第51話 キタコレ!



 ◇◇月菜side◇◇



「どうしよう‥‥‥」


 学校から帰ってきて、自分の部屋で私は頭を悩ませてた。


 何に悩んでいるのかというと、星夜が自分の気持ちに気づき始めたこと。


 日に日にみぞれを意識してる度合いが大きくなってる気がするし、だんだんと態度にも出始めてて、これじゃあ気が付くのはきっと時間の問題で、それまでの猶予は決して短くないと思う。


 というか、今の時点でなんで星夜が自分の気持ちに気が付かないのかが不思議くらい。


 ついでにみぞれも、あんなに意識されてるのにどうして恋愛対象にされてないって思ってるんだ!


 まぁ、たぶん未だに15年ずっとそばにいて近すぎる故の思い込みと、自身に対しての鈍さのせいだろうとは思うのだけど。


 だけど、それもこのままだと確実にお互い気が付くはず。


 しかもそのきっかけが私が想いを告げたのがって言うのが解せない!


 というか、星夜の恋愛経験値が低いのも問題! ‥‥‥なんでそうなのかは大体予想が付くけどさー。


 たぶん家事で時間がなかったのと、みぞれが壁になってたからだと思う。


「あ~~~、もう! このままじゃ勝ち目が~~~!」


 私も、あの告白を経て、前よりも意識してもらえてるとは思う。妹扱いされることも少なくなったし‥‥‥というか、そうじゃないと私泣くよ!


 でも、今の星夜の心の中を占めてるのは確実にみぞれだ。常に星夜を目で追っかけてる私だから分かる。


 どうにかして星夜の意識を少しでもいいから私に向けさせてないと‥‥‥。


「う~ん、色仕掛けはよくないし‥‥‥」


 う~んう~んと唸りながら階段を下りてリビングに行くと。


「あ~~~~~」


 グデッとソファーに寄りかかりながら天井を向いて、私と同じくらい唸ってる星夜がいた。


 あんなに悩んでる姿を見るのはこっちに来てから初めて。


 まぁ、今日は朝に私たちの前で星夜の悩みの渦中であろうみぞれが告白されてって感じで色々あったから、それが悩みに拍車をかけてるだろうことは想像に難くない。


「はぁ‥‥‥」


 ちくりと胸が痛んだ。これは良くない、デートの時背中を押してくれたのはみぞれなのに、そのみぞれが恨めしく思えてくる。嫉妬心。


 と、私のため息が聞こえちゃったのか星夜がむくりと起き上がった。


「月菜? あ、悪い。まだ晩御飯作れてないや、今すぐ準備するからちょっと待ってな」


 よく見れば、時刻はもう20時を回ってた。自分でも知らないうちに結構部屋で悩んでたらしい。


 いつもならこの時間は、いい匂いが漂ってお腹が空いてくる頃だけれど、ダイニングキッチンの上にはレジ袋に入った食材が置かれてて、まだ手付かずみたい。


「みぞれは?」


「ん~、なんか今日は家族で外食らしいよ?」


 何も予定が無ければ大体みぞれはこっちに入り浸ってるので聞いてみれば、そういうことらしい。


 つまり今夜は星夜と二人きりの夕食。‥‥‥おや? これ、私にとってチャンスなのでは?


 さっき悩んでたアプローチだけれど、私の明晰な頭脳は瞬時に今の状況を把握し演算を開始する。


 夕食時、しかしまだ夕飯はできておらず、星夜はもろもろの事情で疲労困憊。宵谷家の副コック的なみぞれは今日はいなくて、未だ手付かずの食材たち。そして、悩みはあるけど一応元気な私。


 これは、普段ぐーたらしてる私がおいしい料理を星夜の代わりに作れば少しくらい意識してもらえるのでは? 


 よく、男を掴むにはまずは胃袋からって言われてるし。


 私はチラッとレジ袋の中の材料を確認して、今日星夜が作ろうとした料理を推測する。


「ジャガイモ、ニンジン、玉ねぎ、鶏肉‥‥‥星夜、今日はカレー?」


「ん? あぁ、そうだよ。なんか凝ったもの作れる気がしなくて簡単なものにしようと思ったんだけど‥‥‥なにか、食べたいものでもあった?」


「ううん、そうじゃなくて」


 カレー‥‥‥それなら、普段料理しない私でもできるかも‥‥‥確か、食材切って煮込んでルーを入れるだけって聞いたことあるし。


 かなり美味しく作れれば、ぐーたらな私でも実は料理できますアピールができて、そのギャップを見せつけられる。さらに今の疲れてる星夜にいつも頑張ってくれてるから今日は私がと、健気な妹的カノジョはきゅんとくるはず!


「‥‥‥キタコレ! ——星夜!」


「ん? どした?」


 私が演算を行ってる間、いつの間にか台所に行ってた星夜に呼びかけると、少しだけやつれてる表情を不思議そうにしてる。


 うん、やっぱり下心抜きにしてもたまには星夜にもゆっくりしてもらいたい。星夜の心労の悩みが私の告白が発端ならなおさら。


 ということで。


「今日は私がご飯を作ります! 星夜はソファーでゆっくりしていてください!」


「え? 急にどうした?」


「たまには私が作ってみたいなーって思っただけ」


「う~ん、いやでもそれなら俺も手伝うよ?」


「やだ、私が作りたいの! いいから星夜はくつろいでて!」


「ちょっ、わかったわかった!」


 素早く星夜の後ろに回って背中をグイグイ押せば、観念したのか一応ソファーに戻ってくれた。


 私はさっそく意気揚々とレジ袋の中身を出してく。


 後は、調理道具は何使うっけ? 鍋とまな板と包丁とピーラーと‥‥‥む?


 ふと、視線を感じて前を見ると、星夜がジーっとこっちを見て来る。


「星夜?」


「月菜‥‥‥大丈夫か?」


 どうやら、一人でできるのか心配らしい。まったくカレーくらい作れるってば‥‥‥たぶん。


「大丈夫だから、星夜は向こう向いてて!」


 今度は強めに言うと、星夜はしぶしぶって感じにテレビを見始めた。


 ちなみに、私はさっきも言ったけど普段料理はしない。お母さんと二人暮らしの時はたまにお手伝いしたことはあるけど、自分一人で作ろうとするのはこれが初めて。


 まぁ、でもカレーくらいならできるでしょう! だって、女の子だもん! ※謎理論


 ‥‥‥でも一応レシピくらい調べておこう、うん。




  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る