181 密偵

本作品は群像劇です、目線、日時にご注意下さい



2/13 8:00


本日も昨日の天気と変わらずの晴天

チュンチュンチュンチュン、チチチチチと小鳥の囀(さえず)る美しい音色が聞こえる

冬にしては暖かく、穏やかな陽ざしが気持ちの良い朝である


・・・


「いやいやいやいや!ぜんっぜんじゃん、全然なんも無かったじゃん」

喫茶店のマスターが朝からテンション高く見える様な動きをしている


「うるせ~殺すぞ?」

銀髪の少女?は一度悪態を吐いてから手に持った握り飯を口一杯に頬張る

「ん、うまいうまい」


(え、怖い、多重人格なのかな?)


「関所の連中もラボ?じゃったか? そこらにおった人間も普通じゃったしのぉ、あっしにゃむしろ感じ良かった様にも見えたぞ」


「えぇ、確かに何処も指導が行き届いてる感じありましたね 流石と言うか何と言うか」


肩透かしを喰らった感覚が残る中、赤鬼と王子の意見は一致していた様だ

その箸の先、最後の亭主特製ミートボールを狙っていた所までも


「カセン殿もバルも、気を抜いてはダメだ!帰るまでが遠足なのだぞ?」


「4時間くらい前まで寝てたラフィが言う?ってか遠足って言っちゃってるから違うから」


「あ、おお、王国内ではしっかり用心していたぞ!今だって私はこうやってだな!?」

とか言うエルフの手には違う味の握り飯が二つ、しっかりと持たれている


「くふふふ、ラフィも最後の肉団子を狙っとったんじゃろ~がコレはあっしん、、」


「あ!」


「ああうあ」


カセンが言い終わるよりも先に巫女が素手で掴む




一行は王国から東門を出るとしばらく馬車を走らせ、先程館の前に辿り着いた

王国を出てから此処までの道のりでも襲撃はおろか、魔物一匹たりとも出会わないでいるので朝食を取っている所だ


平和でのどかな光景


そう


平和でのどかな光景なのだ


吸血鬼の館と言われていた目の前の建物

想像では薄気味悪い廃墟の様な所を想像していたのだが、何度でも言おう


平和でのどかな光景なのだ


不気味さなどと言う言葉は微塵も無く

かなり大きな建物なのに庭先までしっかりと管理が行き届いている

ガーデニングの事など分からないが門の前、花々に枯れているものが一つも見当たらない

西洋館と言うやつなのだろうか、門をくぐった先には豪華な庭園が見えている




(え?この先の大橋渡ったら『死者の国』だ? ねえわ!あれか?天国的な意味合いか?)

ジンは食べ散らかった容器を簡単に片づけながら食後のコーヒーの準備を始める


「おかしいですね~、このタイミングで来ない訳が無いと思っていたのですが」

従者もディーン王国での空気と打って変わり穏やかな困り顔である

「シエル様、念の為自分だけ先に入って様子見て来ても良いですか?」


(え、なんでそうなっちゃうの!?)


「ぁ? 良いぞ」

巫女は従者を見ずにジンからコーヒーを奪うかの様に受け取る


「良いのかよ!?」

つい声が出た


「シフ殿なら心配ないとは思うのだが、そこは全員で向かった方が良くないだろうか?」


「うんにゃ、少人数での密偵はありじゃろ、ジンもおるしのぉ」

(ヤメテ、そうだけども言わなくて良くない?)


「あ、じゃあ俺も行きますよこの中じゃ面と向かっての戦闘よりはそっちの方が俺向きですし」

(え、待って、またカオスパーティーじゃんこのメンバー!)


「う~ん」

(ほら!シフも一人で行きたがってるから!)


「うぜぇ、何かあんのは分かったからさっさと行って来い、殺すぞ?」

(オーノー)



シエルの一喝で逃げる様に外壁を蹴ってから門を軽々と飛び越えて行く二人

(え、何あれパルクール? ジャッキ〇チェンなの?)


残された俺の運命や如何に!



・・・



(って?あれ?)

「何かって何?」


隣で火傷しているエルフを余所に素朴な疑問が生まれた



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