるだろうし、結構いいかもしれない‥‥‥ん?
どんなのがあるかなって見てると、端の方にミサンガキットなるものを見つけた。
「あの、ミサンガって簡単に自分で作れますか?」
「はい、できますよ! 手作りだと世界で一つ、唯一無二のミサンガになるので、それを大事な人に送る人が多いですね」
手作りかぁ‥‥‥こういうの作るのあんまり得意じゃないけど、星夜はいつも作ってくれたものをくれるし、なによりミサンガは願いを込めるアクセサリーなんだから、買うものより自分で作った方がたくさん想いをこめられそう。
よしっ! 決めた!
「えっと、ミサンガキットください! 流石に、なにもなしに作るのは難しいので‥‥‥」
「作るんですね! 糸は何色にしますか?」
「ん~、赤とピンクと白と水色——はっ!?」
瞬間、今、自分で自爆したことに気が付いた。
「大切な人なんですねぇ‥‥‥」
「え、えっと‥‥‥はい、とってもっ‥‥‥」
気づいたときにはもう遅い。身体がかぁっ! ってなって、どんどん熱くなってくる。
色を口に出して言ったりなんかしたら、どんな意味を込めようとしてるかなんて丸わかりじゃん!
くっ! この店員さん‥‥‥できる! 色を言わせたこともそうだけど、ミサンガを勧めてくる時も『世界で一つ』とか『唯一無二』とか、今のあたしに一番効果的な言葉選びをしてくるぞ‥‥‥。
それから、店員さんがお会計してもらって、その間に軽く店内を見回して見る。
アクセサリーって、普段何気なくつけてるけど、こうしてみるとひとつひとつ、送ることと付けることのそれぞれにちゃんと意味があるんだなぁ。
「えっと、あたしがいつも付けてるこれは‥‥‥へぇ‥‥‥」
「お待たせしました! お買い上げありがとうございます!」
「いえいえ、こちらこそ相談乗ってもらってありがとうございます!」
律儀にお礼を言ってくれる店員さんに、お礼を言い返してあたしは商品を受け取る。
ん~! なんだかんだあったけど、結構いいもの見つけられたかも! 帰ったらさっそく作ってみよう! たぶん、慣れるために練習で何個か作らないといけないし。
一応、さっき口に出しちゃった色以外の色の糸も買ってみたし、せっかくだから家族のみんなにも作ってあげようかな。
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