2021年3月23日(赤口)、同24日(先勝)

 緊急事態宣言が21日に解除となり、桜も満開を迎えた週の半ばの2日間で1泊2日の合宿は行われた。

 明衣もりょうも未來もこれに参加し、それは滞りなく、執り行われた。


 それは実に穏やかで、調和に満ちた時間というべきものだった。

 ふだんはやらないレベルでの念入りなストレッチ、丁寧な和音の体感を意識した発声練習、力をこめないハミングから始める声の合わせ――。

 特に10年生への『声を重ねることの一体感の継承』を意識した内容に多くの時間が割かれた。

 普段の放課後の練習では、どうしても楽曲の習得に時間の多くを費やしてしまう。そんな日々の練習とはかなり毛色が異なるものだった。


 そして合宿を無事に終え、施設から最寄り駅への帰り道は、やはり毎度のようにぞろぞろとした集団での移動だった。全員気取らない私服で、不思議な新鮮さがあった。

 ――来週にはいよいよ定期演奏会の本番がある。10年生の間からはその後の春休みにどこかに遊びに行くというような話が聞こえてくる。


 だがその日に限って、りょうはその集団から抜け出すように一人急いで帰っていった。


「――柾目くん、なんかあるの?」

 カバンを担いでかけていく背中を遠くに見て、未來がそんなことを聞いた。

 この帰り道、めずらしく明衣と未來はふたりきりで並んで歩いた。


「ええ、先月くらいから習い事を始めたんです。水曜と日曜に」

「へえ、予備校とか?」

「んー、予備校といえば予備校なんですかねー」

 明衣はそう言葉を濁した。


 直接2人だけで話すのは、2月の頭の昼休み以来である。

 今回は明衣の方から未來に寄っていった。


「ところで、りょうとの事、しばらくこのままでいませんか?」

「3人のうち、誰かの気が変わるまで?」

「そうです。うちら、たぶん受験終わるまでセックスしませんから」


「それはやめてちょうだい。してもよさそうな空気になったらしなさい」

「あいつに聞かせてやりたいわー。……けど、まだ早いって」

「ほんと、そこだけは頑固だね。けど、あなた達には後悔してほしくない。それに、未経験のままわたしに回されてもリードしきれる自信もないし」


 それをきいて明衣はぷっと噴き出す。

「心にもないことを」

「なんか言った?」

「いいえ別に。――先輩、頑張れば押し倒せたんじゃないですか?」

「新宿じゃなくて渋谷でデートしてたらね。あと雨と雷がなければ」


「まじすか」

「まさか。今日みたいに晴れてても多分逃げられてる」

「んふふ、我々の壁は高いですなあ」

「あなたの壁でしょ。わたしはもう当たって砕けたから」

「まあそういわずに、んふ、童貞のままリベンジさせてやる」


「意気込み方間違ってるから。……ちゃんとゴムだけはつけなさいね」

「それだけは大丈夫です。つけなかったら後輩けしかけて殴ってもらいますから」

 舞い散る桜の中、これに未來は声を高くして笑った。

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