2020年11月
さて、アメリカの次期大統領が暴言を吐かない人に決まりつつあった。
そして中旬頃、画期的なcovid-19ワクチンが発表された。
ゲーマーである明衣とりょうにとっては、新型ゲームハードが発売が目立つ話題だろうか。もっとも電気屋の抽選購入権に外れて、入手できない2人にとっては当面は他人事である。
未來の目についた話としては、畑中との間で自分を苦しめ、悩ませ、そして助けとなった緊急避妊薬の市販承認への動きなどがある。
――もっとも可能ならば、今後は若気の至りとして過去のことにしたいシロモノでもある。
それでも初診のクリニックで、とても長い待ち時間を過ごす人が減る。それはそう悪いことではないはずだ。少なくとも未來とって、産婦人科の待合室は、場違いで居辛い場所だったのだから。
――そんな穏やかな日々に爪を立てるように、第三波と呼ばれる感染の波が生じた。
これは国内外を問わぬもので、海外の都市では再び外出制限を行うところも出始めた。
元々covid-19は寒い時期に流行が強まると予見されてきた。それが国内ではまず北海道で的中した。
それに率いられるように、全国で感染者数が増加した。
この時期、東京は小春日和が続いて、最高気温が25度近い日もあった。
それでも東京の感染者数は最多となる500人越えをマークした。
音楽教官室での合唱部員達の茶会の日々は、顧問の間宮先生の判断により再び中断となった。
幸いにして、まだ美星の校内に感染者は出ていない。
だがSNSで『コロナ 学校』などと検索すれば、常に日本のどこかの学校で『感染者が出たから、明日検査を受ける』『クラスが一日休校になった』などという話が流れていた。
11月の下旬になって、ようやく都は再び12月中旬までの大人向けの自粛要請を出した。夜10時以降の飲食店の営業自粛要請である。
健全な高校生にはかすりもしないような要請内容である。
もっとも学校からは『部活の時間を短縮し、極力部外者との接触を控えて帰宅するように』という取ってつけたような指示がでた。
予備校やレッスン通いの12年にも同じことが言えるのか、と誰もが思ったところである。
海外を見ると、クリスマス休暇を安全に過ごすために、という目標のあるより厳粛な姿勢が取られだした。
明衣は変わらず学校帰りにりょうの家に通い、共に学校の課題をこなしている。
未來は受験のための日々に入り、部活に来る日が格段に減った。
合唱部の練習は、毎日放課後1時間程度になった。
学校の部活短縮の指示の影響である。その短い時間で、慌ただしくクリスマスキャロルを練習をした。
比較的簡単な、ほんの数曲である。
例年ならば暖房と加湿器をつけ始めた音楽室で、ゆったりと練習していた曲達である。
明衣は初めてだが、りょうは去年で完全に暗譜している。12年生は去年も一昨年も歌っているから尚更である。
――そんな簡単な曲でも、もしかしたら部として生徒を前にして最後に歌う機会になるかもしれない。
誰かがそんなことを言い出していた。
小春日和にも関わらず、心の底が冷えるような寒々とした日々となった。
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