勇者、女の子の「別に怒ってない」という台詞は怒ってるサインだと聞いた


 ナイーブンが用意してくれた宿の部屋はとても広くて綺麗で、大変快適な一晩を過ごせた。この旅では床で寝たり手押し車で寝たりと寝床に恵まれなかったから、疲れが溜まっていたので本当にありがたい。


 ついでに一人一部屋ずつ与えてくれたおかげで、インテルフィと別部屋になれたことにも感謝だ。


 あいつがいると、ろくに寝かせてくれないからな……無論、非性的な意味で。イタズラに関しても、性的なイタズラなら大歓迎なんだけどな。おっぱい押し付けてくるとか、おっぱい乗っけてくるとか、おっぱいで挟んでくれるとか、おっぱい揉ませてくれるとか。


 ちなみにインテルフィは結局眠らなかったらしく、ナイーブンの部屋で『運命の相手探し』の見学をしてたんだって。


 うん……何も聞かなかったよ。インテルフィが嬉々として話そうとしたけど、全力で止めたよ。『運命の相手探しの方法は人それぞれだから誰かに教えちゃいけないんだ、真似されて先に相手を奪われないように秘密にしておくものなんだ』って必死に適当な説明したら、すんなり納得してくれたよ。元女神といっても人の心についてはまだ勉強中らしいから、言いくるめやすいんだ、あいつ。



 ラクスとパンテーヌもよく休めたようで、待ち合わせ場所とした宿の前にすっきりとした表情で現れた。


 メイクを落として服装も元のローブ姿に戻ったせいで、昨夜のような華はすっかり消えていたけれど、こっちの方がやはり安心する。


 俺に合わせて背伸びして大人っぽくする必要なんてないさ……ありのままが一番、ゆっくりと成長していく姿を見守ってやろう。そしていつか、俺に並ぶレディになればいい。



「インテルフィ様、おはようございます」


「インテルフィ様、おはようございます。エージさん、こっち見ないでください。キモすぎて虫唾が走ります」



 ラクスは俺スルー、パンテーヌは俺ディスと朝から元気がいいな! あーあー、朝日が眩しくて涙が出そうだぜ……。



「これを見てくれます? 昨日、ナイーブンさんのお店の従業員の方にお願いして地図をいただいたんです」


「この地図から、私達なりに奴の隠れ家を絞ってみたんだ。是非インテルフィ様のご意見も伺いたい」



 わー、俺は無言でいらない子対応かぁ……。


 昨日から、一体何が気に入らないのかなぁ? ランジェリー娘に見惚れてたのが、そんなに嫌だったのかなぁ? 年頃の女の子って、扱いにくーい!



「東の方向というと、確かにお二人が印を付けた三箇所が有力そうですわね」



 ぼっちは寂しくて一分と耐えられず、俺もインテルフィの背後からそっと地図を見てみた。


 赤で丸が付いているのは、このオラムラ村から近い順にコラー樹林、カイテンウン洞窟、ニートシ岸壁だ。


 それぞれが離れているため、全部を回るとなると時間を食いそうだけれども。



「ねえ、エージ。あなたはどこに行きたい?」



 笑顔でインテルフィに振られて、俺は面食らった。


 え、何? こいつ、旅行にでも行くような気軽さで尋ねてきたぞ? 意味わかってんのか?



「インテルフィ様、名前も呼びたくないそのゴミの意見など参考にならないと思うのだが」


「そうですよ。くたばっちまエージさんは、インキュバスがどんな種族かも知らなかったクソザコッパゲですよ? 道端に落ちているウン○コに聞いた方が、まだアテになりますって」


「ちょっと、二人共ひどくなぁい!? 俺様の何がそんなにいけないっていうんだよ! モテすぎるところか? イケメンすぎるところか? あぁん!?」



 耐え兼ねて口を出すも、二人は目も合わせてくれなかった。


 何を怒ってるんだよ……全く思い当たる節がないんだから、言ってくれなきゃわかんないよ……。


 ショボーンと重力に任せて落とした肩に、温かな手が添えられた。インテルフィだ。



「だったら、あなた達だけでお行きなさいな」



 俺の肩を抱いたまま、インテルフィは冷ややかに言い放った。



「あなた達は、ご自分達の力ではどうにもできないと考えてエージを頼ったのではなかったの? わたくし達は本来ならば、あなた達に付き合う義理などありませんのよ? 報酬も提示されていないというのに、エージが善意で力を貸しているということをお忘れでなくて?」



 う、うーん……善意、だったかな?


 俺の記憶では、今偉そうに抜かしてる誰かさんが無理矢理ラッチングしただけだったと思うのだが?



「わたくしの意見は、エージの意見です。だってわたくしはエージの所有物ですもの。意見を求められれば、所有者に仰ぐのは当たり前です。それが気に入らないというなら、二度とわたくしに意見など聞かないでちょうだい。失礼にも程がありますわ」



 お、おいおい、インテルフィ、ちょっと言いすぎだろ。


 うわ、どうしよう? すごく空気が悪くなっちゃった。


 あんなに元気いっぱいだった二人が、一気に落ち込んで暗くなってる。朝の光も届かない深い闇に飲まれそうになってるよ。パンテーヌなんか、泣く寸前の顔してるし!



「え、ええと……それじゃコラー樹林にしよう!」



 険悪ムードを断ち切るべく、俺は明るい声で提案した。



「コラー樹林なら、ここから一番近いだろ? いろんな木の実とかありそうだから、食べるものにも困らない! もしハズレでも、ハイキングに来たと思えば美容にいいことしたーって前向きになれるし!? ほ、ほらラクスはおっぱいでっかくて邪魔そうだからダイエットした方が良さげだし、パンテーヌは全体的に発育不良だけど運動することによって成長エネルギーが活性化できそうだし!?」



 二人はやっと俺を見て、それからすぐにインテルフィに飛び付いた。



「インテルフィ様ー! どうしてこんなキモいアホを所有者に選んだんだーー!? 仕方ないとわかっていても、やっぱり受け入れられないー!」


「インテルフィ様、こいつはさすがにどうにもあんまりにも無理です駄目です生理的に拒否不可避です! 頼らねばならないと頭では理解していても、心がどうしても嫌だと叫んで言うことを聞いてくれないんですー!!」

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