162 逆運

本作品は群像劇です、目線、日時にご注意下さい



12/14 16:30


「も~!も~!!」


ツインテールを揺らし、カチカチと足を鳴らし、少女が牛の様に唸っている


「も~、やっぱりいないじゃん! も~馬車どうすんのよ~」

少女はぷりぷりとした態度で戻って来た馬車の荷から自分の弁当を取り出す


「あ~あ、どうせならリッツにもっと集(たか)っておけば良かった~ってか連れてくれば良かった?」

あれだけ「いらない」と言っておきながらも最後は自棄(やけ)になり甘い物を注文したのだがジンが作った弁当があるのでメインは食べていない


(みんなで食べる筈だったのにな~)

一人で喋っているのも馬鹿らしくなったのかそれとも飽きたのか、大人しく蓋を開け、箸を進める



むぐむぐ むぐむぐ



(はぁ~  多分、直接戻るよね?、、お弁当もお酒も無いし)


酒は勿論の事、アルの物を除き他の者達の手荷物は無い



むぐむぐ むぐむぐ



(でも、どっちなんだろリッツは戦争なんかあり得ないって言ってた  けどあの人達の言い回し、な~んか気になるんだよな~  ラフィもしっかりやってるのかな、大丈夫なのか、、ん?)



タァン タァン  タァン タァン!



「ぷわぁ! え、、ぇ~?」


思考する少女の馬車からは少し遠く、聞き覚えのある音が響いた


(何? 何?)

意味は無いのだが咄嗟の事に身を伏せながら様子を伺う


しばらくすると森の方から数人が駆け足で出て来る


(くさっ 何、鉄?いや、硫黄(いおう)?の臭い?)

目を凝らし見るのだが四人いる事くらいしか確認出来ず、つい先程来た方角なので王国の方に急いでいるのだというのは分かった


唯一、微かに見えたのは


(なんだろう? 槍? かな)


全員が長物を背負っている


(騎士の人? やっぱりエルフと?  いや~う~んでも人数少ないしな~)


「、、あ」

体勢を立て直し、気が付いた



ひっくり返さなかったのだが



伏せた拍子に、やってしまった



・・・



(ごめん、シエル)



少女は残りの、味の少し減ってしまった弁当をしっかりと平らげ


初の馬車運転に挑む











「良いから、追わなくて良いから」


タイミング悪く?ぎこちない動きの馬車が遠退いてすぐ、狼にしがみつく青年が森を出る


「グゥ! ガァアウ」


「多分、敵じゃないよ 威嚇だった 大丈夫! 当てる気は無かったから」


「ウウゥ グルゥ ウゥ」

その言葉に剥き出しだった牙をゆっくりとしまう


「ちゃんと任務をするのか見られてたのかも、もしかしたら最初から  甘かった」

(それはそうか、フェリスは王の子だ よくよく考えれば、、そう上手くはいかないか)


青年は座り込み、地に尻を着ける


「それよりルイ! ルイは本当に大丈夫なんだよね?」

小首を傾げつつ、不安を隠しながら、小さな子に言い聞かせる様に狼の瞳を覗く


「タブン ワカラナイ デモ アブナカッタシ」


「うん、そうだね、あの場に居たら危なかったかもしれない」


「ダロ?」

その尻尾は横に揺れず、喜びはしない


「、、うん、フェリスの判断は正しかった、良い子だよ良い子」

眉を寄せ、困った顔をしながらも微笑み


狼の頭を優しく撫で、抱きしめる


「キーロ ドコカイタイカ?」


「うぅん、痛くないよ 大丈夫」



(多分、、かぁ)

青年はフェリスに見えない位置で一度眼を擦り、雪のちらつく空を仰ぐ




その脳裏には、瞼(まぶた)の裏には今もまだ



矢の刺さった



涙を流す魔物の姿が張り付いたまま離れないでいる


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