地獄公爵『生物進化の終焉』は、序章を含め全六章165,000字に及ぶ力作である。形式的には、ネット小説というよりも携帯小説に近いものがある。従って、人物の心情描写・場面の描写・大道具や小道具の描写は稍唐突の感は否めず、読者に負担を強いてしまっていると評せざるを得ない。しかし、始終疾走感があり失速しない、某有名ゲームまた同名映画のような世界観とそれに付随するゲーム小説的な躍動感があり、前述の瑕疵は、本小説の価値を減ずるものではない。更に、日本語を母語としない作者によって書かれたということも考慮に入れた。よって、切磋琢磨し得る原石として評価した。以下は内容についての評となる。
世界観について。実際に出て來る地名から首都圏、殊に山梨県河口湖辺りから長野県中部が物語の舞台になっていることが想像できる。が、銃器が豊富に存在していて、正体不明のウィルスが蔓延していることからも、飽く迄もこれを基とした並行世界と見るべきであろう。
感染爆発(パンデミック)を主題とした小説であって、社会間接資本の崩壊と民衆の避難、劣勢ながらも民衆を守ろうとする者たち、自警団的組織の存在(作中における霸遵会)など、この手の小説の王道的要素がすべて揃っている。
本作は、各章がそれぞれの主人公の一人称視点で構成され、それが次々と切り替わってゆく点が特徴ながら、その為、場面ごとの繫がりや人物の相関を本文から追うのは六ツ箇敷いものがある。何度も行ったり来たりせずとも良いよう、僭越ながら本書評にて整理しておくことにする。これはより多くの読者に本作を見て頂きたいが故である。
僕(天笠紀序) 高校受験を控えた中学生。竹島は先輩。愛知県出身。
竹島スヴィトラナ 日本人とウクライナ人のハーフ。武器の扱い・武術に優れる。天笠は後輩。愛称スヴィタ。東北出身。
加藤一尉 河霜湖の安全地帯の武器管理者。自衛官。指揮官の能登三佐、同僚の女性自衛官沢城三尉と共に避難民を守る。
橋本の兄貴 生活物資を売る商売人。ウィルスによって超人的な視力を得た。通称鷹の目。河井・本田という子分がいる。本田はウィルスにより腕力と柔軟性を得、野球経験も相俟って投石が強力。
平山柚依 避難民。長野県出身。警邏中の竹島と天笠に発見される。ウィルス感染により五感強化の能力を得る。
柴田 医官。平山柚依の看護に当る。
高木 前川村の医者。佐々木看護師は診療所の同僚だろうか。
関重輔 前川村の臨時村長
泉明雄 前川村で出会った生存者。
大久保 曇島村村民。秋羽の父。
前野 曇島村村民。愛称は猿。
鶴岡 曇島村村民。
伊丸 曇島村村民。屈強な男性。